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氾濫の前兆

ここまで、読み進めていただいたあなたに一つ謝らなければならない事があります。

第1話目で約12万字程度でこの話は完結するといいましたが、あれは嘘だ。

12万字を超えてしまいますが引き続きお付き合いくださいませ。

 南町の防壁を守る門兵に連絡が届く。


「伝令だ。現在、南町以外の防壁町で連日魔物が森から抜け出して町を襲撃している。1日に十数程度で、今のところ被害はでていないが、国は魔物の氾濫の前兆ととらえて警戒せよとのことだ。南町の現状はどうだ?魔物の襲撃はあるのか?」


 南の防壁を守る長が答える。


「いや、南町に魔物の襲撃はない。平和そのものだ」


「そうか、なぜ南町にだけ襲撃がないのかわからないが、気を緩めず警戒を強めて欲しい。変化が起きれば中央まで連絡してくれ」


「わかった」


 連絡事項を伝え終わると、すぐさま連絡員は中央へ戻っていった。それから長から兵全員に現在起きている各防壁町の状況を説明される。それからは兵たちの話題は魔物の氾濫の一辺倒だった。


「まさか、本当に氾濫が起きたというのか信じらんねぇ」


「森から魔物が出てくるなんて滅多にあることじゃねぇ、それが連日となると確実だろうな」


「俺たちはどうだろうか、ちゃんと町を守れるだろうか?今まで魔物が複数で襲撃してきたことなんてなかったよな」


「そうだな......1体の魔物に対して複数人で攻撃して一気に畳みかけて倒す。1体だけならなんにも怖くねぇけど......」


「魔物氾濫っていったいどれぐらいの魔物が襲ってくるんだ?」


「長は一日に十数程度だと言ってたぞ」


「バカ、それは今の状況でだ。本格的に溢れ出てきたら200ぐらいは行くんじゃないか?」


「200体かそれなら門兵全員で当たれば、ひとり当たり2体という計算か意外と何とかなるんじゃないか?」


「それはないだろう......過去の魔物の氾濫では召喚騎士サモナーナイトの半数が死んだことがあるみたいだぞ」


召喚騎士サモナーナイトが死んだって事は一般兵はそれ以上に被害があったって事になるよな......」


「くそ、なんで俺らの時代に氾濫なんて起こるんだよ!ずっと平和だったじゃねーか!こんな事なら戦闘職の仕事に就くんじゃなかったぜ」


「......滅多な事を言うな。俺たちが戦わなければ、お前の家族が犠牲になるかもしれないんだ」


「......すまない。そんなつもりで言ったんじゃないだ。......弱気が口から出ただけで、本心じゃない。俺はちゃんと戦う......」


「わかってる。それに魔物の氾濫が起きたら知らん顔なんて誰もできやしねぇさ、一般人も徴兵されて戦場にでるんだ」


「......そうだな。でも、ちゃんと戦えると思うか?この前の事件の時、たった1体の魔物の叫び声でパニックになってたよな」


「あのバケモンの時か、正直俺もあの魔物の叫びで正気を保てていたのは、周りのパニックを治めようと気を張っていたからだ。あの魔物、リョウリョウガルマだっけかアイツに狙われて正気を保っていられるか自信ねぇよ......」


「俺もだ、下手したらゴブゥ100体の群れなんかより、アイツが2~3匹で襲ってこられる方が危ないかもしれない」


「おいおい、何言ってるんだ。氾濫という事は、ゴブゥ100体の群れに、リョウリョウガルマが混じってやって来るんだよ」


 その場にしばしの沈黙が訪れる。


「......ヤバいな。ゴブゥは町民に任せるとして、俺たちでリョウリョウガルマを倒さないといけないのか、お前、1対1でリョウリョウガルマを倒せるか?」


「......無理だ。勝てるイメージが沸かない」


「確実に倒すには5人がかり......いや10人で囲んで」


「10人なんて人数割けられるわけないだろう」


「待て待て、あの時、緊急でリョウリョウガルマを引き連れた青年を助けるために向かった眷属は5体だったはずだ。それでちゃんととどめを刺してる。あの青年とその眷属だけでも戦えていたのをみんなも見ていたはずだ。俺たちはプロだ。あの青年のちっこい眷属より自分の眷属が劣ってると思ってるやつはいるか?」


 発言した門兵は全員の顔を見渡す。


「いないだろう?確かに青年自ら戦いに参加している事には驚いたが、しかしそれで戦えていた。つまり、リョウリョウガルマを倒すために最低限必要な人数は2名だ。俺たちはあの不気味な声に必要以上に恐怖心を煽られてしまってるだけだ」


「......確かに。あのちっこい眷属の一撃で倒れる姿も俺は見た。戦闘力自体は大したことねぇ......か。警戒するのはあの声」


「声がダメなら、いっそのこと耳栓をしてしまえばいいんじゃねぇか?」


「それだ!お前頭いいな」


「なんだ、なんだ、どうにかなりそうじゃないか!」


「それなら俺たちはいつも通り、やってくる魔物を集中砲火で仕留めるだけだ。数が増えても関係ねぇ」


「はは、そうだな。いきなりの事でびっくりしてしまったけど、他の町も被害は出てないって事はそういう事だ。下手に不安がるのもいけねぇってこったな」



 門兵たちはひとしきり笑ったあと、話は済んだとばかりに散っていく。その話の結論が正しいかどうかは実戦を通して証明することになる――――。



§§§



 北の防壁町では森への警戒はしているが、それ以外は日常と変わらない生活を送っていた。


「何か問題はあったか?」


「いえ、森から単発的に魔物が飛び出してきますが、余裕を持って対処できています」


「うむ。これが魔物の氾濫というなら、大した事はないな」


「そうですね。普段が平和過ぎたと言ってもいいぐらいで、逆にこうやって定期的に魔物が襲撃してくれると、仕事にもメリハリが出て良いという声も上がっているほどです」


「うむ。我々は必要以上に森の魔物を恐れすぎていたのかもしれないな。森への不可侵なんてものは撤廃して、もっと活動範囲を広げて、ゆくゆくは森を支配する。そんな野望を抱くぐらいが丁度いいと思わんかね?」


「おっしゃる通りです」


「して、今日の戦利品は何か届いておるか?」


「今日はランラブルブの肉が届いていますよ」


「ほぉ、それは良い。あの肉は真に美味であるからな、もう確保はできているのか?」


「もちろんです」


「それならよい。今日は兵士全員で景気をつける事にしよう」


「きっと士気も高まる事でしょう」


「うむ。兵士の士気を高めるのは私の仕事であるからな、はっはっはっは」



§§§


 東の防壁町では、町民が広場に集められていた。


「みんな忙しい中集まってもらってすまない。今、この国では大変な事件が起きようとしている」


 壇上に立つ男は、しばらく間を取って言葉が浸透していくのを待つ。


「今まで、大人しかった森から、連日で魔物が襲撃するという事件が起きている。だが、心配しないで欲しい。その魔物たちは防壁を守る兵士によってすべて問題なく仕留めている。これがその魔物たちだ」


 天幕から魔物が運び込まれて、町民たちの目に晒される。死んでいるとは言え、初めて見る魔物の姿に町民たちからざわざわと声があがる。



「これまでに我が国は魔物との戦争を何度も繰り返すという歴史がある。今回もそれにあたるのではないかと国は警戒を強めている」



 男は自身の言葉が過不足なくちゃんと伝わっているかひとり、ひとりの顔を確認して見渡す。


「私たちは、魔物と隣り合わせの中生活している。その事を忘れた者はいないと思われるが、今までは平和過ぎた。かつて、模擬戦闘で戦い方を学んだとしても、その勘を鈍らしてしまっている事だろう。しかし、それは仕方のない事だ」


 男は並べられた魔物を指さし人々の視線を誘導する。


「この魔物をみて、恐ろしいと思った者もいるだろう。好き好んでこんなバケモノと戦いたい者もいないだろう。しかし、避けられない戦いというものがある」


 男は一度言葉を切り、語尾を強める。


「私は、ひとり、ひとりに言いたい!いいですか?大切な事なので、これだけは心に刻んで欲しい!」


 静まり返った会場に、今度は注意しないと聞こえないような優しい声で問いかける。


「あなたに大切な人はいますか?あなたが魔物から逃げれば、次に標的にされるのはあなたの大切な人です。でも、あなたが魔物を倒せば、それで大切な人を守る事ができます。......この事件が落ち着いたあと、家族揃って食事をしたいのなら、......友人と無事に乗り越えたと笑い合いたいのなら、あなたにも出来ることがあります」



 会場の人々の視線が一度壇上の男から外され、隣り合う人々を確かめるように動く。壇上の男はそれをじっと静かに見守る。


「あなたの隣を見てください。私たちには眷属という強い味方がいます。彼らはこんな魔物なんかよりずっと強い。それを思い出して欲しい。......ここからは私のお願いです。どうかあなたたちのチカラを貸していただきたい」


 会場の人々の中から大きな声が上がる。


「なーに当たり前の事言ってんだよ。俺たち東町の住人みんな家族だ!家族を守る為なら俺は戦うぞ!」


「そうだ!そうだ!魔物が襲撃してくるなら、返り討ちにするだけだ!遠慮なんかしないで俺たちにできることがあったらなんでも言ってくれ!」


 会場が一気に活気づく。壇上の男は深くお辞儀をして感謝を伝える。



「ありがとう。これ以上に心強い言葉はない。もちろん私たちは命を懸けて前線に立ちみなさんを守る事を誓います。無理な事はさせません。遠距離攻撃ができる眷属は我々と防壁の上に立ち安全な場所から支援して欲しい。余裕のある今の内からその訓練をしてもらいたい」



「いいぞ!やってやろうじゃないか!なぁみんな!!」


「「「「「おお!!!」」」」」




§§§



 西の防壁町では部屋に町長と兵士長のふたりが腰かけ会議をしていた。


「まったく不気味ですね。こうも魔物が押し寄せてくるなんて」


「そうですね。今の内に何かしらの手は打っておいた方が良いでしょう」


「戦いに関しては、何から手を付けて良いかわからず申し訳ないがまず何から対策して良いのか......」


「そうですね。まず一番怖いのは町民が魔物を見てパニックになることです。そうなると戦いに集中できなくなりますから」


「なるほど。では、この事態はなるべく町民には知らせない方が良いというわけですね?」


「いえ、その逆です。今は問題なく対処ができています。ですからその戦闘風景を町民の方々に見せる事によって安心させる方が良いかと」


「なるほど。では、知らせを出して戦いを見世物として公開する形で良いですかな?」


「そうですね。希望者には戦いに参加させてみてもいいかもしれません。もちろん安全は私たちが保証します」



「そんな楽観的で大丈夫ですか?もし、強い魔物が現れた時はどうするお考えで?」


「もちろんその時は、あの人を引っ張り出しましょう。私たちの町の英雄フレア様です」


「なるほど。なるほど」


「あの人は強く美しく、戦いが本当に好きですから、この町の危機となれば飛んで駆けつけてくれるでしょう。あの人以上に強い人を私は知らない」


「だから、こうも余裕があるわけですね?」


「そうです。私はあの人と戦った事がありますが、強さの次元というものが全く違います」


「ほぉ」


「この町の門兵を全員集めて彼女一人に勝てるかどうか......」


「っはっはっは。それは、言いすぎでしょう」


「いえいえ、事実ですよ。だから、魔物が100体の群れを成してやってきても彼女の前ではひとたまりもないでしょう」


「それほどとは......」


「えぇ、だから何の問題もないかと。もうすでに彼女に当てた手紙も送ってあります。召喚騎士サモナーナイトは各防壁町に派遣されるはずですから、この町には彼女がやってくるでしょう」


「それは、それは」


「私たちは問題を起こさず、彼女が自由に戦える環境を整えるだけで良い、いえ、そうしなければいけません」




 ――――こうして、それぞれが違う思惑の中、事態はゆっくりと進行していく。本当に命を懸けた戦いがどれほど苛烈を極めるか、一体どれほどの人が理解していたのだろうか。


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