第四話 魔王軍、会議だけは無駄に長い
「というわけで!」
魔王が玉座の前で両手を広げた。
「緊急ネットワーク改善会議を始めます!」
その瞬間。
部屋の空気が死んだ。
通信部隊の面々が一斉に遠い目をする。
レヴィアは静かにため息をついた。
俺は嫌な予感しかしなかった。
「……ちなみに」
恐る恐る聞く。
「この会議、長いですか?」
レヴィアが無言で指を立てた。
「一本?」
「日だ」
「帰りたい」
だがもう遅い。
巨大な円卓に次々と幹部たちが座り始める。
重騎士団長。
魔導研究局長。
物流大臣。
結界運用責任者。
そして――
「配信戦略担当です」
「いるんだ……」
黒縁メガネをかけたインテリ風の魔族が一礼した。
「最近は“魔王様の日常配信”が若年層に人気でして」
「何してるんです?」
「主にゲーム実況です」
「魔王が!?」
「『初見・人類滅ぼす』というタイトルが当たりまして」
「終わってる」
会議が始まった。
いや、始まってしまった。
「まず現状確認だ!」
魔王が勢いよく言う。
「Wi-Fiが落ちた!」
「知ってます」
「困る!」
「知ってます」
「なので頑張る!」
「会議終わっていいですか?」
だが終わらなかった。
ここから地獄だった。
「では通信障害について説明します」
通信局の魔族が立ち上がる。
「まず第一に、第七中継塔の負荷増大が――」
長い。
とにかく長い。
専門用語。
責任転嫁。
言い訳。
「つまり?」
「よく分かりません」
「なんで報告した」
次の担当者が立つ。
「現在、城内配信需要が増加しており――」
「配信止めれば?」
「それは文化的損失です」
「文化扱いなんだ」
さらに別の魔族。
「南部回線についてですが――」
「予算不足です」
「まだ説明始まってないですよね?」
カオスだった。
そして気づく。
この組織。
技術力は高い。
だが運営が壊滅している。
誰も全体を見ていない。
その結果――
全部が場当たり的。
「……あの」
俺は手を挙げた。
全員がこちらを見る。
「なんだ、人間」
重騎士団長が睨む。
怖い。
筋肉が鎧着てるみたいな人だ。
いや鎧だった。
俺はホワイトボード代わりの黒板へ歩いた。
「まず、問題整理しましょう」
チョークを取る。
書く。
【現在の問題】
・配信鯖と基幹回線が同居
・認証ガバガバ
・負荷分散なし
・バックアップなし
・権限管理なし
・会議が長い
「最後いる?」
魔王が言った。
「重要です」
俺は続ける。
「今この城、全部を一気に繋ぎすぎてるんですよ」
「ふむ」
「だから一箇所死ぬと全部死ぬ」
「なるほど」
「なので分けます」
通信局員たちがざわつく。
「分ける……?」
「用途ごとにサーバー分離」
「おお……」
「管理権限分離」
「おおお……」
「バックアップ常設」
「革命だ……」
「そんな大袈裟な」
だが彼らの目は本気だった。
いや分かる。
この世界、技術はある。
でも“運用思想”が未成熟なんだ。
だから場当たりで巨大化している。
魔王が身を乗り出す。
「それでWi-Fi安定する?」
「します」
「動画止まらない?」
「帯域分ければ」
「天才!?」
「現代日本だと割と普通です」
すると重騎士団長が腕を組んだ。
「だが予算はどうする」
「あー……」
現実問題きた。
すると物流大臣が即答する。
「ありません」
「早いな!?」
「先月、“光る魔王像”を作ったので」
全員が魔王を見る。
魔王は目を逸らした。
「いや、観光資源になるかなって……」
「なんでインフラ予算削って像建ててるんですか」
「SNS映えするかなって……」
「異世界にもあるんだSNS」
レヴィアが静かに呟く。
「ちなみに滑った」
「でしょうね」
俺は黒板を見ながら考える。
必要なのは機材。
中継塔強化。
予備回線。
だが金がない。
「……ちなみに収入源は?」
すると部屋が静まり返った。
「え?」
「魔王軍って、何で稼いでるんです?」
沈黙。
嫌な予感。
魔王が小さく手を挙げた。
「えっと……」
「はい」
「昔はダンジョン収入とか……」
「今は?」
「配信広告」
「終わってる!!」
通信インフラが止まったら国家ごと死ぬ構造だった。
依存度が高すぎる。
しかも配信頼り。
「いや待ってください」
俺は頭を抱えた。
「それ、勇者側に回線止められたら終わりじゃ……」
全員が目を逸らした。
「…………」
「図星!?」
その瞬間。
警報が鳴る。
『緊急報告』
『南部中継塔、再び高負荷』
『原因:魔王様の配信開始』
全員が固まる。
ゆっくり魔王を見る。
魔王は気まずそうにスマホみたいな魔導端末を隠した。
「……ちょっとだけ雑談配信を」
「会議中に!?」
「だって暇で……」
通信局員が絶叫した。
「帯域ぃぃぃぃ!!」
その瞬間。
城の照明が落ちた。
再び真っ暗。
悲鳴。
怒号。
どこかで爆発。
そして俺は確信した。
この魔王軍。
敵より先に自滅する。




