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「箕作殿、小野殿、まずは頭を上げて下さい」
釣られて俺も頭を上げたら、「お前には言ってない」と言われて、慌ててまた頭を下げる。
「ワシらの監督不行届を内田殿に謝りに行く。お前もついて来い」と命じられて、今この状況。1人頭を下げ続けてる。理不尽に怒られてる訳ではないけど、そうは言っても悪どい儲け方した訳じゃないし。
「ワシの方こそ申し訳ない。出来の悪い内弟子のことでわざわざお越しいただくばかりか、頭を下げさせてかえって申し訳ない」
いや、社交辞令は良いから早く上げさせてよ。しんどい。そっからの内田様の話が長いこと。どうせ何かをすると思ってた。ん?商人の邪魔をするでなく、むしろ今までに無いものを金にした。うん。調所を横浜に置いたのも、実はこういうことまで見越してたんではないか、とすら思う。否定出来ん。責任があるとするなら、首輪を外して放し飼いにした調所全体の責任。ん?一番悪いのは飼い犬なのに野良犬の如く自由に動き回ったコイツ。ん?
「それで藤二、ワシと約束したよな?やりすぎるなよ、と。それは守っておるのか?」
「はい。決してやりすぎてはおりません。溜め込んだ量には慄いておりますが、やれること、やって当然のことをやったまで。やりすぎてはおりません」
「だそうですよ、お二方。お気になさらず。ただ、お前は気にしろ。お前の当然と我々の当然が違うから、お二人の時間をこうして無駄にしている。無駄はお前の忌み嫌うものだろう。そこは反省しろ」からのゲンコツ。頭下げてるとこへのゲンコツは反則でしょ。でもまあ、これくらいは仕方ない。
そこからは勝様に打ち明けた計略を聞かれたので、舟の上での密談。天下三分の計とお二人渡米中の守旧派へ手紙の真意。あとは、杉先生の学校の募集をあと2回ほどやれば、ある程度の色分けが出来るよ、って話をした。「何故分かる?」とまた聞かれたから、これも分析からの洗い出しって言葉になるんだろうけど、ここも投げちゃおう。
「勝様にも言いましたが、お三方も一緒に杉先生の統計を学んだらいかがですか?そうしたらきっと、私と同じ結論を見出せると思いますよ」
杉先生、頑張って!1人も4人も変わんないでしょ。データの重要性を理解する人なんか、多ければ多いだけ良い。特に友さんなんか、すぐに理解してくれそうだ。そしたらグラフの活用なんかすぐだ。方程式は計算ツールだけじゃないよ。グラフはグラフでいろんな使い方出来るんだから。
あとは何故か、裏帳簿の隠語を「藤二の小遣い帳」に決められた。自分で使えないのに。3人が提出を求める良い口実になる、とのことで。
そんなこんなで安政6年新春。相変わらず幕府はアメリカに公使を送りたい、と言っているらしい。勝様情報。だが肝心の船がない。咸臨丸はもうサビサビ。そりゃそうさ。そして、調所は相変わらず腰が重い。作り方分かって往復出来た蒸気船を、なんで再度作る必要があるのか。気が向いたら、で保留中。もう誰かに作り方を指示だけしてもらって、あとは職人さんたちに任せた方が早いのに。友さんは「航海にならまた行きたい。夜の船は良い」と妙に乗り気だけど、作る気はない。今の友さんの楽しみはグラフ。来年の今頃、藤二の小遣い帳はどれくらいになるのか、それを方程式からどういうグラフが適切か、を考えてる。友さん、それは不毛だよ?それよかもっといろんなデータからいろんなこと読み取った方が面白いよ?あとはいよいよ反射炉。これさえあれば、鉄の再生が可能になる。錆び始めた蒸気船も資源に早変わり。そのために作った水準器、すでに大工さんたちにバカ売れ中。
データといえば内田様は、「この考え方は関流にどう生かせるだろうか」なんて、偏差のところで止まってるし、箕作様はもっと膨大な量のデータが欲しいと言い出し、そんなもんないから調所の帳簿をデータ化し始めてる。勝様はデータとの向き合い方でまだ格闘中。表計算ソフトあれば、自分で好きにソートして並び替え出来るんだけど、こればかりはどうにも。
さ、勝様。そろそろ次の生徒集めの声を掛けて下さい。どこの誰がどういう人材を勧めてくるのか、もしくは、誰も勧めないのか。それだけでもいろんな傾向見えて来るはずですよ。
第二部 完




