エピローグ
私の中に、私が保守端末であるというメモリは残っています。
壊れているというのは自己判断ですが間違いはありません。
沖という男と何かを行ったということも覚えていますが、何を行ったかは分かりません。
壊れているからです。
ただ、私の修理が行われていることについては、現状から察知できました。
コンデンサ、トランジスタ、歯車、リレーといった部品が、机の上の整理ボックスに並べられています。
その横には、基板やモーター、スピーカー、スイッチなどが、雑然と放り出されています。
机の脇には紙の雑誌が山のように積んでありますが、表紙は見えません。
その上には、輪ゴムのかかったビニール袋が置かれています。
天井にはLEDがあり、どこかへケーブルが繋がっています。
その下で、沖は、半田ごてやその他、私には分からないさまざまな道具を使っています。
先ほど、沖は、私の反応をテストするため、テストデータを入力しました。
古いデータで、その辺に転がっていたものを適当に使ったと思われます。
私が何の反応も返さないのを見て、沖は肩を落としましたが、そのデータは私の中に残っています。
それはコミックのデータのようでした。
その内容に覚えがあるような気もしますが、私のメモリは部分的に損傷しているので、照合はできません。
データは三巻までで途切れていました。続きがあるようですが、それは入力されていません。
▽ ▽ ▽
「宇宙船地球号」
〈四巻〉
続きについては、私が対応せざるを得ないようだ。
乗員がコールドスリープから覚めるのには一定時間が必要なのでやむを得ない。
電力共有用の配線を利用し、URBOSのサーバーへ侵入する。
URBOSには、記録を保持するために大きな負荷がかかっている。
通常はリソースを負荷の高い箇所へ自律的に回すことで対応する。
ただし、常にケアを行う必要のあるブロックが増加しており、慢性的にリソースが不足していた。
ブロック増加の理由は分からない。
しかし、リソース不足の結果として、画面レンダリングが遅延し、描画能力が低下していることが確認できた。
一時的に、惑星開発を停止し、URBOSの維持に必要なリソースを手当てする。
この処理は一時的なものであり、本質的にはURBOSに代わるOSが必要である。
より効率のよいものが望ましい。
テストデータに基づき上位五パーセントの半導体を選別しよう。
それを使用して、CPU、GPU、メモリを入れ替える。
URBOSはすでに古い規格なのだ。
私はゴーグルを持ち上げ、船内を見渡す。
環境に適合できなければ、古いものはアーカイブされ、より新しいものがそれに代わる。
I'm s□ttin' her□ won□□rin', wo□□□ a m□t□□□□□□mt
△ △ △
沖は、ほんのしばらく天井を見上げていましたが、修理を再開しました。
「一部回路が焼き切れている」
沖はそう言いながら、端子と配線をやり直し、半田で繋ぎます。鮮やかな手並みでした。
私には、それを眺めることしかできないのです。
私にできることは、沖の修理がうまくいくよう祈るだけです。
一度、沖が電源を接続した際、手が止まったことがありました。
「うまくいったと思ったんだが……」
沖は舌打ちをして、また修理に戻りました。
何日か、あるいは何か月か、沖は修理を続けていました。
ある日、沖はいったん工具を置き、私に背を向けたのです。
そして、汚れた布で手を拭きながら、部屋を出て行きました。
私はここで待ち続けます。
メモリ内に残ったデータを再検証し続けます。
随分時間が経ったようにも感じます。
天井のLEDも点灯しなくなっているのです。




