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ヴォイニッチ紀行  作者: 志尾 結尾
第一巻第壱章 褪せた時代
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第一章第二節 「復活」

ラフラ・ヴァ=グアリクタはヴァドグア教グーア派、もといグアリクタの開祖にしてグアリクタ焔国の実質的な王である。


焔国ではグーアを主、国王としているがそのグーア自身がまだこの世に顕現していない。


故に、ラフラは千年前の浄化戦争、その時に交わした契約を守るため、

グーアが王として君臨するために玉座を守り続けている。


この契約を知るものは現在、秘書のターラー女史と周辺宗教国家の開祖、そしてヴァドグア教上層部のみである。


契約内容は「■■■の□の■■、■■■□、もといそれらの□□□□と■■の□□。対価に玉座を守ること」である。





────────────────────────





「ターラー女史、このことを他の三国と本部に報告。

早急に首脳会談を開く必要がある。


それと火教徒を十万人、炎司祭5名、焔贄1匹を火の祭壇へ招集する手配を頼む。」


切羽詰まったようにターラーへと命令を下すラフラ。

動揺を隠しきれないラフラと違い、普段通り落ち着いたターラーは


「畏まりました。すぐに手配を始めます。」


と応え、すぐに部屋を出た。


ここはホープがいた森よりもさらに東側にある焔国の首都である炎都 バナーラジャ、

その火教大聖堂である。



大聖堂の外には13kmにも及ぶ連絡通路があり、これはヴァドグア教国にある本教(ヴァティリクタ)の総本山、

総聖宮"パージ・スタジ"に繋がっている。



総聖宮(パージ・スタジ)には火教大聖堂の他に、水、風、地の三国三教の大聖堂へ繋がる連絡通路が設けられている。


それは今回のような緊急事態における迅速な対応をもつ役割のためでもあるが、本来は四大教派が年に一度本教にて総礼拝を行うためである。


なので緊急時にはそれぞれの教派、その上層部にしか使用できない瞬間移動装置が隠されている。


本教へ繋がる連絡通路には純白で彩られ、巨木のような柱が数メートルおきに建っており、道は大理石で出来ているが天井はない。


そして装置は大聖堂から10個目の柱に隠されており、使用権限を持つ人物が特定の手順を踏むと地下への階段が出現し、作動する。


命じられた人員の招集を手配したターラーは装置を作動させ、本教へと向かった。



▼△▼△



火教の開祖であると共に、本教の枢機卿であるラフラ。


大聖堂の2階にある私室で彼は顔を手で覆い、上を見ていた。


「あまり考えたくないことになってしまったな。」


信仰を彷彿とさせる黄色の髪に洒落た口髭と顎髭。

彼の外見は実年齢に伴わない気さくで好印象な初老である。


そんな彼は今永い千年でもあるかどうかの壊滅的な危機に陥っていた。


「概ね、あのババアの言うとおりだったな。

その場しのぎにしか過ぎぬ対処療法。」


昔を思い出し哀愁深い表情で瞼を細めるラフラ。

普段独り言をあまり発さない彼でも、この出来事は彼をそうさせるために十分すぎるのである。



「千年前は太陽が黒く変色し、月が瘴気で覆われていたんだがな。

今回はどちらも消失して世界は褪せた光で覆われている。

千年前と同じやり方が通用するのかどうか。

やってみないと分からないが。」



千年前と現在の状況を比較し対処、対応をどのようにするかを考え出すラフラ。

彼はあまり考えを巡らせたくない性格である。

その大半を優秀な部下であるターラーに任せていたのだ。


「あ〜、考えたくないな。一服でもするか。」


そういい、彼はズボンを脱ぎ、肉踊る器を握る。

その所作は千年物である。


「今朝のことが忘れられないよ。ホープくん。

惜しい人材を亡くしたよ。」


想いを綴り亡くなった彼への恋文を送るように話す。

そして彼は掌から火を出し、ソレに引火を始める。


「やっぱこれだよこれこれ!!

この刺激が無きゃ出るもんも出ない!

おまけに出汁も蒸発して後処理する必要が無い!!

ハッハッハッ!!」


彼の狂気じみた踊りは全身が火に包まれるのと同時に

終了を遂げる。



▼△▼△



「失礼いたします。開祖さま。

手配と本教への報告を終え、準備が出来次第、総聖宮へ来るようにとのことですので衣類をご用意しました。」


一人だけの祭りを終え10分ほどでターラーが先程の命令を完遂させたがもう驚かない。

彼女は仕事が早い。入って一年で枢機卿補佐に登りつめたのだから。


「ハッハッハッ、相変わらず早いねぇ仕事が。

すぐ用意するよ。」


火に包まれた彼はターラーから服を取り、瞬きする間もなく着替えた。

千年間鍛えられた着替え、その最適解なのである。


「変人ばっかで嫌なんだよなぁ首脳会談。

まあ仕方ないからやるんだけど。」



▼△▼△



本教(ヴァティリクタ) 総聖宮(パージ・スタジ) 奥宮(おくみや)-秘の院(ひめのいん)


「ターラー女史、すまないね。

君はここまでなんだ。参拝でもして時間を潰しててくれ。」


「畏まりました。どうかお気をつけて、開祖さま」


奥宮は本教と宗派の上層部にしかはいることが許されていない。


そんな奥宮でも秘の院は本教、宗派合わせて10名しか入られない最重要施設なのである。


大理石で純白に彩られた建物と違い、秘の院の構造は木材で出来ている。

西洋と東洋の建築様式が合わさったかのように、秩序が区切られている。


秘の院、正面の引き戸を開けるラフラ。

ここには部屋は一つしかない。

それは中央に馬車のような大きさの岩がある内陣のような神聖な空間だった。

無垢材で出来た床を歩き、中央にある岩に触れる。


刹那、広がっていた和様の空間が一変し、

褪せた光で満たされた現実とは異なり、そこには太陽の眩い光で満たされていた。

否、月もある。 


眩い光と月からの妖しい光で満たされた異様な光景。

そして陽光と月光照らす岩は変化を伴い徐々に形が歪み、机となる。


「まだご存命で、ラフラ枢機卿。」


「ハッ!まだ生きていましたか、アニカ!」


千年を生きているとは思えないラフラだが、

そんなラフラから老婆扱いをされているとは思えない美貌をもつ黒の長髪。

透き通るような白い肌に妖艶な唇。

見るものが固唾を飲み込むような容姿。


「千年間言い寄っているのに振り返らないなんて、

これでも結構男性からは好意を持たれているんですよ。」


「ハッハッハッ!私は悶える男児しか興味ないよ!アニカ!」


どうやら彼女の名前はアニカというらしい。

アニカからの熱い想いも彼の前では無意味なのだ。


「あらまぁ、なんて悪趣味なこと」


「捕まえた好みの男に、そいつの想い人である潔白な乙女の胎盤のステーキを食わせてから、

そのことを伝える貴女には言われたくないお言葉だ!ハッハッハッ!」


悪趣味と悪趣味は手をとり、握手をしながら挨拶を済ませる


「ところで、水と風、猊下はまだか?」


「猊下なら揃い次第来るとのことで、水と風はそのうち来るでしょう。」


会話から、アニカは地教の枢機卿であると推察できる。

残るは水と風、そして猊下である教皇だけだろう。



「あんらま〜やだぁ二人とも相変わらずかわうぃ〜

ちょべりば〜って感じですねぇ」


「うわ、アナトか。」


「うわ、アナトさんじゃないですか。」


アナトと呼ばれる坊主頭の屈強な漢が現れる。

その姿は坊さんのような法衣と袈裟をかけている。

だが、2人の反応からして嫌われているのであろう。


「な〜によその反ン応〜

二人をそこまで育てのは和多志よ〜

言葉には氣を付けてよ〜ん」


『わかりましたよ、アナト枢機卿』


「わかったなら良いの。

亜名多たちに水の祝福をがあることをッ」


「いえ、火で結構です。」


「大地の恵みがあるので遠慮します。」


「は〜ん、推しが違うのね、亜名多たちに大海のありがたみが伝えたいのに……うぅううぅ……。。」


布教を失敗し涙を流すアナト。

彼はその瞼から溢れた涙を刃物のように変化させ、ソレをおもむろに自身の腕へと当てた。




「和多志が死ねばいいんでしょう!?

そういいたいんでしょう?!

全部全部全部全部和多志のせいなんだそう言いたいんだ!!

ぐううううううう!!!!!和多志を否定するな!否定するな!」 




急な自傷行為。

しかし、二人とも慣れているのか何も反応しない。



「まったく、いつになったらソレやめるんですか。

私はグアリクタを、

アニカはルラリクタ、

ラクシュはハタリクタ、

そして貴方はクトリクタを

それぞれの契約に基づいて先導しているんですよ。

まったく、子供じゃないのに。」



火教(グアリクタ)地教(ルラリクタ)風教(ハタリクタ)水教(クトリクタ)それぞれの名前のようだ。

リクタ、おそらくは信徒を意味する言葉で

その前についてる名はそれぞれの芽神の名前。

ヴァというのもおそらくは崇高な名であろう。


「ンガァァァァァァァァァァァァァァ!!!

生意気よ亜名多は!なんなのよ!んもおおおおおおおおおおお!!!!!」


アナトの自傷行為はとどまることを知らずついには腕を切断しだす。

しかし、切断した腕は切断面から出てくる謎の液体のようなものでひっつき出し元通りになる。


「ふ〜、落ち着いた。

ごめんね、カナトが出てきたみたいだわ。」


「いえいえ、大丈夫ですよ、お気に召さらずに。

私たちもきっかけが違えば別の芽神を信仰していた可能性がありますので。」


理性を取り戻したアナト、アニカは励ましている。




「お、もう3人も集まってる。

久しぶりだね。こうして話すのは50年ぶりくらいかな?」


気持ちいい風が吹いているようなボブカットの緑髪の少女。


「猊下…ですか?」


「うん、そうだよ?ボクはみんなと違って体を変えないと永年を生きられないからさ」


ラフカは少女、もとい教皇かと問うが、どうやらそのようだ。


「おーい、ラクシュ、姿を現せ。

風にならないで姿を出して。」


「…はは……はい。」


突風とともに姿を現したのは長い紫髪を垂らしただらしない女だった。

使い古したTシャツのようなものを着ており、

恵まれた上背と豊満な肉付きをして常に涙目である彼女はそうしてそこに現れた。


「いつから居たんだ?ラクシュ枢機卿。」


「………昨日から」


「昨日から?なぜ?」


「星の流れが…そう言ってるから」


星の流れというどこか聞いたことがある言葉を使うラクシュ。

あの星占術者と関係があるのかどうかはまだわからない。



「あいさつはさておき、

それでは、始めようか。50年ぶりの首脳会談を。」

 



▼△▼△




「まず現状起きてることの情報を整理しよう。 



焔国で発見されたホープと呼ばれる浄化対象の処理。

この子は千年前の汚穢、その残滓をその身に呪いという形で背負っていた。


穢土の民から通報を受け、ソレを発見した浄化騎士が討伐に向かったが、

朽ち果てて亡くなっていた。


これは千年前の汚穢と特徴が一致している。


さらに彼が歩いた足跡にある雑草も枯れていた。

まず間違いなく汚穢だ。



そして森の中で眠っているその子を浄火隊が発見。

そこから火教大聖堂に運ばれ浄化処理を行った。

間違いないかな?ラフラ枢機卿。」



「えぇ、猊下のおっしゃる通りです。

そこから私は契約に従い、其奴の首を唯一神、火芽神へと捧げました。」


情報を整理し合う枢機卿と教皇。

ここまでは予想通り。何事も問題はなかったのだ。

続けて情報をまとめる教皇


「そして、ラフラ枢機卿が大聖堂で礼拝を行ったのち、外に出ると太陽と月が消失し、褪せた光で世界が満たされていた。


これは、バーラ・バーア先生が仰っていた予言の内容と一致している。


あの時は千年前の汚穢のことだと思っていたがまさか、

今になって的中するとは。」



「ババアが言ってた意味深な言葉も、わかりました。

グーア様が遺した火で浄化できなかったのを、

その場しのぎで平民の純血で穢れた太陽を浄化すること。

そのことへの忠告だった。」


予言の内容と忠告。

それが今、的中するとは思わなかった。


「そして予言の内容が合っているとすれば、褪せた光は世界を蝕み、ひび割れた大地から脅威が押し寄せるとのことだ。」


「ふ〜ん、脅威ねぇん。

ただの脅威なら、なんとかなりそうなものだけど。

そういうわけにはいかなそうね〜ん」


「そうだ。

褪せた光が現れたとき、私は遥か南の大陸にいた。

こちらよりも自然が豊かな場所。

そこで私は脅威が何たるかをこの目で確かめた。

あれは、」


一度、落ち着くように、されど落ち着けずに

教皇は声をだす。


「あれは、亡き唯一神(ヴァティ)の半身、逆魂(さかたま)であった。」










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