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『魔王城のWi-Fiだけ異常に強い件』  作者: 断捨離


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第十六話 魔王軍、ついに「承認フロー」を導入する


通信局では、新たな合言葉が生まれていた。


「……それ、本番入れました?」


 誰かが設定変更するたび、全員が確認する。

 素晴らしい進歩だった。

 以前は、


「誰が触った?」


「分からん!」


「爆発した!」


 だったのだから。

 文明は少しずつ前に進んでいる。

 俺は管理卓で変更履歴を確認しながら、小さく頷いた。


「だいぶマシになってきたな……」


「だが疲れる」


 レヴィアが真顔で言う。


「毎回確認書を書くの、面倒だ」


「分かります」


「では減らせ」


「減らしません」


 その時。

 通信局員が走ってきた。


「大変です!」


「今日は何です」


「変更申請が百三十二件あります!」


「急に会社になったな!?」


 机の上へ大量の書類が積まれる。


【配信演出変更申請】

【南部回線微調整】

【“草”自動変換機能】


「最後なんだ」


 若い通信局員が答える。


「コメント欄で“www”を草に統一したくて……」


「SNS文化が根付き始めてる」


 すると魔王が得意げに言った。


「余、ちゃんと申請出したよ」


 見る。


【申請内容】


“なんかかっこよくしたい”


「却下です」


「早い!」


 魔王がショックを受けていた。


「理由くらい聞いて!?」


「ふわっとしすぎなんですよ」


 だが実際、問題は別にあった。

 変更申請。

 増えすぎている。


「……これ、全部確認していたら終わらないな」


「どうする?」


 レヴィアが聞く。

 俺は少し考えた。

 そして。


「承認フロー作ります」


 沈黙。

 通信局員たちがざわつく。


「また知らない言葉だ……」


「怖い……」


「普通の組織運営です」


 俺は黒板へ書く。


【変更の流れ】

申請

レビュー

承認

実施


「おお……」


「流れがある……!」


「事故減りそう……!」


 すると魔王が手を挙げた。


「質問」


「はい」


「余も承認いる?」


「特に必要です」


「なんで!?」


 通信局員全員が頷いた。

 ものすごい勢いで頷いた。

 完全に信用がなかった。

 俺はさらに続ける。


「あと、緊急変更以外は夜中禁止です」


 通信局が静まり返る。


「……え?」


「深夜変更、一番危険なんで」


 通信局員たちがざわついた。


「たしかに……」


「眠い時に触ると事故る……」


「前、朝起きたら結界消えてたな……」


「何があったんです?」


 沈黙。

 全員がゆっくり魔王を見る。


「…………」


「またお前か!!」


 魔王が目を逸らした。


「夜テンションで……」


「夜テンションで国家防衛触るな!!」


 その時。

 若い通信局員が叫ぶ。


「大変です!」


「今度はなんだ」


「承認待ちが千件超えました!!」


「増えすぎ!!」


 管理画面を見る。


【魔王様・配信サムネ変更】

【魔王様・BGM追加】

【魔王様・“なんか強そうな演出”】


「九割お前じゃねぇか!!」


 魔王が小さく言う。


「クリエイター魂が……」


「インフラ部署で発揮するな」


 しかも。

 申請理由欄。


【たぶんウケる】

【かっこいい】

【なんとなく】


「通すわけないだろ!!」


 通信局員たちが頷く。


「これは却下だな……」


「理由がふわふわすぎる」


「成長してる……!」


 だがその瞬間。

 管理水晶が赤く点滅した。


『警告』

『未承認変更を検知』


 空気が止まる。


「……誰だ」


 ログ確認。

 変更者。


【魔王】


「おい」


 レヴィアの声が低い。


「説明を」


 魔王が冷や汗を流す。


「いやその……」


「承認は?」


「待っていると遅いかなって……」


「だから事故るんですよ!!」


 俺は変更内容を見る。

 そして固まった。


「……あれ?」


「どうした」


「この設定、普通に良い」


 沈黙。


「え?」


「配信負荷軽減してる」


「なんで?」


 魔王が小さく言った。


「……コメント同期、間引いた」


 通信局が静まり返る。

 そして通信局員の一人が呟いた。


「……学習してる」


「魔王様が……」


「怖い……」


 すると管理水晶が再び光る。


『勇者軍配信更新』


 通信局員が読み上げる。


「タイトルは――」


『魔王軍、ついに上司承認制になる』


 沈黙。

 そして魔王が小さく呟いた。


「……向こう絶対見ているよね?」


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