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『魔王城のWi-Fiだけ異常に強い件』  作者: 断捨離


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第一話 魔王城のWi-Fiだけ異常に強い件

異世界に転移した瞬間、俺が最初に思ったことは――


「……圏外かよ」


 だった。

 目の前には巨大な草原。

 青空。

 遠くの山。

 そして、明らかにファンタジーな石造りの街。

 なのにスマホだけは、現代日本と同じデザインのまま手元に残っていた。

 画面右上。

 無慈悲な「圏外」。


「終わった……」


 俺、相沢悠真あいざわゆうま、二十六歳。

 職業、ネットワークエンジニア。

 趣味、ネット。

 人生の七割くらいをインターネットに依存して生きてきた男である。

 異世界転移?

 チート?

 ハーレム?

 そんなことより先に、通信環境が死んでいた。


「Googleも見れねぇ……」


 膝から崩れ落ちる。

 いや普通なら

「魔物がいる!」とか「剣と魔法の世界だ!」とか感動する場面なんだろう。

 でも俺にとっては、

 “ネット接続不可”

 のほうが圧倒的に深刻だった。


「せめてオフラインマップ……いやダメだ、更新してない……!」


 絶望していると、近くを通った馬車のおっさんが怪訝そうな顔をした。


「兄ちゃん、大丈夫か?」


「Wi-Fi……どこですか……」


「わいふぁい?」


「無料でも有料でもいいんで……」


「熱病か?」


 違う。

 文明の断絶に苦しんでいるだけだ。

 俺はそのまま街へ向かった。

 石畳。

 露店。

 鎧姿の冒険者。

 完全にファンタジー世界。

 なのに、人々の生活レベルは妙に高かった。

 屋台の肉は衛生的だし、道端にゴミも少ない。

 しかも夜になると街灯が光り始めた。


「魔法文明ってやつか……?」


 だが、どうにも違和感がある。

 妙に“インフラ感”があるのだ。

 設備思想が。

 誰か理系のやつが設計している感じがする。

 そして俺は気づいてしまった。

 スマホの右上。

 アンテナが一本立っている。


「……は?」


 圏外じゃない。

 一瞬だけ、何かを拾った。

 俺は反射的にスマホを掲げた。


「待て待て待て待て……!」


 一本。

 ゼロ。

 一本。

 ゼロ。

 揺れている。


「電波……あるのか?」


 その瞬間だった。

 遠くの山の向こう。

 黒い巨大建造物が見えた。

 禍々しい尖塔。

 雷雲。

 紫色の光。

 誰がどう見てもラスボスの城。

 そしてスマホのアンテナは、そちらを向けた時だけ反応した。


「……嘘だろ」


 俺は呟く。


「魔王城……?」


 次の瞬間。

 アンテナ四本。

 画面上部に、見たこともないSSIDが表示された。


【DarkLord_Free_WiFi】


「あるんかーーーーーーい!!」


 街中に響く勢いで叫んでしまった。

 周囲の人々が振り向く。

 だがそんなことどうでもいい。

 俺は震える指で接続ボタンを押した。

 接続中……

 接続完了。


「繋がったぁぁぁぁ!!」


 思わずガッツポーズ。

 しかも速い。

 異常に速い。

 動画開ける。

 ページ読み込み爆速。

 遅延ゼロ。


「なんだこれ!? 光回線どころじゃねぇ!!」


 だが次の瞬間、ブラウザに奇妙なページが表示された。


【魔王城ネットワーク管理局へようこそ】

【無断接続者を検知しました】

【至急、魔王城までお越しください】

【拒否した場合、魔族親衛隊が回収に向かいます】


「怖ぇよ!!」


 利用規約が物理的圧力なんだよ。

 だが、その下に小さく書かれていた一文に、俺は目を止めた。


【現在、ネットワーク管理者を急募しています】


「…………」


 さらにその下。

【人族・魔族問いません】

【経験者優遇】

【L3スイッチ設定できる方歓迎】


「ガチじゃねぇか……」


 異世界で、

 まさかのインフラ求人。

 しかも俺の専門分野だった。

 その時、背後から低い声がした。


「見つけたぞ。不正接続者」


 振り返る。

 そこには漆黒の鎧を纏った美女が立っていた。

 銀髪。

 赤い瞳。

 腰には巨大な剣。

 どう見ても幹部クラス。


「魔王軍通信部隊隊長、レヴィアだ」


 美女は俺のスマホを見て目を細めた。


「貴様……なぜ我らの暗号化通信を突破できた?」


「いや、自動接続ですけど」


「……は?」


「パスワード無しでした」


「…………」


 沈黙。

 そして彼女は顔を青くした。


「……また魔王様が“誰でも使えた方が便利じゃない?”とか言ったな……!」


 なんかトップがITリテラシー低そうだった。

 俺は嫌な予感しかしなかった。




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