第478話 俺の名はプライド・パン
村の人口増に伴って、子供もたくさん増えてきた。
子供向けの商品やイベントも多くなってきた中、【教育医療福祉部】の部局長をしてくれているエルフのコルネさんが、ある提案をしてきた。
「ヒーローショー?」
「はい。うちの部局が中心になって進めているものでして、ぜひその初回ステージをルーク村長にも見ていただきたいなと」
コルネさんは、『癒し手』のギフトを持つクリネさんのお姉さんだ。
年齢は百歳近いそうだけど、長寿種のエルフだけあって、見た目は二十歳くらいにしか見えない。
「元は最近、子供たちの間で大ブームになっている絵本なのですが、実はそのキャラクターの誕生には村長が関わっていると聞いています」
「え、僕が?」
「何でも『創作』ギフトを持つヤナーゼが、村長にアイデアを求められたと」
「あー、言われてみれば、そんなことがあったような」
正直、僕にそんなアイデアを出す能力なんてないので、前世の記憶から、とあるアンパンのキャラのことを話したのだっけ。
そうしたら「それはいい! アレンジしたら素晴らしいキャラクターができそうだ!」って喜んでいたように思う。
どうやらそうやって作られた絵本が、子供たちに大人気らしい。
「分かりました。どういう感じになっているのか気になりますし、ぜひ見てみたいです」
そしてヒーローショー当日。
僕は会場に足を運んだ。
会場は村の広場に設けられたステージで、劇場をカスタマイズして作ったものだ。
〈劇場:演劇やコンサートなどを観客に披露するための施設。村人の芸術的感性アップ〉
「それにしてもすごい数の観客ですね」
会場は親子連れで大いに賑わっていた。
子供たちが目を輝かせ、今か今かと開演を待ちわびている。
「はい。それだけ子供たちに人気なのです。あ、そろそろ始まるみたいですね」
軽快な音楽が鳴り響き、わぁっと大きな歓声が上がった。
やがてステージの上に、颯爽と一人のヒーローが姿を現した。
「俺の名はプライド・パン! そんじょそこらの食パンと一緒にしてもらっちゃあ困るねぇ! なんたって、最高品質の食パンなんだからねぇ!」
食パンのキャラクターっ!?
アレンジというか、アン〇ンマンの仲間そのままじゃないか!
違うのはやけにプライドが高そうな性格だけだ。
プライド・パンっていう名前なくらいだし……。
そんなことを思っていると、ステージの上にもう一人のキャラクターが。
「オレの名はレイジ・パン! 朝からずっと腹の虫が収まらねぇっ! オーブンの野郎が、オレの端っこを焦がしやがったんだ! あの野郎っ、絶対オレのことをバカにしてやがる!」
また食パン!?
しかも今度はめちゃくちゃ怒っている。
子供向けのキャラクターだよね……?
「あたしの名はグリード・パン! とってもオシャレが大好き! ああっ、ジャムも塗りたいし、バターも塗りたいし、クリームも塗りたいし! 今日の衣装がなかなか決まらないわ! ええい、こうなったら全部塗っちゃえっ!」
また別のキャラが出てきた!?
欲望に塗れた女の子のキャラクターっぽいけど、今度も食パンだ。
「おれは……スロウ・パン……とにかく……眠い……何もしたくない……おやすみ……」
四体目の食パンだ!
もしかして食パンしか存在しない世界なのかな……?
そしてヒーローのはずなのに全然やる気がない。
「うふん、わたしはミスト・パンよ。あら、あなた、とぉってもかわいらしいメロンパンねぇ……食べちゃいたいわぁ♡」
五体目はちょっとエッチなお姉さん食パンだ。
「おらは、グラトニー・パン。腹が、減った。何か、食べるもの、ない?」
六体目の食パンはとにかくお腹が空いているらしい。
食パンなのに食事をするんだね……。
「私はエンヴィ・パン……。っ……グリード・パンったら、またあんなにお洒落してるっ……う、羨ましい……っ! ミスト・パンはまた男の子を誘惑してるっ……すでに五股もかけてるっていうのにっ……わ、私なんて、もう何年も恋人がいないっていうのにっ……きいいいいっ!」
七体目は、嫉妬心を剥き出しにする女の子の食パン。
「僕はヴェイン・パン。世界で最も美味しい食パンさ。ふふ、見たまえ、このふわふわで黄金色に輝くパン身を。ふふ、ありがとう、ありがとう」
八体目はアイドルみたいに気障っぽい食パン。
そんな感じで順番に個性の強い自己紹介をしながら、最終的に総勢八体ものキャラクターがステージに登場すると、全員でカッコよくポーズを決めて叫ぶ。
「「「八枚合わせて……食パンメン!」」」
食パン……メン?
どうやら彼らは八枚切りの食パンたちらしい。
八人兄妹なのだろうか。
それにしても登場して自己紹介するだけで大変だ。
途中で飽きてしまいそうだけれど、幸い会場は大盛り上がりだった。
「ていうか……なに、このキャラクターたち?」
「ご存じないのですか、ルーク様? 今この村で最も子供たちに人気のある『食パンメン』ですよ」
一緒にヒーローショーを見に来ているミリアが当然のように言う。
「一応、コルネさんからは、アンパンのキャラにインスピレーションを受けたってことだけは聞いてるけど……」
「そのアンパンのキャラとやらは分かりかねますが、彼ら食パンメンは、それぞれが八つの大罪を象徴しているのだそうです」
八つの大罪。
それはあらゆる罪の根源とされているもので、傲慢、憤怒、強欲、怠惰、色欲、暴食、嫉妬、そして虚飾の八つを指している。
「子供向けにしてはシュール過ぎない?」
「むしろそこがウケているのです」
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