0:誕生日ってなんだろう?
誕生日ってなんだろう?
その人が生まれた日?
暦の上での、たった一日のこと?
その一日を、どうしてお祝いするの?
誕生日って最初にやったのはエジプトなんだって、でもね本当に生まれた日じゃなくて。
即位して神様になったファラオを「王の誕生」だって言って、毎年その日にお祝いしたんだよ。
これが多分最古のバースデー。
次は古代ギリシャかな、まあるいケーキにロウソクを灯してアルテミスって女神へ捧げてたんだ。
この時の光るケーキがね、現代の誕生日ケーキの元祖らしいよ。
そっからね、今度はローマの人が家族や仲間の誕生日を祝いだして、その文化を広めたのが————
『もういいよ』
『もういいの?』
そう言って、真っ黒な髪に真っ黒な瞳の少女が、広げていた分厚い本をぱたんと閉じた。
彼女の背中ではキラキラ光る透明な羽がパタパタと淡く光る。
『だってなんかそれ、よくわかんねーもん』
隣で話を聞いていた真っ青な髪の少年は『難しい』と不貞腐れた顔で言う。
黒髪の少女はクスッと笑った。
『さあね、どうだろう。あたしはこの本に書かれていたことをそのまま読んだだけだから』
『ふーんそっか。でもそれが本当だったらなんか凄いな』
『でしょでしょ』
『でもさ。俺が知りたいの、それじゃない』
『そうなんだ』
青髪の少年は真っ直ぐ目の前を指した。
木製のダイニングテーブル、使い古され色が薄くなり、ちょっとボロい。「そろそろ作り替えたい」とシスターがぼやいていた。
そのテーブルの上に置かれた〝まあるいお菓子〟。
スポンジの間に蜂蜜やジャムを挟み、表面には普段は絶対に作れない真っ白な生クリームをたっぷり、その上に真っ赤な野いちごをのせ、あま~い匂いが室内を特別な空間に満たしていた。
『今日俺の誕生日なんだって』
片田舎の小さな孤児院、たった十人の孤児とたった二人のシスター。
『へー凄いね。この世界だと砂糖って高い筈なのに』
『なんか凄い〝有力者〟がいるんだって、誰かが誕生日の時は必ず砂糖くれるんだ』
『へぇそりゃあいいや、ありがたいね』
『……うん』
『どうしたの?』
少年は窓の外を見た。
孤児院の庭にはシスターが趣味で育てている花や、野いちご、そばには少年も良く登って遊ぶ大きな木が生えている。
だが少年はその向こうを見ていた。
通りでもなく、どこでもなく、ただずっとずっと遠くを。
『でもさ、俺、誕生日が分からないんだ』
『え?』
『俺だけじゃないけど、分からないんだ』
『うん』
少年はまだ、その真っ青な瞳で、窓の外を見つめていた。
まるで、誰かを待っているかのように。
『……なんで、会ってくれないだろう』
寂しそうにそう言って――。




