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『魔王城のWi-Fiだけ異常に強い件』  作者: 断捨離


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第十三話 魔王軍、ついに「深夜障害」を知る


 その日の夜。

 魔王城は静かだった。

 珍しく。

 本当に珍しく。

 通信障害なし。

 爆発なし。

 魔王のゲリラ配信もなし。

 通信局員たちは逆に不安そうだった。


「……怖い」


「平和すぎる……」


「今なら寝れるか……?」


 完全に障害対応職の思考だった。

 俺も管理卓でログを確認しながら、小さく息を吐く。


「今日は平和だな……」


 すると隣の通信局員が真顔で言った。


「そう言った瞬間に来ます」


「やめろ縁起でもない」


「経験則です」


 説得力が強かった。

 時刻は深夜一時。

 ようやく交代制を導入した結果、通信局にも“夜勤”という概念が生まれ始めていた。

 もっとも。

 まだ誰も慣れていない。


「眠い……」


「監視画面が揺れる……」


「それ寝てるだけだ」


 すると奥のソファから声。


「余は元気」


 魔王だった。

 ポテチ食ってた。


「なんでいるんですか」


「夜ってテンション上がるよね」


「帰れ」


 だがその瞬間。

 管理水晶が赤く点滅した。


『警告』

『中央回線遅延増大』

『応答速度低下』


 通信局が凍る。


「来たぁぁぁ!!」


「言った瞬間だ!!」


「フラグ回収早すぎる!」


 通信局員たちが一斉に管理卓へ殺到する。

 俺も即座にログ確認。

 負荷。

 通信量。

 接続数。

 だが。


「……あれ?」


「どうした!?」


 レヴィアが駆け込んでくる。

 寝てたらしい。

 髪が少し乱れていた。


「攻撃じゃないです」


「では何だ」


「利用者急増」


「深夜に?」


 ログを追う。

 すると原因が出た。


【深夜限定・魔王様雑談配信開始】


「おい」


 通信局の空気が死んだ。

 全員がゆっくり振り向く。

 魔王が目を逸らす。


「…………」


「魔王様」


 レヴィアの声が低い。


「説明を」


「いやその……」


「はい」


「皆もう寝てるかなって」


「逆に集まってる!!」


 視聴者数。

 二十五万。


「なんで深夜の方が増えてるんですか!?」


 通信局員が震える。


「コメント欄、“寝る前にちょうどいい”で埋まってます!」


「魔王ラジオ化してる!」


 しかも。

 問題はそこじゃなかった。


「……あー」


 俺はログを見て顔をしかめた。


「どうした」


「これ、配信自体は耐えてます」


「なら問題ないのでは?」


「コメント同期処理が死んでる」


 沈黙。


「……こめんと?」


「チャット欄です」


 通信局員たちが青ざめる。


「そんなところで!?」


「視聴者が多すぎて更新処理詰まってる」


「チャット欄で国家インフラが!?」


 魔王が小さく手を挙げた。


「ちなみに今、“おやすみ”って流行ってる」


「文化を形成するな」


 コメント速度が異常だった。


【おやすみー】

【今日も回線ありがとう】

【魔王様寝て】

【まだ寝ない】

【草】


 完全に深夜配信文化だった。

 しかも負荷の大半がチャット同期。


「……配信本体よりコメント欄が重いのか」


「現代っぽいな……」


 俺は設定を確認した。

 そして頭を抱えた。


「全部リアルタイム同期してる」


「ダメなのか?」


「視聴者二十五万人に毎秒全送信してます」


 沈黙。

 通信局員たちが青ざめた。


「えっ」


「つまり……」


「めちゃくちゃ重いです」


「終わってる!!」


 俺は即座に設定変更へ入る。


「コメント間引きます!」


「まび……?」


「全部同時表示やめるんです」


「そんなことできるの!?」


「できます!!」


 もはや毎回恒例だった。

 設定変更。

 負荷制御。

 同期遅延追加。

 表示制限。

 すると。


『負荷率低下』

『応答正常化』


 通信局員たちが歓声を上げた。


「戻った!」


「速い!」


「コメント流れてる!」


 魔王が感動していた。


「すごい……!」


「だから普通ですって」


「異世界人すげぇ……」


 その時だった。

 管理水晶が再び点滅する。


『外部接続急増』

『勇者軍アクセス検知』


 通信局が静まり返る。


「……また来たか」


 俺はログを見る。

 そして固まった。


「……え?」


「どうした」


「勇者軍側、同じことしてる」


「何?」


「向こうも深夜雑談配信始めてる」


 沈黙。

 通信局員が震える声で読み上げた。


「タイトル……」


「なんだ」


『【寝落ち歓迎】勇者ラジオ』


 空気が止まった。

 そして魔王が小さく呟く。


「……真似された?」


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