Cat and Rat
契約のあの夕暮れから九つ目の月が上がった。
…要するに、契約から八日経ったってコト。
飛ばすな?そんなの仕方ないじゃないか。
いつも通り詩月はとんでもない時間にばかり出勤要請してくるし、学校には来ないし。
なんの変わり映えも何もなかったんだ。
…まぁ、それはともかくとして。
『お客さん』は僕の祈りもむなしく『対価』について何一つ思うことなくこの世の春を満喫していたらしい。
全く…「ただより高いものはない」って言葉を教わらなかったのかな?
「お久しぶりね、お兄さん?」
「お、お前は……!あの時の!」
「―――願いの『対価』を回収しに来たの。さっさと渡してくれればもう二度と関わらないコトを約束するわ」
持ち出したのはあの時のだけでなく、もっと大量にあったらしい。
つい八日前に見たときは若干くたびれた服を纏っていたというのに今は見るからに成金趣味な、センスのない高級品ばかりで身を固めていた。
「『対価』……?」
「あら、言ったじゃないの…「商売」だって」
くすくす笑う詩月に徐々に顔色を悪くする男。
「私が望む『対価』は……なんだと思う?」
楽しげに笑いながら問う詩月。
……性格が悪いというか、なんと言うか。
「ち、くしょう……幾らだ!いくら出せば満足する!?」
悔しげに、憎々しげに告げた男に詩月は笑みを濃くした。
それにほんの少しだけ男の顔に安堵が混じったのを見て僕は彼に心の中で手を合わせる。
――――そんな簡単なものが『対価』であることは、とてつもなく少ないということを僕は知っているから。
「残念だけど……外れよ」
僕は詩月…『叶屋』のことを「妖怪」と表現したけど、実際はちょっと違うと思っている。
「私が貴方の願いを叶えた『対価』。それは…―――――」
彼女の緑色の眼が月の光の中で刹那、緋色に輝いたように見えた。
―――――知っているだろうか?神よりも願いを聞き届けるが、願いの代償としてその人を食い尽くす存在を?
「貴方の自由よ。
さあ、差し出してくれるわね?」
高慢なほど当たり前のように、彼女は綺麗に笑って言った。




