父との約束
物語を描くのって難しいですね、笑
ちょうど日が天辺まで登り切らない頃、森のすぐそばにある二階建ての一軒家では、昼食の準備がされていた。
居間のテーブルには7つパンが既に置かれているが、そこへジャガイモとカブと牛肉を軽く煮たスープが3人分、囲むように並べられている。
スープを運び終えたエリィは、一足先に自分の席に着いていた。
「ママ〜、パパはまだぁ〜?」
エリィは両足をパタつかせ、スープの湯気が消えてしまうことを心配している。
「そうねぇ、、、まだ仕事場にいるだろうから呼んできて頂戴。」
昼食作りという自分の役目を終えた三十代半ばの人妻は、最近の悩みであるほうれい線が目立ち始めた顔に手を添えて、考える素振りを見せた後、いつものフレーズでエリィにお願いをした。
「はいはーい。」
このブラス一家においては、家主であるデンダークを仕事場へ呼びに行くことは慣れたことである。
椅子を拳二個あたりだろうか、自身の通り抜けられるギリギリの隙間を開けて、成長しきらない体を目一杯右へと捻って立ち上がった後、「ブラスの金床」の仕事場で作業をしているであろう父を呼びに行くために膝を進めた。
テーブルとキッチンの間の床を、軽い小刻みなリズムで軋ませ、そのままの勢いで玄関の扉を閉めた。
ブラス一家が住む家から「ブラスの金床」までの距離は、エリィの歩幅で20歩ほどの大変近い場所にある。
お店の正面に位置する受付脇の「金床」と大きく書かれた暖簾をくぐったあたりで、エリィに気づいた青年がいた。
「エリィちゃん!デンダークさんを呼びにきたのかい?」
エリィへ声をかけた青年は、3ヶ月前からこの鍛冶屋で働き始めたマートスだった。
「マートスだ、」
エリィは彼に対して、敵意とは違う、もどかしい扱い辛さを感じていた。
今年で12歳になるエリィは今まで、同年代の友達は居たものの、成人した男性との関わりは、父の仕事場でしか経験した事がなかった。
その上、
ーーーあの汗臭い、ヒゲを生やしている、ごつい体をしたのが男だ。ーーー
という認識を持っていたエリィにとって、中性的な顔立ちで、体の線も細く、常に女性に優しく振る舞うマートスという存在が、違和感でしかなかったのだ。
「パパは?」
まだ育ちきっていない純粋な少女は、違和感である青年の扱いに困らながらも、自らの目的を尋ねた。
「午後に向けて大事な準備があるみたいで、きっと倉庫にいると思うよ!」
ーーやばいなぁ、この職場に入って1ヶ月、そろそろ娘さんのエリィちゃんにも懐かれなくてはいけないんじゃないかなぁ。。。このまま娘さんに嫌われたままだと今後に関わるかも!ーー
そんな青年の過度な妄想には相手もしない様子で、父であるデンダークを探しはじめる。
「受付と鍛冶場にはいない、、じゃあ勝手口の外! にもいないなぁ。 まさかっ、、マーストは真実を吐いたのか?」
エリィとマーストの関係はこんなもんである。
あの得体の知れない青年の言っていた通り、私の父は倉庫にて、売れ残った刃物を入れておく木箱を物色していた。
「パパ?何してるの?」
珍しい。
仕事熱心なパパは、呼びに来ると大体赤黒くなるまで火にくべられた鉄に執心しているはずだった。
倉庫のことはマートスに任せる事が多いのに。
マートスは何かしでかしたのか?
「おぉ!愛しのエリィよ!なんの用だね?」
右手に持った鈍色に光る何かをさっと袋に包んだ後、勢いよく振り向いた。
パパはとても機嫌がいい。
新しい取引先が羽振り良かった日の夜、さらにいい時間で切り抜けられ、愚痴を聞かずに済んだ日のように。
つまりは、滅多にない上機嫌っぷりを見せている日だ。
これは昨日交わした、森へ連れて行ってくれる約束を忘れていたわけではあるまい!と思ったエリィは胸を撫で下ろし、
「パパ!ママがお昼が冷めちゃうって怒ってるよ!」
と少しだけ、大袈裟に伝えた。
「そうか、ならば急がなければな!」
こんなに機嫌がいい返事は聞いたことがない!
エリィは父の左隣でご機嫌になる足の動きを隠しきれずにいながら、もうすっかり冷めたスープのまつ家へと急いだ。




