第481話 どうせやるやる詐欺だろうけど
ローダ王国にある古代遺跡、蒼穹の塔。
塔の足元に存在する唯一の出入口の扉は、まるで探索者を歓迎するかのように大きく開け放たれていた。
そこから塔内へと足を踏み入れる。
「内部はかなり広いのね」
「はい。加えて複雑な迷路となっています」
ローダ王国の兵士、リンダさんが注意を促す。
「もちろん魔物もいますのでお気を付けください。……と、早速」
ガシャンガシャンという金属音を響かせながら、いきなり姿を現したのは、動く全身鎧だった。
「リビングアーマー? アンデッドが相手なら、白魔法を使えるガイさんがいてくれるとよかったのに」
「いえ、あれは確かにリビングアーマーですが、死んだ戦士の魂で動くアンデッドではなく、魔力で動くタイプです。ですので白魔法の浄化は効果がありません」
「え、そういうのもあるんだ」
剣を手にした全身鎧が襲い掛かってくる。
「拙者に任せるでござるよ!」
アカネさんが地面を蹴った。
全身鎧の懐に飛び込むと、相手が剣を振るう前にその胴部を東方特有の剣である〝刀〟で両断してしまう。
「っ……最も防御力の高い胴部を両断するなんて」
「このくらい拙者の腕なら余裕でござるよ!」
驚くリンダさんに、勝ち誇るアカネさん。
すぐに余裕ぶって油断するのは彼女の悪い癖だ。
「アカネさん! まだ動いてる!」
「へ?」
リビングアーマーは胴体を輪切りにされながらも、アカネさんの足を掴み、強引に引きずり倒してしまう。
「ぎゃんっ!?」
顔面を殴打して、アカネさんは尻尾を踏まれた猫のような声を出す。
「相変わらず詰めが甘いわね」
セレンが溜息を吐きながら、リビングアーマーの両腕を切断した。
それでダメージが許容量を超えたのか、リビングアーマーは完全に動かなくなる。
アカネさんは悔しそうに顔を顰めて、
「くっ、最初の雑魚敵に不覚を取るなんてっ……サムライの恥! かくなる上は」
「切腹はやめてね」
「先回りして言われたでござる!?」
「まぁどうせやるやる詐欺だろうけど」
「ちゃんといつも本気でござるよ!? そこまでいうなら、実際に腹を切ってみせるでござる!」
「はいはい」
「ほ、本当にやるでござるよ!? いいのでござるか!? 止めるなら今でござるよ!?」
どうやらこの遺跡に出現するのは、リビングアーマーばかりらしい。
「上階に進めば進むほど、より強力なリビングアーマーが出現するようになります。今のリビングアーマーはその中でも最弱……さしずめレベル1といったところでしょうか」
「ちなみにローダ王国軍の探索では、何階まで進めたの?」
「14階までです。強くなっていく魔物に対応し切れなくなり、泣く泣く撤退いたしました。恐らく塔の半分にも達していないかと」
なかなか難度の高いダンジョンみたいだ。
「それはサムライとしての血が騒ぐでござる!」
「アカネさんは今レベル1相手に不覚を取りかけたばかりだけどね?」
ちなみに各階が複雑な迷路になっている反面、トラップはまったくなかったという。
もっと上の階に行けば設置されているのかもしれないけど。
その後も何度かリビングアーマーに遭遇したけれど、村の精鋭たちの敵じゃなかった。
あっさり撃破しつつ、やがて上の階へと続く階段を発見する。
そうしてリンダさんの案内を受けながら、僕たちは塔型の遺跡をどんどん登っていった。
彼女が言った通り、少しずつリビングアーマーも強くなっていく。
とはいえ、まだまだセレンたちは余裕で倒している。
あっという間に10階にまで辿り着いた。
「次の別れ道は右です」
リンダさんがすぐにルートを示してくれる。
ここまでずっとメモも何も見ていないけれど、もしかしてすべて覚えているのだろうか。
と、そのときだった。
「い、いや、待ってくれです。……こっちのルートの方が近い、と思うです」
リンダさんの示すルートに異を唱える人が。
実は今回の探索に、もう一人、同行してくれている村人がいた。
『迷宮探索』のギフトを持つカムルさんだ。
最近四十歳になった彼は、正直、戦闘面ではまったく活躍できないけれど、こうした迷宮では力を発揮する。
「過去の探索では、右を通っていけば次の階段に辿り着いたのですが」
「そ、そっちでも、もちろん、いける、です……ただ、結構な、遠回りになっちまうので……」
「……なるほど。確かにかなり時間がかかった記憶はあります」
どうやら必ずしも正解ルートが一つだけとは限らないようだ。
「ここはカムルさんを信じて左を進んでみよう」
「えええっ、あっしは……そんな……期待されても……困るというか……」
「大丈夫ですよ。自信もってください」
カムルさんは普段は引き籠りで、自尊心が著しく低いのである。
ただ、カムルさんのダンジョン探索における直観はだいたい正しい。
まぁそういうギフトだしね、『迷宮探索』って。
そうしてカムルさんの意見に従い、僕たちは左の道へ行くことにした。
「あの……」
「どうしたの、カムルさん?」
「一つ言い忘れたことがあるんすけど……」
「えっと、何ですか?」
「こっちのルート……近道ではあるものの……その代わり、魔物がたくさんいるかもしれねぇです……」
カムルさんが言い終える前だった。
通路から広めの空間に出た僕たちの頭上から、大量のリビングアーマーが降ってきたかと思うと、ガチャガチャと盛大な金属音を鳴らしながら地面に着地した。
「……次からはもうちょっと早く言ってね?」
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