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鳥籠の鳥 7


 「俺は! 君を愛してるんだ! これは君を愛してる証拠だ! でなければこんな物を、君とお揃いの物を渡すのにこんなにも苦労しない。たかだかリングなのに、物なのに、君の事を思うと俺はずっと渡せずに居たんだよ。だけど、……そうだな。茉莉花。君の言う通りだ。君はもうとっくに俺のモノだ。これからも俺と一緒に居ろ。拒否は許さない。離れる事も許さない。君は一生俺と一緒に居るんだよ。君の不安も恐怖も、君を悲しませる全てから俺が守ってやる。だからおとなしくこれからも俺の妻でいろ。俺を愛していろ。いいな」


 茉莉花は口に手を当てクスクスと笑いもう一つの指輪を手に取った。ベルナルトの右手を掴むと同じく薬指にはめた。


 「はい。喜んで貴方の鳥籠の鳥になります」

 「どうして……? 君は俺が嫌いなんじゃないのか?」

 「ちゃんと考えてください。嫌いなんかじゃないって分かるでしょ? 貴方こそどうしてですか?」

 「どうもこうも無いだろう。好きだから。ただそれだけだ。君を他の男に盗られたくない。君が泣く時も怖がる時も傍に居るのは俺だ。俺以外が君をあやすことは、……考えただけでもはらわたが煮えくり返りそうだ」

 「さっきまでと言ってる事、真逆じゃないですか。まるで子どもですね。でもそんなところ好きです。ベルナルトさんは強引で自分勝手で私の事なんて考えてくれないと思ってましたけど、でも、いつも本当に悲しい時や怖い時は傍に居てくれました。私の名前を呼んでくれました。何度も何度も……。たまに見せる変に紳士な所も本当は好き。ドキドキします。いっぱい喧嘩もするけど、でも最後は貴方が傍に居てくれないと安心できません。昨日だって、貴方に怒ってた。でも、迎えに来てくれた時すごく安心しました。不謹慎だけど愛してるって言われて、何もかも吹っ飛ぶくらい嬉しかった。怖かったのが嘘みたいだった。だから全部受け止められます。こんな訳の分からない事に巻き込まれていたのも、受け止められます」


 茉莉花は目に涙を溜めながら嬉しそうにベルナルトに微笑み掛けた。ベルナルトはそんな茉莉花を見て更に頬を染めてそっぽを向いた。


 「……。俺が好きなのか?」

 「はい。私ベルナルトさんの事好きです。ずっと前から。だから幸せにしてください。ベルナルトさんは私の事好きなんですよね? 信じていいんですよね? 私が反抗的だから構ってくれてたわけじゃないんですよね?」

 「ああ。君が反抗的だろうがそうでなかろうが愛してる。これは本心だ。じゃなきゃ無理に面白くもないホラー映画を君に見せたりしない」

 「はぁ!? わざと!?」

 「当たり前。君が怖がって抱き付いて甘えてくるから選んでいただけ。君の事が好きだから甘えて欲しいから、その為だったら俺はどんな手段も使う。それに君に嘘なんて吐かないし」

 「もうそれが嘘ですけどね。今まで嘘だらけじゃないですか」

 「うるさい。黙ってろ」


 ベルナルトはそう言い茉莉花の唇を塞いだのだった。茉莉花は嬉しそうに頬を緩めそれを受け入れていた。啄むようなキスを何度もした二人はお互いに顔を合わせ笑いあったのだった。ベルナルトはとびっきりの笑顔で茉莉花を抱き上げていた。茉莉花は頬を染めながらもベルナルトの肩に手を掛けていた。


 「改めて、よろしくお願いします」

 「ああ。君を妻に貰えて私は幸運だ」

 「恥ずかしい事言わないでくださいよ……。それに強制でした」

 「そうだったな。今初めて君の返事をもらったんだった。ああ、そうだ、茉莉花。今後は私の事をベルナルトさんではなく、ベルと呼ぶ事。敬語も禁止」

 「え……」

 「出来るだろう? ほら呼んでごらん」

 「あ、え、えっと……ベル」

 「いい子だ」

 「う、子ども扱いしないでください!」


 茉莉花は頬を膨らましジタバタと暴れた。それを物ともせずベルナルトは茉莉花の耳に顔を近づけ囁いた。


 「敬語はダメだと言っただろう?」

 「うぅ……。じゃあ、ベルも私の前では俺って言って」

 「……」

 「なんで黙るの!?」

 「ふむ、私が一人称を変える時は素を出している時だ。感情的な時。話し方も変わってしまうが、良いのか?」

 「別にいいよ。知ってる。俺様だって事くらい。自意識過剰で自信家なのも。変な所はヘタレだけど……」

 「誰がヘタレだ」

 「ベル。だって焚き付けないと告白もしてくれないんだもん。一丁前に色々準備だけはしてるのに、他のどんな物よりもその言葉が欲しかったのに、言ってくれなかったし」


 茉莉花は拗ねた様に口を尖らせていた。ベルナルトは呆れた様に溜め息を吐いた。


 「君には弱いんだ。仕方ないだろう? 俺にだって欠点の一つくらいはある。富もルックスも完璧。何をしても完璧にこなせる。誰もが羨む人生だな。だけど君だけは……、未知数だ。理解できない事の方がまだ多い。まだ勉強不足なのか? 君をもっと知りたい。君を完璧に分かりたい。君が嫌な事も好きな事も全部知りたい。だから一生俺に付き合え」

 「やっぱ、自意識過剰!! 容姿の事やっぱり完璧だと思ってたんだ……。うわぁ、ちょっと引いちゃう」

 「何処が? 俺の見た目はどこかおかしいか?」

 「……額の傷、本当は怒ってる?」

 「いいや? それすらも俺は物にしてしまうからな。これがあるおかげでただのイケメンではないと分かるだろう? 苦労しているようにも見えるし、少しの悪さをしているようにも見える。演出だよ。茉莉花、俺は客観的に見てもかなり鮮麗されている方だと思うが? 実際、取材やメディアではイケメン実業家と持て囃されている。世間も認めている。君が、俺の姓を聞いても、ずっと傍に居ても俺が誰なのか知らなかったのには正直驚いた。複雑な心境だった。それに身なりだけじゃないぞ? 君が胸板が好きだと言った時から更にトレーニングも増やした。君は俺の顔や身なりよりも体が好きなんだろう? 君が誰よりも俺の胸板が一番好きだとずっと言ってくれるように、ボディを維持する努力をしてるんだ。だから君に裸を見せるのは楽しみなんだ。ああ、そうだ今度はプライベートビーチにでも行こうか。今度は一緒に水着を選びに行こう」

 「……。この人恥ずかしいよ……! 気にした私が馬鹿みたい……!」


 茉莉花は赤くなった顔を両手で押さえていた。ベルナルトは眉間に皺を寄せ小首を傾げてそんな茉莉花を見つめていた。


 「俺が夫で恥ずかしいだと……?」

 「あの、ベルは実際カッコいいし、スタイルもいいし、見た目だけでも惚れちゃいそうだけど……! そういう事口に出さないで。恥ずかしいから! 己惚れ過ぎ! そんなだから友達出来ないんだよ!」

 「あっそ。好きに言えばいいさ。君が居るなら友人などいらない。そんな事より茉莉花、結婚式をしよう。二人だけで。君にはどんなドレスも似合うだろうから沢山取り寄せよう」

 「私、着せ替え人形じゃないんだけど」

 「君は俺の着せ替え人形だ。俺の妻をどう扱おうが俺の勝手だ。ああ、勿論虐待はしないから安心して? 君に暴力を振るうなんて、傷つけるなんてありえない。そうだなもう隠れる必要もないし、引っ越しもしよう。一等地に豪邸を建ててそこで暮らそう」

 「ベルの虐待の価値観と、私の虐待の価値観は違う様な……。何度も虐待されているのは気のせい……? てか、着せ替え人形の時点で、もはやもう虐待だし……。それにまた、買い物癖……」

 「俺の決定に逆らうな」

 「はいはい……」


 茉莉花は苦笑いを浮かべていたが何処か嬉しそうだった。ベルナルトも茉莉花を見てふっと笑いもう一度キスの雨を降らせたのだった。ベルナルトは優しい顔つきで茉莉花を見ると頬を緩ませ、少し紅潮させて満面の笑みで言葉を紡いだ。


 「ああ、茉莉花。大切な事を言い忘れた。遅くなったが、ハッピーバースデイ。産まれてきてくれて、俺と出会ってくれて、ありがとう。幸せだよ」


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