第472話 あのトイレだとは言えない
「ルーク殿、ぜひ私もこの村に住まわせてほしい!」
「え?」
魔王が正気に戻り、人と魔族の間に平和が戻って数日後。
村にやってきたのはダークエルフ族の族長ビビさんだった。
「この村を訪れて、魔大陸にある我らの里とのあまりの差に驚愕させられた! この村の存在を知ってしまったら、もはや里に戻ることなどできぬ……っ!」
「えええ……」
それで族長を引退し、里を出てきてしまったらしい。
「いや、私だけではない。この村のことを同胞たちに話したら、ぜひ自分たちも行きたいと」
「「「よろしくお願いします!」」」
「いっぱいいる!?」
どうやらそろって里を捨ててきたようだ。
「住むのは別にいいですけど……エルフたちもいますし……いや、それはむしろ逆に良くないかも?」
エルフとダークエルフは、犬猿の仲というイメージだ。
エルフたちが嫌がるかもしれないと思っていると、
「その心配はない」
フィリアさんが断言した。
「そもそもダークエルフとの接点が少ないからな。嫌悪感など特にない。魔族ではあるが、見た目がよく似ていることもあって、むしろ親近感があるくらいだ」
「あ、そうなの。じゃあ、大丈夫そうだね」
「うむ。……ところで、ビビ殿。この村のトイレはもう使っただろうか?」
「もちろんだ!」
フィリアさんの謎の質問に、ビビさんがなぜか目を輝かせた。
「実は前回の会談の時に借りて虜に……っと、ごほんごほん(危ない危ない。ついあのトイレの素晴らしさを熱く語ってしまうところだった。まさかこの村に移住したいと思った最大の理由が、あのトイレだとは言えない)」
「もしやビビ殿」
「っ……まさか、フィリア殿も」
まるで何かに通じ合ったかのように、じっと互いを見つめ合う二人。
やがてがっちりと握手を交わす。
「ビビ殿、貴殿とは仲良くできそうだ!」
「フィリア殿、私もそう思う!」
うーん、なぜだろう……感動的な場面のように見えて、なんだか物凄くくだらない感じがするのは……。
魔大陸からこの村に移住を希望してきたのは、ビビさんたちダークエルフ族だけではなかった。
「我らもこの村に住まわせてくれぬか?」
「ガオガルガさんたちも?」
ガオガルガさん率いるアルマル族だ。
「人の街に潜んでいた同胞たちが、自分たちの集落との格差を知ったようなのだ。もう元の生活には戻りたくないと言っている」
獣化しなければ人と見分けが付かないアルマル族たちは、都市を襲撃するまで人間たちに溶け込むように潜んでいたという。
そのせいか都市生活に憧れを抱いてしまったようだ。
「まぁ、ダークエルフたちも移住してきたし、この村なら受け入れられるけど……。一応、何かあったときのために話し合いがスムーズにできるので、代表者を決めておいてくださいね」
「オレが代表のつもりだ」
「ガオガルガさんも移住するつもりなの?」
彼がこの村に来るのは会談以来の二回目だ。
ビビさんと同じように、村の快適さに惚れ込んだのだろうか?
「う、うむ……実はだな……あの御仁と……その……お近づきに、なりたいなと……」
「え? それって、誰のこと……?」
惚れ込んだのは村ではなく、村人の誰からしい。
「桃色の髪の……」
「ゴリちゃん!?」
「っ……こ、声が大きいぞ!?」
「あ、ごめん……でも……まさか……いや、まぁ、好みは人それぞれだろうけど……」
とりあえず「頑張って」とは言っておいた。
「ルーク! 遊びに来たぞ! それにしても凄いところだな! 村長って聞いてたから、てっきり村だと思ってたのに、まさかこんな大都市だったなんて!」
「モンモル! 来てくれたんだ!」
魔王の拠点に侵入する際、僕たちを案内してくれたダイモン族のモンモルが、村に遊びに来てくれた。
「いや、これでも一応、村なんだよ」
「村の定義が気になるところだが……ともかく、良いところなのは間違いないな! 栄えているし清潔だし、それに食べ物も美味しい! けど、一番はやっぱり、ダイモン族の村と違って、道行く人たちの背が高くないことだ!」
平均身長が190を超えるダイモン族の中にあって、モンモルは170センチに届くか届かないかといったところ。
かなり小柄だけど、人間たちの中に交じると平均的な背丈だ。
「決めたよ、ルーク! おいら、この村に移住する!」
「え?」
「ここなら自分の背が小さいことを気にしないで暮らしていけそうだからな!」
「確かにそうだね」
そうしてモンモルは、移住によって長年のコンプレックスを解消したのだった。
「ぼ、僕のコンプレックスはどうすれば……」
一方で、村から出ていこうとする人もいた。
「あたいは魔大陸に住むことにするぜ!」
チョレギュさんだ。
「モリルモア! あいつこそがあたいの旦那に相応しい男だ! 間違いない!」
どうやら元魔王であるモリルモアさんに惚れ込んでしまったらしい。
呪いでブーストされていたのもあるだろうけど、確かにモリルモアさんはめちゃくちゃ強かったしね。
自分より強い男を好むアマゾネスなら当然のことだろう。
……もちろん相手が受け入れてくれるかは別問題だけど。
「うん、頑張ってね」
面倒な村人が一人いなくなることに少しホッとしつつ、チョレギュさんを送り出す。
だけどそれからわずか数日後のこと。
「既婚者だったじゃねぇかあああああああああああああああああっ!!」
村に戻ってきたチョレギュさんが絶叫する。
どうやらモリルモアさん、すでに結婚していたらしい。
「しかも相手はあたいより強ぇ女だったんだけどよおおおおおおおっ!」
「ご、ご愁傷様……」
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