第十七話 魔王様、ついに「飯テロ配信」を始める
魔王城の食堂は、広かった。
巨大だった。
そして――めちゃくちゃ美味そうな匂いがした。
「……えっ」
俺は思わず立ち止まる。
大鍋。
焼きたての肉。
香辛料。
スープ。
パン。
完全に飯屋の匂いだった。
「魔王軍、食事レベル高くないです?」
隣のレヴィアが答える。
「魔王様が“飯が弱い組織は滅ぶ”と言っていた」
「そこだけ妙に正しいな……」
すると奥から声。
「お、来た来た!」
魔王だった。
なぜかエプロン姿。
「何してるんですか」
「今日の企画!」
「嫌な予感しかしない」
魔王は満面の笑みで言った。
「“魔王城グルメ配信”!」
「また配信!!」
通信局員たちが悲鳴を上げる。
「今度は何食うんですか!?」
「激辛デスドラゴン鍋!」
「名前が終わってる」
しかも食堂の中央には、巨大な魔導カメラ。
配信準備が完全に整っていた。
通信局員が震える声で聞く。
「ちなみに……」
「ん?」
「画質は?」
「8K」
「やめろぉぉぉ!!」
通信局が揺れる。
俺は頭を抱えた。
「なんで毎回フルパワーなんですか」
「料理は高画質の方が美味そうだから」
「配信者としては正しいのが腹立つ」
だが。
問題は別だった。
食堂。
すでに満員。
魔族たちが妙にソワソワしている。
「……なんか人気ですね」
「魔王様、飯配信だけ異常に強い」
レヴィアが真顔で言った。
「普段の三倍視聴される」
「なんで?」
「飯が美味そうだから」
身も蓋もない。
その時。
配信開始。
【魔王城グルメ#1】
ドォォォン!!
無駄に豪華なOP。
炎。
雷。
爆発。
料理番組の始まりじゃない。
「毎回爆発させる必要あります?」
「テンション上がる」
コメント欄が流れ始める。
【待ってた】
【飯回】
【神回確定】
【回線落とすなよ】
「信用がない」
魔王は得意げに鍋を開けた。
ボワァァァ!!
炎が上がる。
「うおっ!?」
「演出です」
「料理で火柱上げるな」
しかも普通に美味そうだった。
肉。
野菜。
謎の巨大キノコ。
完全に飯テロ。
コメント欄が加速する。
【腹減った】
【飯うまそう】
【勇者軍だけど見てる】
「敵いる!!」
通信局員が叫ぶ。
「普通に勇者軍視聴者混ざってます!」
魔王が嬉しそうだった。
「国境を越えた配信文化だね」
「戦争中なんですよね?」
すると魔王が鍋をよそいながら言った。
「はい、今日は“デスドラゴンの尻尾”です」
沈黙。
コメント欄。
【えっ】
【尻尾食うの?】
【ドラゴンかわいそう】
【でも美味そう】
魔王は普通に食べた。
「うまっ」
コメント欄爆速。
【うまそう】
【深夜に見るんじゃなかった】
【飯テロ】
【勇者軍の食堂しょぼい】
「外交問題になるぞ!?」
その時だった。
通信局員が青ざめた顔で叫ぶ。
「大変です!!」
「今度は何だ!」
「勇者軍、対抗配信始めました!!」
「早っ!?」
タイトル表示。
【勇者城メシ配信】
「対抗してきた!!」
しかもサムネ。
異常に美味そう。
「なんだこの戦争……」
レヴィアが真顔で呟く。
「最近、剣より飯の方が伸びる」
「終わってるな異世界」
さらに問題が起きた。
コメント欄。
【どっちの飯が美味い?】
【投票しろ】
【魔王軍派】
【勇者軍派】
「戦争がグルメ対決になってる!!」
魔王は机を叩いた。
「負けられない!」
「何に!?」
「次は巨大プリン作る!」
「なんで配信者として成長してるんですか!?」
その瞬間。
管理水晶が赤く点滅した。
『警告』
『視聴者数急増』
『コメント帯域飽和』
通信局が凍る。
「またチャット欄かぁぁぁ!!」
俺は頭を抱えた。
そしてその横で、魔王が小さく呟いた。
「……でも“#魔王飯”トレンド入りしてる」




