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第四話

 次の日の真夜中、僕らはまた、当然のように、宇宙人を倒すために集められた。しかし、今宵は、一つ、違和感を覚えるところがあった。


「…全員?」


 誰かが、そう呟いた。そうだ、いつもは二手に分かれて戦っているはずなのに、その日は何故か、僕ら全員がそこに集結していた。


「どういうことだ?」

「…嫌な風が吹いている」


 皆、そのことに嫌な予感を抱いていた。いつもと違う出来事に、皆、不安がっていた。


「み、皆、聞け。きょ、今日の敵はいつものそれとは違う」


 それが確信に至ったのは、不浄がそう言ってからだった。殆ど全員の視線が、不浄に向けられた。


「今日の敵は強い。ぜ、全員で力を合わせなきゃ勝てない。だ、だから―」

「くる、くくるくるくるくくるくる」


 不浄は最後までその言葉を紡ぐことは出来なかった。横やりが入ったから。

 たった一人、不浄に目を向けていなかった遠宮が、前方を指差して言った。上空ではなく、今正に亀裂が入った、前方の空間を指差して。


 亀裂は瞬時に砕けて、そこから、何かが這い出てきた。腹を抱えて、大きな声で笑いながら。


「ん、んん、げほっ、げほ、げは、きゃ、ハハハハハハハハハハハハハハ!」


 それは今までの敵とは、明らかに何か違った。僕らとそう変わらない人間の女性のような外見だとか、喜怒哀楽を持っているとか。


「日本だ、地球だ、僕の故郷だ!」


 人間の言葉を解して発するとか、そう言うところだけじゃなくて、存在の根本から違うような、異様な存在感がそれにはあった。


「…それで、そこにいる奴ら、誰?」


 それが、僕らに視線を向けた瞬間、ぞわり、と、畏怖のような、訳の分からない恐怖に襲われた。足がすくむ、動けないし喋れないし、呼吸さえおぼつかなくて。


「なんだよ、あれ」

 

 黒羽根朱がそう言って、後退った。全員が、その存在に似たような、恐れを抱いているのが分かった。


「…!」


 それでも、たった一人だけ、前に出た。【魔法晶年】定鋼、彼は皆を守るように前に出た。


「何、君。口も利けない癖に、出てくんなよ」


 瞬間、首が飛んだ。定鋼の首が刎ねられて、首が飛んで、血液が噴き出した。


「は、は、は?」


 目で得た情報を、脳が理解を拒む。余りに現実味離れした光景を、脳が現実だと理解してくれない。はずなのに、元より現実離れしたこの場所に、今目の前の光景を乗算してしまって、それが真実だと理解し始めて、僕は座り込んでしまった。

 

「…だ、ざっけんじゃねえ!」

「あのさあ、まともな会話も出来ないわけ君たち」


 止める間もなく、狭間がその怪物に向かって行った。怪物は呆れたように言って、その背丈には似つかわしくもない程に大きな剣を片手に取った。


「人間ってこんなに馬鹿だったっけ?」


 そして、【魔法衝年】狭間撃鉄が縦に、真っ二つに切断された。


「【消えろ】!」

「あ~はいはい、そういう奴ね。ま、だから何って感じだけど」


 素手で、そいつは【魔法消年】飴喰廿楽の腹を貫いて殺した。


「おええええええ!」

「何、グロかった?ごめんねー」


 吐き出した【魔法傷年】澪標水果を見て、彼女は満面の笑みで笑って頭を潰した。


「ほら、止まったでしょ」


 何が起こったのかを理解した時には既に、四人が殺されていた。

 吐きそうになって、何とか思いとどまる。吐いたとしても、一時的に楽になるだけで、待ってるのは死だけだ。


「さて、改めて聞くけど、君たち誰?今何年の何月?」

「…僕らは魔法少年、今は20××の、7月」


 大剣を僕らに向けて尋ねたレヴィアタンに、黒羽根がそう答えた。賢明な判断だった、と思いたい。いずれにせよ、答えなければ僕らが殺されるだけだ。


「あっはは、マジ?クソ未来じゃん。成る程ねぇ、まるっきり時間の流れ方が違うって訳だ」


 …?何のことを言ってるのか良く分からない。でも、察せることは一つだけある。あれは宇宙人なんかじゃない、西暦を知っている彼女は間違いなく、地球の存在だ。


「もうちょっと、何か聞いとこうかなあ、何が良いかな、あ?」


 悩むように腕を組んでいた彼女に、一本の線が突き刺さった。それを投じたのは不浄だった。彼はそのまま、喋り始めた。


「こ、個体名【レヴィアタン】。ジェイド・アルケーが作りだした、【新世代】の竜の一角。あ、与えられた権能は、破壊。その大剣【振るう灰塵(ティタノマキア)】を振るうことで、物理的のみならず、現象すらも―」

「喋りすぎは良くないって、習わなかった?」


 不浄が投げた線を引っ張り彼を引き寄せ、そのまま彼の胸を貫いた。なんで不浄は、そんな、馬鹿なことを。疑問に思った瞬間、彼は息絶える前に、言葉を放った。


「に、二条院空、事ここに至ってしまったからには、最早プログラムは継続できない。終了の、覚悟を」


 そんな、良く分からない言葉を。なんで、空に?振り返ると、彼の頭にも、不浄が投じていたと思われる線が突き刺さっていて、彼の絶命と共に消え失せた。


「…余計なお世話、だって言いたかったけど、助かったよ、不浄共鳴。君が送ってくれた知識で、何とか、最低限の可能性は生まれたよ」


 空の発言は流石に理解できた。彼はきっと、この魔法少年プログラムを作った者なんだ。なんで、作ったのか、とか、なんで、僕らを選んだのか、とか、疑問は尽きない。だけど、知らなくても良い。何故ならきっと、彼がプログラムを終了すれば多分、僕たちは生きてこの場を逃れられるからだ。それなのに、僕は願っていた。どうか、どうか。


「魔法少年プログラム、強制終了」


 この夢を、奪わないで。僕はこの凄惨な光景を見て尚、そんな風に願ってしまっていた。そんな願いも空しく、僕は二度とこの夢を見ることはなかった。



「魔法少年プログラム、強制終了」


 不浄共鳴の【接続(コンダクタ)】、僕はてっきり、彼自身が知識を得るためだけの異能だと思っていたが、そうじゃなくて、自分の知識を送り込むことも出来る能力だったらしい。

 彼のおかげで、僕はこの魔法少年プログラムを終わらせることが出来た。そして、本来、僕が持っていた魔力が、全部元通りになった。


「ん?んんん?んんんんんん!?なんだ君、バカみたいに強いな!」

「…分かるのか」


 そんな僕を興味深そうに、そして嬉しそうに見るレヴィアタンに、僕は尋ねる。


「分かるよ!存在が濃い!濃いってことは、生き物としての格が高いってこと!僕と同じ、嫌、それ以上の存在感、分かったぞ君、神格だな」


 彼女の見る目は正しい。今まで十人分の異能の出力を肩代わりして、彼らをこの場に瞬間移動させて、彼らがこの場で死んだとしても無傷で家に帰すセーフティネットを敷いて、この外界から隔絶した空間を生み出していた物が全て消えてなくなったんだ。今の僕はきっと、今までの僕とは比べ物にならない程に強い。

 だけど、それでも、一つだけ彼女は勘違いをしている。


「僕はそんなんじゃないさ。誰かが決めたルールに運良く適合しただけ。それだけの、ただの魔法使いさ」


 神格、僕は神なんかじゃない。何も生み出せないし、自分の知識以上のことは何も知らない。出来ることだって、この魔法という技術の範囲内に限られる。ただ、ルールの内で強いだけで、ルールを生み出すことは出来ない。


「は、面白い」


 彼女は、僕の訂正を聞いて、ただ一言、そう言った。不気味な、笑みを浮かべて。


「名を聞かせてよ、魔法少年。僕らがぶつかるんだ、お互い、加減は出来ないだろ」


 それから、何事もなかったように、大剣を手に取って、戦闘態勢を取った。どうやら、僕はこの化け物にそれだけ評価されたらしい。それが良いことか悪いことかで言えば、間違いなく悪いことなんだろうけど、それでも不思議と、僕は高揚していた。


「二条院、二条院空」


 嫌、不思議でもないか。彼女は、恐らく世界でも有数の強さを持っている。そんな相手に才能はあれど、実戦経験もろくにない僕が立ち向かう、なんていう難題だ。勝率は片手で足りるほどのパーセンテージ、だけどゼロじゃない。


「魔法少年はここで終える。僕は、稀代の魔法使い(ウィザードリィ)だ」


 僕はそう言って、レヴィアタンに杖を向けた。ゼロじゃないなら、足掻く価値はある。今の僕が持てる全てを使って、この怪物に勝ってやる。


「その意気や、良し」


 レヴィアタンが、更に不気味に、大きく笑みを浮かべた。そして、僕の名乗りに応えるかのように、彼女も名乗りを上げた。


「我が名はレヴィアタン。【創造神】ジェイド・アルケーに創られし【新世代】の竜にして、人を殺す定を受けし者」

「精々、我を越えて見せよ、魔法使い!」


 そして、僕たちの戦いは始まった。

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