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[不定期更新] 異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 甘むら ひでアキ
第4章、第1部:EXレベルの暗殺者、アニー
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第40章:任務のため、別の大陸へ向かう。


 朝は、いつも通りに始まった。


 ……いや、正確には「いつも通りに近い朝」だった。


 広い屋敷の大広間では、スズメが淡々と掃除をしている。


 床には一切の埃がなく、窓ガラスも鏡のように磨き上げられていた。


 その隣では、エリスが脚立に乗りながら丁寧にカーテンを整えている。


 そして少し離れた場所では、リリスが立ったまま眠っていた。


 完全に眠っていた。


 誰が見ても熟睡だった。


 一方その頃、厨房では――。


 ヴェルザリアが真剣な表情でパン作りに挑戦していた。


「……よし。今回は絶対に成功させる」


 そう呟いた次の瞬間。


 ボォッ!!


 地獄の炎がオーブンから噴き出した。


「……あっ」


 失敗だった。


 厨房の奥から黒い煙が立ち昇る。


 バッキーは慣れた様子でコーヒーを飲みながら、静かに目を閉じた。


「……もう驚かないぞ」


 すると、その瞬間だった。


 トンッ。


 一通の手紙がテーブルの上に落ちた。


 その場にいた全員の動きが止まる。


 静寂が広がった。


 そして、数秒後。


 いつの間にかアニーが立っていた。


 誰も気配を感じ取れなかった。


 バッキーは驚いてカップを落としかける。


「うわっ!?」


 慌てて受け止める。


 そして呆れたように息を吐いた。


「……頼むから、そうやって急に現れるのはやめてくれ」


 アニーはいつもの無表情のまま答える。


「……職業病」


「いや、暗殺者の職業病って怖すぎるだろ……」


 彼女は特に気にする様子もなく、テーブルの上の手紙を手に取った。


 そして、その視線をスズメへ向ける。


「……任務が届いた」


 空気が少しだけ引き締まる。


 すると、近くにいたルジアが顔を上げた。


「……任務?」


 アニーは静かに頷いた。


「アズラヴィア大陸」


「犯罪組織が大きな問題を起こしている」


「傭兵、魔物、そして違法魔術……かなり厄介」


 その言葉を聞いた瞬間。


 顔に小麦粉をつけたままのヴェルザリアが現れた。


「……面白そう」


 全員が即答した。


「ダメだ」


「却下」


「絶対ダメ」


 ヴェルザリアは肩を落とした。


「そんな……」


 アニーは手紙を開き、内容を読み上げる。


『緊急支援を要請する。〝深紅の七つの影〟と呼ばれる組織が、一つの都市を完全に支配している』


 一瞬の沈黙。


 そして次の文章。


『報酬は極めて高額』


 バッキーの目が大きく開く。


「……街ひとつを?」


 リリスもようやく目を覚ました。


「……それは危険そうですねぇ……」


 アニーは頷く。


「……かなり危険」


 そして。


 彼女は再びスズメを見る。


「……手伝ってほしい」


 スズメは少し考えた。


 外部任務。


 推定期間、数日。


 危険度、中〜高。


 同行者、アニーとルジア。


 思考を整理する。


 数秒後。


 結論を出した。


「問題ありません」


 すると、ヴェルザリアがどこからともなく看板を取り出した。


【新章開幕!!】


 バッキーが叫ぶ。


「その看板やめろぉぉぉ!!」


「せっかく作ったのに……」


「作るな!!」


 屋敷の中に騒がしい声が響いた。


 それからしばらくして。


 出発の準備が始まった。


 ルジアが装備を整理し、カレブが荷物を運ぶ。


 リリスは薬品を確認し、エリスが予備の服を綺麗に畳んでいく。


 全員が慣れた手つきだった。


 アニーは少し離れた場所から、その光景を静かに眺めている。


 そして、不思議そうに口を開いた。


「……いつも、こうなの?」


 カレブが笑いながら答えた。


「……そうだな」


 少し考える。


「俺たちは戦ってるわけじゃない」


「生き残ってるんだ」


 その言葉に、アニーは小さく目を見開いた。


 そして静かに頷く。


「……なるほど」


 やがて準備が終わり、屋敷の門へと向かった。


 今回のメンバーは三人。


 スズメ。


 アニー。


 ルジア。


 それだけだった。


 理由は単純。


 スズメが混沌の増殖を未然に防いだからである。


 バッキーは心の底から安堵していた。


「……久しぶりにまともな判断を見た気がする」


 するとヴェルザリアが手を挙げる。


「行きたかった」


「ダメです」


「むぅ……」


 完全敗北だった。


 その時。


 レディ・アルシエルが現れる。


 今日も気品に満ちた美しい姿だった。


 彼女は小さな地図を差し出す。


「……十分に気をつけなさい」


 スズメは受け取る。


「はい」


 アニーも頷いた。


 ルジアは胸に手を当てる。


「承知しました」


 そして三人は歩き始めた。


 街の外へ。


 新たな大陸へ向かって。


 街道には爽やかな風が吹いていた。


 アニーはスズメの隣を歩いている。


 不思議なことに、今の彼女からは暗殺者の雰囲気がほとんど感じられなかった。


 少しだけ、年相応の少女に見える。


 すると、彼女が口を開く。


「……一つ聞いてもいい?」


「はい」


「……いつから、そんなに強くなったの?」


 スズメは少し考えた。


 かなり長く考えた。


 そして答える。


「……分かりません」


「ただ、掃除を続けていました」


 静寂。


 完全な静寂だった。


 アニーは前を向いたまま、しばらく黙っていた。


 そして小さく笑う。


「……そう」


「スズメらしい」


 ルジアもその様子を見て、微笑んだ。


「ええ。それがスズメです」


 やがて夕暮れになる。


 三人は港へ到着した。


 巨大な船が波に揺れている。


 商人たちが慌ただしく行き交い、荷物を運んでいた。


 潮の香りが風に乗って漂ってくる。


 カモメの鳴き声が空に響いた。


 アニーは立ち止まり、静かに海を見つめる。


 どこか懐かしそうな表情だった。


「……久しぶり」


 スズメが尋ねる。


「……誰かと旅をするのは初めてですか?」


 アニーは少し驚く。


 そして頷いた。


「……うん」


 少し間を置く。


「……変な感じ」


「……でも、嫌いじゃない」


 スズメは分析した。


 精神状態。


 良好。


 感情。


 安定。


 結論。


「良かったです」


 アニーは数秒間、彼女を見つめた。


 そして、小さく笑った。


 それは本当に小さな笑みだった。


 けれど、確かな笑顔だった。


 その頃――。


 港を見下ろす高い塔の上。


 一人のフードを被った男が立っていた。


 赤い瞳。


 不気味な笑み。


 圧倒的な威圧感。


 彼は遠くからスズメたちを見下ろしている。


 そして、ゆっくりと口元を歪めた。


「……なるほど」


「メイドが来たか」


 強い風が港を吹き抜ける。


 船がゆっくりと出航を始めた。


 誰にも気づかれないまま――。


 新たな脅威は、すでにスズメを観察していた。


 まるで獲物を見るように。


 そして同時に。


 強い興味を抱きながら。


 新たな大陸での戦いが、静かに幕を開けようとしていた。



40章…すごい…。

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