第十四話 魔王軍、ついに「切り分け」を覚える
勇者軍の深夜配信は、大成功していた。
「視聴者三十万突破!」
「負けてる!!」
通信局員が絶叫する。
魔王は机に突っ伏していた。
「余の方が先だったのに……」
「配信者みたいな落ち込み方するな」
しかも。
勇者軍側の配信は妙に安定していた。
落ちない。
重くならない。
コメント欄も滑らか。
通信局員たちがざわついている。
「なんで向こう平気なんだ……?」
「こっちは毎回ギリギリなのに……」
俺もログを見ながら眉をひそめた。
「……おかしいな」
「何がだ?」
レヴィアが聞く。
「向こう、かなり運用改善されている」
「勇者軍にも技術者がいるのだったな」
「しかも相当レベル高い」
おそらく。
向こうの転移者。
かなり実務経験がある。
しかも、“配信サービス運営”寄りだ。
その時。
通信局員が青ざめた顔で飛び込んできた。
「大変です!!」
「今日は何だ」
「全部重いです!!」
「雑すぎる報告!」
だが実際、管理水晶の数値は異常だった。
全体遅延。
高負荷。
応答低下。
通信局員たちが混乱する。
「どこが原因だ!?」
「全部じゃないのか!?」
「南部か!? 中央か!?」
完全にパニックだった。
俺は深呼吸する。
「落ち着いてください」
「でも全部重い!」
「だから切り分けます」
沈黙。
「……きりわけ?」
「問題箇所を分けて探すんです」
通信局員たちが固まる。
「そんなことできるのか!?」
「できます」
「また異世界技術だ……」
「普通の障害対応です」
俺は黒板へ向かう。
【切り分け】
・どこで
・いつ
・何が
・どの範囲で
「おお……」
「整理されている……」
「頭いい……!」
感動ポイントが毎回低い。
俺は続ける。
「“全部ダメ”って言葉、一番危険です」
「え?」
「原因見えなくなるので」
通信局員たちが真剣な顔になる。
「じゃあまず確認」
「遅いのは配信だけか?」
「全通信か?」
「一部地域か?」
ログを確認。
応答確認。
通信試験。
すると若い通信局員が叫んだ。
「北部正常!」
「南部も正常です!」
「中央配信系だけ重い!」
俺は頷く。
「じゃあ配信系の問題です」
「おお……!」
「絞れた……!」
レヴィアが感心していた。
「戦場の索敵みたいだな」
「実際近いです」
その時。
魔王が小さく手を挙げた。
「ちなみに余、さっき新機能追加した」
通信局が静まり返る。
「……何をした」
「“超高画質配信モード”」
「お前かぁぁぁぁ!!」
通信局員たちが崩れ落ちる。
「また魔王様だ!」
「犯人が近い!」
「もう最初に聞こうよ!」
俺は即座に設定を確認した。
そして頭を抱える。
「……8K配信?」
「綺麗かなって」
「異世界に早すぎるわ!!」
しかも。
全視聴者へ強制適用。
「帯域死ぬに決まってる!」
魔王がしょんぼりする。
「でも勇者軍、もっと画質良かった」
「対抗心で本番触るな」
俺は設定を戻そうとして――止まった。
「……あれ?」
「どうした」
「これ、圧縮効率おかしい」
「圧縮?」
「通信量の削減処理です」
ログを見る。
処理方式。
転送形式。
そして。
「……なるほど」
「分かったのか?」
「勇者軍、配信専用回線持ってる」
沈黙。
通信局員たちが固まる。
「専用……?」
「つまり、普通の通信と分けてる」
「おお……」
「賢い……」
「いや普通です」
だが。
その瞬間。
通信局全員がゆっくり魔王を見る。
「…………」
魔王が目を逸らした。
「……分けた方がよかった?」
「今さら!?」
その時。
管理水晶が点滅する。
『勇者軍配信更新』
通信局員が読み上げた。
「タイトルは――」
嫌な予感しかしない。
『魔王軍、また本番環境を触る』
空気が止まる。
そして魔王が小さく呟いた。
「……あいつら、サムネ作るの上手いな」




