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肖像画の注文 2

**


 「随分と楽しそうだったな?」


 屋敷に戻りサロンに案内された茉莉花とエドモンドをベルナルトはその一言と共に迎えた。ムスッとした表情で奥のソファに座りカップを傾けるベルナルトに、呆れた様に両手を広げ溜め息を吐いてエドモンドは手前のソファに腰掛けた。茉莉花は戸惑いながらもエドモンドの横に腰を下ろした。ベルナルトは茉莉花を見ると更に表情を歪めていた。


 「茉莉花」

 「何ですか?」

 「こちらに来い」


 茉莉花は眉間に皺を刻みベルナルトを見た。エドモンドはまた呆れた様に溜め息を吐き、茉莉花の肩を抱いた。茉莉花は一瞬固まったようにキョトンとし、それから慌ててエドモンドの腕を解いた。


 「どこでもいいでしょ。ジャスミンも疲れてるんだから、そんな命令するみたいに言うなよ」

 「……」


 ベルナルトはムスッとしたままエドモンドを睨んだ。エドモンドは悪戯っぽくベルナルトに舌を出していた。


 「ていうか、ベル見てたの? 覗き見何て良い趣味してるね! それとも見張ってたのかな?」


 エドモンドの皮肉にベルナルトは眉間に深く皺を寄せ舌打ちをした。


 「たまたまお前達が戻ってくるのが見えただけだ。見張ってなどいない」

 「本当に? 俺にジャスミンを取られて妬いたんじゃないの?」

 「そんな事はない。茉莉花は私の妻だ。お前の物じゃない」

 「俺はベルみたいにジャスミンの事、物だなんて思わないけど?」


 エドモンドは変わらず挑発的にベルナルトに話しかけた。ベルナルトは鋭い視線でエドモンドを睨み続けていた。茉莉花は困惑し、どうしていいのか分からずに狼狽えていた。


 「そんなだからベルはジャスミンに笑ってもらえないんじゃないの?


 「お前には関係ない。茉莉花が笑わないのは元々だ」

 「へぇ? 本当にそう思ってるの? さっき見てたんでしょ? ジャスミンは確かに俺に微笑み掛けてたよ? それにジャスミンはベルに対してよりも俺に対しての方がフレンドリーだし、どう考えてもベルよりも俺の方が親しいと思うけどな。ね? ジャスミン」


 エドモンドはベルナルトから茉莉花に視線を移し、ニコリと笑った。茉莉花は突然に話題を振られた事に驚きたじろいでいた。


 「え、ええ?」

 「ベルより俺と居る方が楽しいでしょ?」


 茉莉花はエドモンド越しにそっとベルナルトを見た。ベルナルトは不機嫌そうな顔をしていた。


 「ど、どうしてそんな事聞くの?」


 エドモンドはキョトンとして茉莉花を見ていた。その後クスクスと笑いだした。


 「ちょっとベルをからかってやろうと思って! ごめんね? ジャスミンを困らせるつもりは無かったんだ」

 「そうなの?」

 「うん! 大成功! ベルってからかいがいあり過ぎ。見てよあの顔! あの心底嫌そうな顔!」


 ベルナルトは舌打ちをするとまたカップを傾けていた。エドモンドは腹を抱え笑い出し、茉莉花は訳も分からず唖然としていた。


 「ははっ、はぁ……。でも実際の所、ベルと居るよりも俺と居る方がいいんじゃない?」


 笑い止んだエドモンドは茉莉花を真っ直ぐに見つめて問うた。茉莉花は困ったようにエドモンドを見ていた。


 「それは……」

 「答えられない? どうして? ベルが怖い?」


 茉莉花は表情を曇らせエドモンドから目を逸らした。


 (怖いって言うか、また何されるか分からないし……。ベルナルトさん夫婦を演じないと怒りそうだし……。何だかよく分からないけど、夫婦って事に固執してる様な気がする)


 そうしているとエドモンドは茉莉花の手を握った。茉莉花は驚いて再びエドモンドに視線を戻した。


 「エド、離して」

 「君が答えてくれたらね? ベルの事どう思ってるの?」

 「どうって……」

 「本当に好き?」

 「!!」


 茉莉花は目を見開いてエドモンドを見た。エドモンドは怪しく茉莉花に微笑み掛けていた。


 「好きじゃないのかな?」

 「そ、そんな事エドには関係ないでしょ? エドは何がしたいの?」


 茉莉花が困惑してエドモンドに尋ねると、エドモンドはキョトンとした顔で小首を傾げた。


 「さぁ? 俺にも分からない!」


 そう言うとニッと笑い茉莉花の手を離した。茉莉花はほっと胸を撫で下ろすと、出された紅茶に口を付けていた。


 「まぁそんなところみたいだよベル? このままじゃ俺がジャスミンを奪っちゃうかもね?」

 「ケホッ、ケホッ!」


 茉莉花は飲んでいた紅茶で咽ていた。その横で何食わぬ涼しい顔をしてエドモンドはフォークに刺したケーキを頬張っていた。


 「……茉莉花は私のモノだ」

 「ふーん?」


 ベルナルトがぽつりとそう零すとエドモンドはニヤリと笑い、妖艶な笑みをベルナルトに向けた。


 「それよりも随分と早かったが、絵は完成したのか?」

 「全然!」

 「エドモンド……。お前何しに来たんだ?」


 ベルナルトが溜め息を吐くと、ハハッと明るくエドモンドは笑った。


 「だってジャスミン笑ってくれないんだもん! 描けないよ!」

 「ご、ごめん!」

 「ジャスミンのせいじゃないよ? 今ので何となく分かったから」

 「何が?」

 「君が笑わないのはベルのせいだってね? ベルは君に優しくないんじゃない? さっきも言ってたでしょ? 強引だって。可哀想に……。きっと心苦しい生活を送っているんだろうね?」


 エドモンドはわざとらしくまるで下手な芝居でもするように、茉莉花の事を憂いていた。


 「分かるよ? こんな強引な男と毎日一緒にこんな何もないところで暮らさなきゃいけないんだ。心が曇る時だってあるさ!」


 エドモンドはまたもわざとらしく泣き真似を始めた。茉莉花は苦笑いを浮かべてエドモンドを見ていた。ベルナルトは興味が無さそうにテーブルの上の菓子に手を伸ばしていた。


 (エドは面白い人だなぁ)


 「だからベル、ジャスミンの絵は、君がジャスミンを笑わせられるようになるまで描けない。それまで諦めて。頑張って」


 ベルナルトはちらりとエドモンドを見ると溜め息を吐いた。エドモンドはニコニコとベルナルトを見るとガッツポーズを作っていた。


 「ねぇ、エド……」


 茉莉花はエドモンドの袖を引いた。エドモンドは小首を傾げて茉莉花に微笑み掛けた。


 「何だい?」


 茉莉花は口に手を添え小声でエドモンドに尋ねた。


 「今のってどういう事? エドが私の絵を描こうと思ったんじゃないの?」


 エドモンドはキョトンとした後、眉を寄せて困ったように笑った。


 「だからベルは君の事が好きなんだよ? 君の絵を俺に書いて欲しいと頼むくらいには」

 「え……?」


 茉莉花は空いた口が塞がらなかった。そーっとベルナルトを覗き見た。ベルナルトも茉莉花を見ていたようで目が合った。ベルナルトは驚いたように目を見開いた。茉莉花は顔を赤くして咄嗟にエドモンドの陰に隠れた。


 「ね?」

 「嘘、嘘!!」

 「嘘じゃないよー。ベルは恥ずかしがり屋さんなんだ。言葉では表さないかもしれないけど、いつか気づいてあげて?」


 (絶対嘘だ!)


 茉莉花は顔を赤くしたまま頬を押さえた。



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