第9話 和也という人
今日は、和也と二人。
(なんか安心する)
ヒデさんとは違う。
張り詰めた感じがない。
でも。
「行くぞ」
その一言で、空気が締まる。
(ちゃんとしてる人だ)
移動中。
「まだ慣れねえだろ」
「うん」
素直に答える。
「まあ最初はそんなもんだ」
軽く言う。
「俺も最初は分かんなかったし」
(意外)
「和也でも?」
「当たり前だろ」
笑う。
「最初からできるやつなんかいねえよ」
(そっか)
少しだけ、気が楽になる。
現場到着。
すぐに動く。
蓋を開けて、覗く。
「……ここ、ちょっと来てるな」
「来てる?」
「流れ悪い」
指差す。
(あ……)
なんとなく分かる。
「このまま放っとくと詰まる」
「え、もう?」
「時間の問題だな」
さらっと言う。
「だから今やる」
(予防……)
母の言葉がよぎる。
“止めない仕事”
それを、目の前でやってる。
作業は早い。
迷いがない。
そして。
「見てるだけじゃ覚えねえぞ」
(ぐさっ)
「やるか」
「え、私?」
「当たり前だろ」
逃げ道なし。
「ほら」
道具を渡される。
やる。
ぎこちない。
危なっかしい。
「力入れすぎ」
「え」
「抜け」
(難しい)
もう一回。
少しだけ、マシになる。
「そう、それでいい」
短い一言。
(……褒められた?)
なんか嬉しい。
作業を続ける。
途中。
「彩乃」
「なに?」
「さっきの、なんであそこ見た?」
(え)
「なんとなく……」
「それでいい」
即答。
「ちゃんと見てる証拠だ」
(……)
ヒデさんと同じこと言う。
でも。
言い方が違う。
スッと入ってくる。
昼過ぎ。
移動中。
ふと、気になる。
「ねえ」
「ん?」
「なんで継がなかったの?」
聞いてしまう。
一瞬だけ、間。
「……ああ、それな」
和也は前を見たまま。
「俺より向いてるやついるなら、そっちに任せた方がいいだろ」
(それだけ?)
軽い。
でも。
それ以上、聞けない。
「現場の方が性に合ってるしな」
「そうなんだ」
「考えるのはお前の仕事だ」
(……)
さらっと言う。
でも。
ちゃんと線を引いてる。
午後の現場。
最後の作業。
無事に終わる。
「おつかれ」
「おつかれさま」
片付けながら。
「どうだ」
「なにが?」
「少しは分かってきたか」
(……)
「ちょっとだけ」
正直に言う。
「それでいい」
うなずく。
「最初から全部分かる必要ねえ」
一拍。
「でもな」
少しだけ声が変わる。
「分かろうとするのはやめるな」
(……)
その言葉。
まっすぐ来る。
「社長になるんだろ」
「……うん」
「じゃあ見るのやめるな」
それだけ。
でも。
重い。
会社に戻る。
「おかえりー」
いつもの声。
日常。
その中で。
和也はいつも通りだった。
特別なことはしない。
でも。
(この人、すごいな)
そう思う。
帰り道。
外に出る。
夕焼け。
「疲れたか」
横から声。
「ちょっとね」
「だろうな」
笑う。
「でもまあ」
一拍。
「悪くねえだろ」
(……)
少し考えて。
「うん」
答える。
「悪くない」
そう言えた。
和也は何も言わず、少しだけ笑った。
その背中は。
思ってたより、ずっと頼もしかった。
――黄昏バキューマーズ。




