第十一話 王太子ユリウスと聖女の奇跡
ユリウスは辺境から王都までの長い道のりを馬車で移動し、治療兵に付き添われながらなんとか命を繋ぎ止めている状態だった。
ユリウスが到着すると王都は騒然とした。
馬車はまっすぐ大聖堂へと向かった。
エリシアが対面したときには、ユリウスの意識はなく、その命の灯は消えかけていた。
腹部を槍が貫通していたようで、内臓が傷んでしまっている可能性が高かった。治療兵の止血と最低限の治療がなければ、間違いなく命を落としていただろう。
エリシアは迷うことなく、すぐに「治癒」を施した。通常の患者よりも多く魔力を消費したが、ユリウスの傷は見る間に塞がっていき、完治したように見えた。
しかしユリウスは意識を失ったままだった。
あとはユリウスが体力を回復し、意識を戻すのを祈るしかなかった。
クローデリアもユリウスの状況を聞き、すぐに大聖堂に駆けつけていた。
大聖堂内の施療院のベッドにユリウスは横たわり、意識を失ったままだった。
エリシアは憔悴しているようにも見えた。ユリウスの治療が緊張感の高いものだったこともあるだろうが、それ以上に、ここのところ根を詰めすぎていたのではないかとクローデリアは思った。
それ以外にもクローデリアは気になっていることがあり、エリシアとともに付き添っていた治療兵に尋ねた。
「戦況は厳しいのでしょうか?」
治療兵は少しためらいながらも頷いた。
「ここにも多くの負傷兵が送られてきていると思いますが……敵国の攻勢は緩むことなく続いています。ユリウス殿下も幾度となく前線に出て敵軍を斥けていたのですが……」
「ユリウス殿下が負傷されてからは騎士団長が指揮を取られているのですか?」
「はい、騎士団長のおかげで何とか砦が守られているような状況ですが……軍の疲弊も大きく、いつまで保つか……」
クローデリアは気が遠のく思いがした。カイはこうしている間にも死と隣り合わせの戦地で戦っているのだ。
「クローデリア、大丈夫よ」
エリシアが言った。
「ユリウス殿下も目覚めるし、戦争も勝つわ。聖女が言うのだから、間違いないわ」
微笑むエリシアの姿は、少し見ない間に神秘的な美しさを増しているように思えた。その憔悴すら、人々のために献身する聖女らしさの象徴になっているかのようだった。
そのせいか、クローデリアはエリシアの言葉に妙な説得力を覚えたのだった。
果たして、ユリウスは目を覚ました。
人々は、王都を囲う「聖女の守護結界」がユリウスの生命力を呼び戻したのだと信じて疑わなかった。
王都はこの奇跡に、異様なほど熱狂した。
王政府は戦況を覆すべく、負傷から復帰した兵士たちを急ぎ再編成し、辺境に送ろうとしていたが、市民からの志願兵の多くがそれに加わった。
彼らは聖女の奇跡に心を動かされ、守護結界により活力を得た市民たちだった。
この王都での一連の動向が、実際に遠く離れた辺境の戦況に影響を及ぼした。
辺境に送り込まれた兵団は、予想以上の活躍で瞬く間に隣国の軍を押し返し、撤退させることに成功したのだ。
王都は戦勝の報せに沸いた。同時に、聖女と聖教会が勝利に貢献したとされ、大きな名声を得ることになった。
凱旋した王国騎士団と市民兵たちは、王都の民の熱狂的な歓迎を受けた。
誰もが勝利に酔う中、クローデリアだけが気づいていた。堂々たる騎士団の行進の先頭を行く騎士団長カイだけが浮かぬ顔をしていたのを。




