第500話 ただの婚活モンスターです
人口が増えていくにつれて、うち村には変わった人も増えてきた。
その中でもここ最近、村を大いにざわつかせているのは、男を求めて徘徊する妖怪……もとい、アマゾネスだった。
「良い男はいねぇがあああああああああああああああああっ!!」
チョレギュさんである。
どこかの世界のサラダみたいな名前をした彼女は、村にやってきたアマゾネスたちの中で唯一結婚相手が見つからず、今も男を探し続けていた。
そんな彼女と、ヒルダさんが遭遇してしまう。
「な、何ですか、この禍々しい気配はっ……まさか、邪神の使い!?」
「違います、ただの婚活モンスターです」
「女はお呼びじゃねぇんだよおおおおおおおおおっ! ……ん?」
そのチョレギュさんが、ヒルダさんの前を通り過ぎようとしたときだった。
何かに気づいたように足を止め、じろじろとヒルダさんの身体を見回す。
え、まさか……この妖怪、ヒルダさんが男だってことに気づいた!?
「くんくん」
やがて鼻を近づけ、ヒルダさんの股間のあたりを嗅ぎ始めるチョレギュさん。
ちょっ、どこを嗅いでるの!?
やがてカッとその目を見開いて、
「おめえええええええええっ! 男だなあああああああああああああっ!!」
血走った目で絶叫した。
「は、はい。こう見えて、男ですけど……」
別に隠しているわけでもないらしいヒルダさんがあっさり暴露すると、チョレギュさんは有無を言わさずに躍りかかった。
「あたいと勝負しやがれええええええええええっ!!」
「っ!」
凄まじい速度で繰り出されたチョレギュさんの回し蹴り。
だけどヒルダさんは最小の動作で、軽々とそれを回避してせた。
「ひゃほおおおおおっ! こいつは久しぶりの上物だぜええええええええっ!!」
「いきなり攻撃してくるとは、やはり邪神の使い……っ! 私を勇者と知っての襲撃ですね……っ!」
「だからただの婚活モンスターですよ」
僕の指摘を余所に、ヒルダさんも腰の剣を抜いた。
次の瞬間、地面を蹴ったかと思うと、目にも止まらない速さでチョレギュさんの脇を駆け抜けていた。
「……が」
どさり、と白目を剥いて地面に倒れ込むチョレギュさん。
「ご安心を、ただの柄打ちです」
す、すごい……アマゾネスたちの中でも、トップクラスの実力者のチョレギュさんをこうも簡単に……。
さすがは勇者だ。
下手したら父上に匹敵……いや、それ以上の強さかもしれない。
「そういえば今さらですけど、勇者って何なんですか?」
「ギフトの一つです」
「え、『勇者』っていうギフトがあるんですか」
「はい。主に剣と、一部の魔法について高い才能が開花するギフトです」
ちなみにヒルダさんやミランダさんたち四人には、なぜか村人鑑定のスキルが使えない。
そのため彼女たちが何のギフトを持っているのか、分からなかったのだ。
「ミランダは『大魔導士』のギフトを、エミリナは『大聖女』のギフトを、そしてライカは『バトルマスター』のギフトを持っています」
ギフトっていうより、どれもジョブに近い感じの名称だ。
もしかしたら魔王に対抗するための特別なギフトなのかもしれない。
「うーん……」
あっ、チョレギュさんが目を覚ました。
「大好き♡」
完全に目がハート型になってる!
「気を付けてください。アマゾネスは自分より強い相手に惚れる性質を持っているんですが、ヒルダさんが圧倒してしまったせいで、完全にターゲットにしてしまったみたいです」
チョレギュさんは鼻息荒く主張する。
「今度こそあたいに相応しい男が現れたぜぇっ! 見た目は女にしか見えねぇが、そんなの関係ねぇ! あたいと結婚してくれええええええっ!」
「お断りします」
即答だった。
あーあ、チョレギュさん、またフラれちゃった……。
「な、何でだ!? まさか、また既婚者ってパターンか!?」
「いえ、結婚はしていません」
「じゃあ何だ!? あたいの何がダメだって言うんだよっ!?」
そんなにがっつくからじゃないかな……と思ったけど、
「生憎、私は女性に興味がありませんので」
ということらしかった。
「もしかしてヒルダさんは男性が好きなんですか? その恰好ですし……」
「別に男性も好きではありませんよ? 普段から女性の姿をしているのは、単純にこの方が似合うからです」
「まぁ確かに、似合っていますね」
特に深い意味はなかったみたい。
「どうしたらあたいの結婚相手が見つかるんだよおおおおおおっ!? このままじゃ、次の戦神祭にあたいだけ独身のままじゃねぇかああああああっ!」
「戦神祭?」
頭を抱えて絶叫するチョレギュさんが口にしたのは、聞き慣れない言葉だった。
「あたいらアマゾネスの祭りだよ。毎年、夏の終わりごろに行われて、そのときには必ず里に戻らなくちゃいけねぇんだ」
「へえ、そんなお祭りが」
「各地で結婚したやつらは夫や子供を連れて一緒に帰省する……そんな中、あたいだけ一人だなんて恥ずかし過ぎる……っ!」
「強い男はいねぇぇぇぇがぁぁぁぁ~、なんて唸りながら村を徘徊し続けるのだって、十分恥ずかしいですけどね」
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