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鳥籠の外へ 3


 「それはそうとジャスミンとは上手く行ってるの?」


 ベルナルトはギロリと鋭い視線でエドモンドを睨んだ。


 「な、何? 上手く行ってないんだ?」

 「茉莉花は、あいつは私よりもお前がいいと言った」


 エドモンドは口笛を鳴らし嬉しそうにニヤついた。


 「へぇ?」

 「私が大嫌いだとそう言った」

 「それはまた」

 「何が気に入らないんだ! これほど良くしてやっているのに。茉莉花には何でも最高級の物を与えてる。着るものも食べるものも、住む場所だって……! それなのにプレゼントは気に入らないと言うし、食事も全然喜ばない。私には笑顔の一つも見せやしない。私に、この私に抱かれているというのに、全く嬉しそうにしない! 何が気に食わないんだ……!」


 エドモンドは何度目か分からない苦笑いをベルナルトに向けた。ベルナルトは悔しそうに口をへの字に曲げ苛立たし気に足を揺らした。


 「私の配偶者になれたことだって喜ぶべきだ。数多の女の中から彼女をパートナーに選んでやったのに、それなのに彼女は泣いて嫌がって、酷いと私を罵った。こんなにも彼女の事を思い彼女に尽くしているのに。茉莉花の為に何もかもしているのに、愛してやっているのに」

 「……ベルの愛してるは何て言うか、教科書みたいだね?」


 ベルナルトは眉をピクリと動かし苛立たし気にエドモンドを見た。


 「は?」

 「何て言うか、義務? 薄っぺらい? そうする事を自分に言い聞かせてるって言うか……」

 「何がだ?」

 「愛してる、なんて口では簡単に言えるよ」

 「私は何も間違っていない。茉莉花を愛している。夫婦としてすべきことをしているだけだ。夫の義務を果たそうと努力している」

 「それが教科書みたいだなって」

 「教科書……?」


 エドモンドは困ったように溜め息を吐いた。


 「俺が言うのも何だけど、俺だって分からないけど、愛ってそんな物じゃないと思う。形何て、決まった、すべき事なんてないんだと思う。ベルの愛してるは嘘くさい。薄っぺらい。君は彼女を愛してない」

 「愛していなければ結婚などしない」

 「君の愛してるは義務だ」

 「私は茉莉花を愛している。保護する責任があるんだ」

 「ほらね? 愛してなんかない。ジャスミンを愛してると思い行動する事こそが君の、君が自分に課せた義務なんだ。本当の愛なんかじゃない。だから彼女だって……」


 エドモンドはそこまで言うと口を閉ざし再度大きく溜め息を吐いた。


 「……俺が何言ったって聞かないんだろ?」

 「全くお前も茉莉花も理解出来ない」

 「……ジャスミンの気持ちにもなってあげなよ?」


 エドモンドは呆れた様に眉を下げやれやれと言いたげにベルナルトに言った。ベルナルトは理解が出来ないのか眉をひそめエドモンドを見ていた。


 「意味が分からない。私は茉莉花にとって最善の方法を取っているんだぞ? 彼女を幸せにしようと努力してるんだぞ? 何が間違いだと言いたいんだ?」

 「それはベルの考えでしょ? ジャスミンがそうして欲しいって言ったの? ベルに何でも決めて欲しいってそう言ったの?」

 「それは……」

 「犬や猫を飼うんじゃないんだからさぁ……。彼女だって生きてるんだし、彼女の意思もあるよ。ベルはそれを考えてる? ジャスミンが何が好きでどうして欲しいとか、そういうの考えたことある?」

 「……」

 「ないでしょ? そりゃ結果的に見ればベルのやってることは正しいのかもしれない。でも、理由も分からずに巻き込まれたってジャスミンは喜ばないよ。ちゃんとジャスミンと話してどういう意図でそうしているのかとか説明してあげなきゃ。その上で彼女が望んでいる事をしてあげなきゃ意味ないでしょ」

 「ふん」

 「ベルはそういう配慮が全く足りない。プレゼント一つ渡すにしたってどうせ素っ気なく渡してるんでしょ? ベルなりに何か思って渡してるなら、その気持ちを言葉にして伝えなきゃ。ジャスミンは今までベルが相手にしてきた女とは違うんだよ。ジャスミンはベルの容姿にも、権力や財力にもなびかない。君自身という男を見ている。まぁ今の所ベルは最低な男なんだろうけどね?」

 「悪かったな、最低で」

 「ジャスミンに言いなよ。俺の話し分かった?」


 ベルナルトは渋い顔をしてエドモンドから視線を外した。


 「前に茉莉花に歩み寄る努力を私がすべきだと言われた」

 「そういう事!」

 「……私には必要ない。彼女が歩み寄るべきだ」

 「だから! ベルもジャスミンに歩み寄って欲しいなら君が先に彼女に歩み寄らないとだめなんだってば! 何でも自分の思うようにいくと思うなよ」

 「今までなんだって思い通りになって来た。なのに茉莉花だけは違う」

 「好きなら彼女の気持ちも考えてあげて。どうして君を嫌いだと言うのかも、君に笑わないのかも、彼女の身になって少し考えてあげれば分かるでしょ。ベルだってそこまで馬鹿じゃないんだからさぁ。ベルのしてることが正しいとか正しくないとか決めるのは俺じゃないし、ベル自身がどうすべきか決める事だけど、でも、友人として言わせてもらう。今現在どう考えたっていい方向に進んでるとは思えない」

 「……ふん」

 「思ってることはちゃんと口に出して伝えた方がいいと思うよ?」


 ベルナルトは鼻を鳴らし窓の外を見た。外は陽が沈み掛けて赤くなっていた。


 「茉莉花はもう帰ってきた頃か」


 そう言うとベルナルトは立ち上がり廊下へと続く扉を開いた。エドモンドはベルナルトを驚いたように見ていた。


 「何処に行くの?」

 「茉莉花を迎えに行く」


 エドモンドは一人ほくそ笑むとベルナルトの後を歩いた。


**


 「ああ、良かった。チェン、茉莉花を見ていないか?」


 玄関ホールに続く廊下でベルナルトはチェンの姿を見つけ呼び止めた。チェンはピクリと肩を震わし、委縮したようにベルナルトを見上げた。


 「お、奥様ですか?」

 「ああ」

 「まだ、お戻りには、な、なられていないようです」

 「何処に行ったか分かるか?」

 「い、いえ。申し訳ありません」


 ベルナルトは眉間に皺を寄せた。チェンはそれに怯えたのか更に縮こまりお辞儀をすると去っていった。


 「おかしいな」

 「何が?」

 「茉莉花だ。いつも日が暮れる前には戻って居る筈なのに……」


 ベルナルトは妙な胸騒ぎを感じた。何だか嫌な予感がしていた。踵を返し足早に自室へ、とある物を取りに向かった。エドモンドはまたも驚きたじろぎながらもベルナルトの後を小走りで付いて行った。



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