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売れない画家 1

【8】



 ベルナルトとエドモンドは机の上に広げた写真を見ていた。


 「これでいいかな?」

 「ああ」

 「ベルに言われた通り家の中にあった物、何から何まで運び出したから」

 「分かっている。全て確認はした。どれもこれも取るに足らないものだらけだった。大方は燃やした」

 「ああー。やっぱり処分したんだー。それなら運び出さずに一緒に焼いてしまったらよかったのに」


 エドモンドは口を尖らせ愚痴りながら一つの写真を手にした。


 「きれいさっぱりだね!」

 「……」


 エドモンドから受け取った写真をちらりと見ると、ベルナルトはそれを机の上に戻した。


 「で、彼は? 居たのか?」

 「それがなんと! 地下に隠し部屋があってそこに。見つけるの大変だったんだよー? 感謝してよね!」

 「……そうか。通りで時間が掛かっていた訳だ」

 「本当に彼は生きてるの? 俺にはよく分からなかったんだけど……」

 「ああ」


 苦い顔をして言うベルナルトにエドモンドは驚いたように目を見開いていた。


 「そう。どうするつもり?」

 「どうもこうも、私は彼の願いを出来るだけ叶えるつもりだ。それがせめてもの……」

 「そっちじゃなくて、ジャスミンは?」


 ベルナルトは先ほどエドモンドに渡された写真だけ取り出し、他の写真の上に書類を置くと溜め息を零し、エドモンドを見た。エドモンドはベルナルトと目が合うとニコリと微笑んだ。


 「言わないつもり?」

 「いや、いずれ茉莉花も知ることになる。近いうちに言う」


 ひらひらとその写真を手に持ちベルナルトはまた溜め息を零した。エドモンドも困ったように笑った。


 「頑張って」

 「他人事だと思って……」


 ベルナルトはもう一度横目でその写真を見た。そこには焼野原と燃えた何かの残骸が少し映っているだけだった。


 「あの……」


 遠慮がちに聞こえて来た声にエドモンドはビクつき、ベルナルトは持っていた写真を近くに置いてあった本に挟んだ。二人して声のした方向、扉に振り返ると扉から遠慮がちに覗いている茉莉花の姿があった。


 「ジャスミン、どうしたの?」


 エドモンドは取り繕った様な笑顔を茉莉花に向けた。茉莉花は扉を全て開くとエドモンドを見た。


 「声がしたから……」


 ベルナルトは立ち上がり茉莉花に近づいた。茉莉花に手を伸ばすとさっと交わされ少しムスッとした後、無理に笑みを作った。


 「私に用事があったのか?」


 茉莉花はベルナルトを見上げ首を横に振るともう一度エドモンドを見た。


 「ベルナルトさんじゃなくてエド」


 ベルナルトはエドモンドを見た。エドモンドはハッとしたように手を叩いた。


 「あ、ごめん! もうそんな時間だった?」

 「うん。何かお話していたならまた後にするけど」

 「もう話は終わったんだ! ごめんねジャスミン待たせて。じゃあ行こうか?」

 「うん」


 部屋から出て行こうとするエドモンドを訝し気な目でベルナルトは見ていた。


 「何処に行く?」

 「俺の部屋だけど?」


 ベルナルトはエドモンドを睨んだ。


 「おお、怖っ! 勘違いしないでよね? ベルってむっつりだから困るよ。変な事は無し! ジャスミンが俺の絵を見たいって言うから見せてあげるだけだよ!」


 エドモンドは茉莉花の肩を抱くと歩き出した。ベルナルトはそれを睨みながら見ていた。エドモンドはベルナルトに振り返ると悪戯っぽく舌を出していた。


**


 「ところでさっきの話聞いてた?」


 廊下を歩きながらエドモンドは笑顔で茉莉花に尋ねた。茉莉花は小首を傾げエドモンドを見上げた。


 「ベルナルトさんとの? 声は聞こえたけど何を話してるかは分からなかった。聞いちゃ不味い話だったの?」

 「男同士の話し! ジャスミンには刺激が強すぎるかもねー」


 軽く笑うエドモンドに茉莉花は頬を少し赤くさせていた。


 「もしかして俺の部屋に行った?」

 「ううん。行く途中でベルナルトさんの部屋から声がしたから。扉空いてたよ? だからそんな話してるなんて思わなくて」

 「まじかー。閉めたつもりだったんだけど、でもジャスミンに聞こえてなくてよかった! そんな事で幻滅されたくないしね!」

 「私も聞かなくてよかったぁ……。聞いてもどうしようもないし。でも驚いた。ベルナルトさんもそういう話するんだ」

 「それって俺はしてそうって事? 確かに俺は軽いとかよく言われるけど」

 「え! ち、違うよ! 別にエドがそうだって言いたいんじゃなくて!」


 茉莉花は必死に手と首を振り取り繕った。エドモンドはそんな茉莉花を見てニヤニヤと笑った。


 「冗談。ジャスミンもからかうと面白いね?」

 「もう、止めてよっ」

 「ごめんごめん。……ベルも普通の男だからね」

 「男の人は皆そうなの? やらしいことを考えたりするものなの?」

 「そうだよ? ジャスミンも気を付けた方がいいよ。無防備だから」

 「そう? 私無防備かな……?」

 「うん! 大分ね。こんな風に普通、出会ったばかりの男の部屋に簡単に入っちゃダメだよ? 俺だからいいもののさぁ」


 エドモンドは呆れた様にしていた。茉莉花はギクリとし、身を縮めた。


 (考えてもみなかった。完全にエドに安心してたけど、エドも男の人なんだよね……。エドの言う通りかも)


 「そんなに意識しないでよ。本当にジャスミンに何かするつもりはないんだからさ! ほら着いたよ。安心して入って!」


 ニコリと微笑むエドモンドに苦笑いで返した茉莉花は部屋に足を踏み入れた。茉莉花がソファに座ると、エドモンドは荷物からスケッチブックを取り出し茉莉花に差し出した。


 「こんなのしかないけど」

 「ありがとう」


 茉莉花は嬉しそうにそれを受け取ると中身を見出した。


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