change2 初陣
一応三話目になります。色々と説明不足な部分や急な展開があるかもしれませんがご了承ください。
――前回のあらすじ、喋るねこと出会った。
響夜はただ漠然としていた。
「化物と戦えって…。」
黒い猫は頷いた。
「兄はん、これはもう避けられないんですよ。」
「わけがわからない。」
黒い猫は首を左右に振り呆れたように言った。
「今から、説明している時間はないんですよ。」
「時間がないって、まだ昼過ぎで。」
「夜と言っても夕方からです。」
「それでも、三時間ぐらいあるけど…。」
猫は尻尾を左右に振りながら答えた。
「兄はん、そういう問題じゃないんですよ。兄はんはウチがボロボロになってたから手当をするために家に入れたんでしょ?」
「いや、確かにそうだけど…。」
「もし、傷だらけじゃない猫が道にいても家に入れるまでいかないでしょ。」
「でも、それは偶然だろ。俺じゃない誰かが…。」
「偶然だと思いますか?あんな人ごみの中で兄はんだけが反応した。」
「いや、でも…。」
「じゃあハッキリ言いますね。使い魔が一般の人に見えますかね?」
響夜は青ざめた。なぜならば、誰みも見えない猫を心配そうに抱き抱えて歩いていたのだから。
「完全に頭おかしいやつじゃん。俺。」
「安心してください兄はん、そこまで人間気にしてませんって。」
「それもそれで嫌だな。」
黒い猫は目を細めて
「兄はん、お腹がすきました。」
「お前、自由勝手すぎるだろ。」
「いやいや、使い魔もお腹が減るんですよ。ちなみに雑食です。」
響夜はしぶしぶ冷蔵庫にあった豆腐を取り出した。
黒い猫はそれをガブガブと食べている。
「なあ猫、なんで使い魔なのにボロボロになってたんだ?」
黒い猫は豆腐を食べ終わり満足気な顔を浮かべる。
「それはですね、ウチが増幅装置だからですよ。」
「増幅装置?」
「そうです。後天性の魔法使いは増幅装置がないと微弱なんですよ。」
「ちょっとまて。後天性?じゃあ、先天性がいるのか?」
黒い猫は首をかしげて
「言ってませんでしたっけ?」
「聞いてねえよ。」
響夜は大きな声を上げた。
「この世には二つの魔法使いがいます。一つは先天性の魔法使い。もう一つは後天性の魔法使い。前者は生まれつき魔法が使えます。年齢を重ねるにつれ強力になってきます。だいたい高校生ぐらいがピークだと聞いています。」
「聞いていますって…。お前使い魔じゃないのか?」
黒い猫はやれやれといった感じで
「使い魔は基本的に後天性にしか憑かないんですよ。」
「憑くって、表現もう少しないのか。」
「イメージですよ、兄はん。」
「魔法使いはあと何人ぐらいいるんだ。」
「兄はん、魔法使いの人数が充実してたら頼みませんて。」
「それも、そうだけど。」
「さあ、兄はん。夕方になる前に『誓約』を。」
黒い猫は右手を伸ばす。
響夜はおずおずと黒い猫の右手を握り目を瞑る。
「兄はん、心を落ち着かせて自分の心に素直になって…。」
黒い猫が静かな声でいった。
響夜は目を開けて黒い猫を見る。黒い猫はまっすぐな目で響夜を見ていた。
「完了です、兄はん。」
響夜は肩を落とす。
「めっちゃ疲れたんだけど。」
「そりゃそうですよ。兄はんの魔力の何パーセントかをもらいましたから。」
「魔力?」
「はい、人間には少しながら魔力が眠っています。先天性の場合はその魔力が強いですよ。後天性の場合は無理やり引き起こし、本人の体に負担が掛からないように何パーセントかを使い魔が吸収するんですよ。」
「もし、吸収しなかったら?」
「体が魔力に耐えれずに精神崩壊します。」
「さらっと恐ろしいこと言うなよ。」
響夜は大きな声を挙げて立ち上がった。
「だから、そうならないようにウチが吸収しているんですよ。」
響夜は座り、素朴な疑問を黒い猫にぶつけた。
「なあ猫、どうして俺が選ばれたんだ?」
「それは、そのですね…。」
黒い猫は言いにくそうに口調を濁らす。
「言えないのか?」
「わかりました。まず、重要なのが正義感がです。魔法使いになっても悪さしない、街を守るという使命感がある方です。次は想像力のあり方です。魔法を具現化するにはある程度の想像力がないといけません。」
黒い猫は響夜の肩に乗って、耳で囁くように言った。
「兄はんも随分想像力のある方で。」
「なっ。」
響夜は肩を震わして今日何度目かの大きな声をだした。
「お前、いつの間に~~。」
黒い猫は響夜の肩からヒラリと降りて、嘲笑うかのような顔で言った。
「それはもう、誓約の時に。すごい想像力ですね、兄はん。」
「もういい、選ばれた理由はわかった。」
響夜はソファーに座り、長いため息をついた。
「で、その魔法はどうやって使えばいいんだ。」
黒い猫は足で耳を掻いた。
「それは―――。」
黒い猫が言いかけていた言葉を引っ込める。先程までの表情が変わる。それは響夜にもわかっていた。窓を開けて空を見る。
「なんだよ、これ。」
空が重く暗い、気分が悪くなる。
響夜は時刻を確認する。
「午後四時、さっきまで一時過ぎだったのに。」
黒い猫は慌てた声で響夜に尋ねた。
「兄はん、テレビを付くてください。」
「おま、使い魔のくせにテレビとか知ってるのかよ。」
「そんな細かいこといいでしょ。それよりも早く。」
響夜はテレビをつける。テレビではレポーターが空について説明している。
「なあ猫。時間が三時間程消し飛んでいるんだが。」
響夜は先ほど感じた疑問を黒い猫にぶつける。
「それは誓約の時に時間が歪んだんでしょう。それよりもこれを見てください。」
黒い猫がテレビのモニターを指す。
響夜は言葉を失った。そこには4メートルを超える何かがいた。黒い空の下に灰色の巨人。
レポーターはその場に座り込み、その巨人をただ見上げている。
「おい、なんだよあれ。」
響夜は聞こるギリギリの大きさで呟いた。
黒い猫は振り向き響夜の方をまっすぐ見た。
「あれが、倒すべき敵。『レヒューズ』です。」
テレビの中から悲鳴が聞こえる。巨人が暴れて次々に壊されていく町を見て、響夜は手を震わせた。
「おい、猫。あの巨人が暴れている場所に連れて行け。」
「いいんですか?いきなり実戦なんて。さすがに―――。」
黒い猫は発言を途中でやめた。響夜の表情を見て無粋な質問だと思ったからだ。
「わかりました。ここまで来ればもう避けられませんよ。」
「わかっている。」
黒い猫と響夜の体を光が包む。
響夜は眩しさのあまり目を瞑る。
「兄はん、着きましたよ。」
響夜が目を開ける。そこはビルか何かの屋上だった。
「ここは・・・。」
「あの巨人が暴れている場所の近くですね。見てください。」
黒い猫が下を見る。響夜も釣られてビルの下を覗く。
巨人が暴れて、家や店が粉々に崩れ去る。
「兄はん、とりあえず変身してください。そうでなければウチの力は発動しません。」
「わかった。あいつを倒すにはそれしかないんだな。」
「現状では・・・ですが。」
響夜は大きく息を吸い。今日一番の声で言った。
「変身!!!」
響夜に少しの風が吹いた。着ていた制服がすこしなびく。
響夜は額に青筋を立てて黒い猫に確認を取った。
「なあ猫。確認をとっていいか?」
響夜は黒い猫の返答を聞かずに続けた。
「俺は今、お前の力の発動条件を満たしているか?」
「ないですね。」
響夜は黒い猫の首根っこをつまんで自分の顔の前まで持っていき睨みつける。
「どういうことだ、猫。」
「それは簡単ですよ、兄はん。」
黒い猫は体を左右に揺らしながら答えた。
「前口上がないんですよ。変身シーンと言ったら前口上があるでしょ。」
「そんなこと言ってる場合かよ。」
「そんな事ないですよ。前口上は変身する具現化を表します。思いを言葉にすることで、さらに強くなり思いは具現化します。」
黒い猫は口調を強めて言った。
「魔法使いの原動力は『思い』です。ありとあらゆる思いがエネルギーになります。正義や勇気、兄はんが今、この状況で何をしたいか。何を守りたいか。それを具現化するんです。」
「そんな、急に前口上と言われても。」
「大丈夫です、心に感じた事をなんでも構いません。」
響夜は目を閉じた。
「なんでも、いいんだな。」
「それに兄はんの思いがあるならば。」
「俺はもうこの町を傷つけたくない。だから・・・。」
響夜は右手を突き出して叫んだ。
「轟け希望の歌。切り裂け静寂の時。」
響夜の体を強い光が包み込む。
光の中で響夜は宙に浮いているような感覚だった。水中でただ浮いているような浮遊感。
ただ白い世界、右も左もわからない状態。
響夜は自分の体を見る、着ていた制服が剥がれ落ちていく。響夜は不思議と羞恥心はなく、むしろ暖かい光を感じていた。
光の粒子のようなものが響夜を包み込み、ギュッと固まって一気に爆散する。
そこには先程までの響夜の姿はなかった。黒く腰まである長い髪、赤と黒のオッドアイ、黒いワンピースにスカート部分には真紅のフリルが螺旋状についている。
光が次第に弱まり、姿が見える。
響夜は変身し終わった自分の姿を改めて見る。
「おい猫、どこだ?」
響夜はあたりを見回す。あたりには黒い猫の姿はなかった。
「ここですよ、兄はん。」
首から下げている黒いペンダントが光る。
響夜はペンダントを手に取る。
「どうですか?兄はん。衣装のほうは?」
「その衣装のことだが、どうして魔法少女なんだ。」
響夜はペンダントを握り締め怒鳴った。
「兄はん。大きな声をださないでください。気づかれてしまいます。」
「おかしいだろ、なんで女の服なんだ。」
「いやいや、兄はん。そっちの方が都合がいいんですって。」
「都合とかそういうので決めるなよ。」
「愚痴は後で聞きますんで、まずはアイツをなんとかしましょう。」
「なんか上手いこと話をそらされた気がする。」
響夜はビルの下を覗く。
「なあ、猫。このままビルから落ちても平気か?」
「それは兄はんの心次第です。先ほども言ったとおり、兄はんが自分の力を信じているなら可能です。でも、自分の力を疑ったら力は消滅します。」
「わかってるよ。」
響夜はビルから飛び降りた。
激しい風が服を揺らす、怖さのあまり目を閉じたくなる。恐怖のあまり身がすくむ。脳裏に自分の死が浮かぶ。
響夜は頭を振って、恐怖を振り払う。人が次第に大きく見え、地面が迫る。着地――。
ガシャン、金属が歪む音が聞こえる。響夜は何を踏んだのか確認する。
黒と白のツーカラー。V字型の赤いランプ。周りには武装した青い服の大人達。
響夜は改めて自分が何を踏み潰したのかを認識した。
「警察官とパトカー・・・。」
響夜は思わず呟いてしまった。
警官は、魔法少女になった響夜と町を破壊する4メートルの灰色の巨人を交互に見る。
指揮官らしき人が大きな声を出して指示を出している。警官の半分が響夜を半分の警官が巨人に向かって発砲。
「なっ。ちょっと待て、俺は―――。」
響夜の声が届くはずもなく、容赦のない弾丸が響夜を襲う。
響夜は顔の前に手をクロスさせてガードする。 全ての弾は響夜の体に触れた瞬間に蒸発したように消えた。巨人の方は弾が吸収されたように見えた。
警官がどよめく。あるものは錯乱しながら、あるものは泣きながら銃を撃つ。
「兄はん。早めにレヒューズを。さもないと、死者が出ます。」
「わかってる。でも、これをなんとかしないと。」
巨人が大きな手を振り上げる。響夜はそれを視認した。次の瞬間、巨人は腕を振り下ろした。
一瞬にしてものすごい衝撃波があたり一面に走る。
響夜は目を閉じ、歯を食いしばって衝撃を受け止めた。体が吹き飛ばされそうになるのを踏ん張る。
衝撃が止み、響夜はそっと目を開ける。
あたりは地獄と化していた。響夜の周りに居た十数名の警官は無残にその場に倒れている。パトカーは炎上し、町は炎に包まれていた。
「町が守ってきた、町が。」
響夜は拳を固く握り締めて、巨人を睨んだ。巨人はまた手を振り上げた。
「兄はん、また。」
「わかってる。あの衝撃波を止める。」
「止めるって、どうやってですか。」
「魔法は俺のイメージ通りに作用するんだろ?だったらできる。」
巨人が手を振り下ろす。
響夜は身を低くして足に力を込めて、跳躍。足場にしていたパトカーが後方へ飛ぶ。
音もなく巨人との距離を一気に詰める。
ドゴ、と鈍い音と共に煙があたり一面に吹き荒れる。
煙が晴れて、姿が見える。
巨人の振り下ろした手を響夜が受け止めていた。
「自業自得」
響夜が呟いた瞬間、巨人はうめき声を上げて四歩、五歩と退いた。
「兄はん、無茶しすぎですよ。」
「でも、なんとかできた。結果オーライだ。」
響夜は首を回す。そして、構える。腕を潰されて膝をついている巨人に向かって。
「さあ、ラスト一撃だ。」
響夜はゆっくりと巨人に近づく、拳を握り体は青く光る。
その光はやがて右手に集まる。指と指の隙間から光が漏れる。
響夜は拳を引き、跪く巨人の額を殴った。
「先声後実」
青く細い光が巨人の額を貫通し、砂埃が舞う。
刹那の硬直―――。無音、無風。何事もなかったかのような静けさを町を包む。
次の瞬間、驚異的な爆風が吹く。町を焼いていた炎がかき消される。ただ、人や建物は飛ばされず場に留まっている。
巨人はその場に倒れ、光の粒子のように消えた。
響夜はその場に座り込んでしまった。緊張の糸が一気に解ける。先程まで感じなかった疲労が響夜を襲う。
だが、響夜は立ち上がった。フラフラになりながらも精一杯の力を込めて。
「兄はん、もう戻りましょう。これ以上の魔力の消費は変身が解けてしまいます。」
ペンダントから焦りを感じる声が聞こえる。
「駄目だ、それは出来ない猫。まだ、やるべきことが残っている。」
「兄はんがやろうとしている事はわかります。でも、今の状態では無理です。」
「それでも・・・。」
響夜はぐるりとあたりを見渡す。聴こえてくるのは泣き叫ぶ子供の声、崩壊する建物の騒音。
「言ってたな、猫。力を信じればできるんだろ?」
「信じるのと思い込むのでは全然違います。」
「わかってる。そんなこと昔に叩き込まれてるよ。」
響夜は腕を横に伸ばして、目を閉じる。親を求める子供の声、子を探し求める親の声、様々な声が聞こえる。
「一筆抹殺」
響夜の体から青い光が解き放たれる。暖かい優しい光が町を包む。破壊された建物が元通りになっていく。ビデオで逆再生をしたように。
それでも、倒れた人間は起き上がることはなかった。
響夜はそばに居た警官に歩み寄り、体を揺らす。
「一筆抹殺」
さっきよりは弱い光が警官の体を照らす。警官は微動だにしない。
「一筆・・・抹殺。」
響夜は何度も何度も唱える。
「兄はん。無駄ですよ、これ以上は限界です。」
「うるさい。黙れ。」
「兄はんの力不足ではありません。魔法としての限界なんです。」
「黙れって言ってるのが聞こえないのか。」
響夜は大きな声を上げた。
「建物などの部品は元に戻せます。人間相手にもそれは同様です。しかし、人には命という流れが存在します。部品は戻せても、流れまでは・・・。」
「くそ、どうして。」
響夜の体が弱い光を放つ。
「兄はん、もう限界です。」
響夜は強い光を放ちながら姿を消した。
ボフ、柔らかい感覚が響夜を包む。どうやらベッドの上らしい。
「お疲れ様です、兄はん。」
「なんで、また・・・。」
驚異的な眠気が響夜を襲う。響夜は深い眠りに落ちた。
眠る前にペンダントが光り、何か喋っていたが響夜の耳には入らなかった。
読んでくださってありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。




