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第四話 炎と風

 魔仮面を装着したエリザベスは自分の敬愛する主からの命令を忠実に果たすため、この場に居合わせるすべての敵に向かい魔法を放とうとしていた。

 魔力の流れは非常にスムーズで、これまでの彼女達の人生で得られた魔法の学習はいったい何だったのだろうかと思うほどに魔法が組み立てている。

 それも彼女の装着する魔仮面の効能である。

 そして、彼女の行使する魔法は勿論、炎の魔法。

 自分の最も得意とする魔法であり、この場で多くの敵を確実に抹殺するのに最も相応しい魔法。

 敵の中には顔見知りが何人か見受けられるが、今の彼女達にとってそれは些細な事。

 その程度の事で自分の敬愛する主の命令に逆らう事なんて、とても考えられない。

 突然の事で呆気に捉われている相手に攻撃を与えるのは簡単な仕事だ。

 エリザベスの体内で魔力は高まり、あとは結びの詠唱をするばかり。

 しかし、ここで邪魔が入る。

 エリザベスからの尋常ではない魔力の高まりを感じたハルが、行動を起こしたからだ。


「させない!」


 ハルは短くそう叫ぶと、次の瞬間に白魔女へ変貌を遂げる。

 白魔女に変身したハルの魔力は瞬間的に膨れ上がった。

 いや、爆発したと表現した方がいい。

 有能な魔術師は敵の魔力を敏感に感じることができると言われるが、このときのエリザベスも爆発的に上昇した白魔女の魔力に注意が向いてしまった。

 無視できない存在―――いや、最も警戒すべき存在と言う方が適切だろう。

 ハルが自分に注意を向けさせるため狙った所作は、こうして見事に(はま)る。

 エリザベスは己に生じた本能的な警戒感から、標的をその他大勢から白魔女単身へ急変更し魔法を放つ。


「怒りに踊る炎よ、敵を燃やし尽くせ!! 夢幻の炎舞よ!」


 エリザベスのかざした掌より魔法の炎が噴き出し、短い詠唱であるにもかかわらず特大の火炎魔法が発動する。

 元々、エリザベスは強力な火炎魔法の使い手だが、その力を発揮する対価として長い詠唱時間を必要としていた。

 このことは臨機応変と瞬間の対応を要求される戦いの場において決定的な隙となるため、近接戦闘者としては不向きなスタイルの魔術師だ。

 少なくとも単身で戦うスタイルではないのだ。

 しかし、現在のエリザベスはこれまでの彼女と全く異なっていた。

 短い詠唱時間であっても、強大な魔法を具現化させる事に成功している。

 それはこの不気味な魔仮面の力によるものであるとハルもすぐに判別できなかったが、そんな事よりもハルが急いで対処しなくてはならないほどにエリザベスの放つ魔法は危険度の高いものだ。

 エリザベスより放たれた魔法は、巨大な炎の柱であり、炎が三重になって捻じれていた。

 その炎の柱は人の身長を遥かに超えて、二メートル近い巨大な柱で、明らかに上級魔法の部類に入る。

 決してこのような閉ざされた屋内で使ってよい魔法ではない。

 何故なら、周辺の人間はおろか、自分をも巻き込んでしまうほどの自殺行為になるからだ。

 だが、魔仮面を装着する当のエリザベスはこのことを全く躊躇せず、凶悪な魔法を世に放つ。

 巨大な炎の柱がエリザベスの掌から離れ、暴れ出したことで、ジュリオ皇子の突然の錯乱(さくらん)に注意を奪われていた人達も、この大いなる危機に気付かされる。

 しかし、彼らが幸運だったのは、この炎の魔法の標的がハル単身のみに向いていたことであろう。

 この濃縮された炎の柱の魔法はハルだけに向かって一直線に進む。

 捻じれた三つの炎の柱は高速で回転しており、空間をも削るような凶悪さを持つ。

 こうして、ハルに着弾する手前まで迫るが、そこで何かの壁に阻まれるように炎の柱は急停止する。

 白魔女になったハルは薄い半透明の膜のような魔法を無詠唱で素早く展開しており、その膜が防壁となり、エリザベスの炎の柱の魔法攻撃を受けて止めていた。

 炎の柱はこの防壁により勢いを阻まれたが、抵抗するかの如く激しくパチパチと音を立てて膜の表面で暴れまわる。

 まるで怒り心頭の毒蛇が暴れまわるのを連想させられる。

 そして、よく見ると、その炎の毒蛇が暴れ回る周囲から水蒸気が上がっていた。

 ここで水蒸気の存在が意味するのは炎に水が注がれている事に他ならない。

 炎の柱の魔法を効率よく消滅させるために、ハルが水魔法を魔法防御膜の魔法上に同時展開していたからだ。

 この魔法の二重がけという技術は単一の魔法行使よりも呪文が複雑になり、更に魔力の消費量も四倍以上必要だと言われている。

 そのような高等技術をまるで当り前のことのように行使できるのは、白魔女の仮面による能力と、ハルが膨大な魔力を持っているおかげである。

 結果、炎の柱はその先端が水の膜とぶつかり、水蒸気になって消失するが、それで負けて終わるほど今のエリザベスの魔法は甘くはない。

 消滅した箇所を補うため次々と新たな炎の魔法がエリザベスより送り込まれて、ハルの施した水防壁を食い破ろうとしている。

 ハルも負けじと、蒸発によって減らされた水膜を次々と修復し、炎が自分の領域に入るのを防ぐ。

 火と水、このふたつの力は互いに激しく攻防し、押し合って、拮抗する形で中立を保つ。


「凄い! この私が白魔女と拮抗できるなんて!」


 エリザベスは興奮気味に現在の自分の魔法を称賛した。

 これまでのエリザベスの魔法は白魔女の足元に全く及ばなかったが、今回は果たしてどうだろうか。

 白魔女に負けない魔法を行使できている自分が、自分でも信じられず、思わず気分が高揚しているようだ。


「なんて誇らしいことなの! 遂に、遂に私は力を手に入れたわ。あの方から頂いたこの魔仮面の力のお陰よ。あはははははは!!」


 エリザベスは狂ったように笑う。

 仮面を被っていたため、この時、彼女がどのような表情をしていたのかは全く不明だが、逆に見えない事で、彼女の狂気めいた異質さが深く感じられた。

 エリザベスの忠実な家来だったローリアンでさえも、このときに彼女から感じた気持ち悪さに顔を顰めるほどであった。

 自分が過分の力を手に入れた事で有頂天になるエリザベスに、ここでハルは文字どおり水を差す。


「エリザベス、あなたの今の魔力はその仮面の力によるものね。誰からその仮面を貰ったのかしら? 随分と見覚えのある魔力の流れ方を感じるんだけど・・・」

「アナタには絶対に教えてやるもんですか!」


 エリザベスは白を切るが、ハルは魔道具の専門家である。

 既にエリザベスが装着していた魔仮面の正体をほぼ看破していた。

 彼女の魔力が装着している魔仮面の力により増幅されている事は明白である。

 つまり、今、自分が装着している『白魔女の仮面』と同系統の魔道具であるのだ。

 同系統と言うよりも、模倣品と呼んだ方がいいほどに魔力の流れ方が似ていた。

 そして、ここで同じ魔力の気配をもうひとつ感じることなる。

 ハルはほぼ直感的に今の場所から飛ぶ。

 その数舜後に、その場所には、パン、と乾いた音が起こり、木の床が捲れ上がった。

 この見えない斬撃を放ったのはエリザベスの脇にいたサラからである。

 彼女は両手を手刀のように構えてハルに向き直っている。


「ハッ!」


 短い掛け声を挙げて手刀が空を切るとともに鋭利な魔法が放たれた。

 ふたつの見えない斬撃がハルに迫るが、これも間一髪のところで躱す。

 斬撃は床に当たり、豪華な木製の床材は乾いた破裂音とともに壊れされた。


「まったく、厄介な攻撃ね。風の魔法を音速で放ってくる。しかも無詠唱・・・あなたは元々、風魔法の天才的な使い手だったのかしら。それともその仮面の力によるもの?」


 そう言うハルこそ、エリザベスの炎の攻撃を水の魔法で防ぎながら、サラの放つ風の攻撃を余裕で回避している。

 白魔女になったハルも、たいがい天才的な魔術師に違いないのだ。


「フハハハハ。いける。いけるぞ、守護者達よ。アヤツからは『守護者は白魔女と対抗し得る戦闘力がある』と聞いていたが、どうやらそれは誇張ではないらしい」


 エリザベスとサラの魔術にご満悦な様子のジュリオ皇子。


「しかし、ハルは大切な母体として使う予定だ。殺してはいかんぞ。生け捕りにせよ! しかし、それ以外の逆賊は・・・」


 皇子はニヤリと壮絶な笑みを浮かべて・・・


「殺せ!」


 ジュリオ皇子からは非情な命令が繰り返し発動され、ふたりの忠実な守護者は主に位を正した。


「「御意ッ!」」


 主の命令を冷徹に遂行するため、エリザベスはハルに向けていた炎の攻撃を中断し、ジュリオ皇子の横に素早く移動し、別の呪文を唱え始める。

 そして、その邪魔をさせないため、今度はサラが全面に出てきてハルの相手をする。

 彼女は縦横無尽に手刀をハルに放ってくる。

 ハルも行使中だった水の膜の魔法を流用して、サラからの風の魔法攻撃を防ぐ。

 風と水が衝突し、激しい水飛沫が起こるが、水と風では元々相性があまり良くなく、数発の攻撃がハルの防壁を掻い潜ってきた。


「任せろ!」


 ハルが自分を必要としている事に素早く気付き、アクトは魔剣『エクリプス』でその対処に当る。

 アクトの振う魔剣はハルの逃した風の魔法を全て撃ち落し、そして、黒い霞にして消滅させる。

 そんなアクトの行為で、サラは明らかに不機嫌になった。


「アクト、私の邪魔はしないで。この女はアナタにとって疫病神なのよ!」

「サラ! それはできない。俺にとってハルは守るべき存在。どんな奴からもこの手で守り抜いてみせる。それはサラ、お前の攻撃からもだ!」

「ああ、本当にアクトはこの女に毒されちゃったよね。でも大丈夫。私が解毒してあげから」


 サラがそう言うと、手刀の魔法を解き、掌を開いて指十本をアクトとハルに向ける。


「ハァーーッ!」


 彼女は絶叫とも呼べるような強烈な気合声を発し、その小さな指十本全てから凄まじい数の魔法の風が矢のように飛び出した。

 ハルとアクトは素早くその攻撃を躱したが、直線的に放ったサラの魔法攻撃は部屋のあちこちへ進み、そして、床や壁、調度品を壊した。


「わわっ!」


 当然のように、そんな攻撃は周囲の人間に降りかかり、身体を掠めたり、傷を負ったりする。

 騒然とする中、ここでひとり青年―――インディ・ソウルが決意を新たに行動を起こす。


「くそっ!」


 インディは机を押し倒して盾にすると、これを構えながらサラに向かって突撃。


「うおーーっ!!」


 インディは鬨の声とともに必死に突進し、アクトとハルの脇を通り過ぎて地面を滑るようにしてサラへ肉薄する。

 そして、木製の机が壊れるガシャーンという音と、サラの悲鳴が重なる。


「キャッ!」


 彼女の風の魔法攻撃によって木っ端微塵に砕けた机と、その破片に当たって仰向けに転ぶサラ。

 そして、様々な偶然が重なった結果、インディがサラに馬乗りする形となる。

 白兵戦において上に乗った方が圧倒的に有利なポジションであり、特に相手が普通の魔術師の場合には、至近距離に敵がいるため、これで負けが確定したとも言えよう。


「サラ。もう止めてくれ。お前がこの事をするなんて俺は耐えられない。頼むから正気に戻ってくれ」


 インディはサラを説得にかかる。


「お前は元々、魔力感知能力は高かったが、それ以外の魔法は得意じゃなかった筈。それが・・・これほどに無詠唱の魔法を放てるようになるなんて絶対におかしい・・・そうか、この魔法の仮面か。この仮面がお前に人外の能力を与えているんだな。そして、お前を狂わせているんだな。解った。今すぐにこれを取ってやる」


 インディはサラの魔仮面に手を掛けた。

 しかし、それを阻むようにサラの細腕がインディの腕を掴む。


「インディ、何をするの! その汚い手で私の魔仮面に!!! 触るなーーーーーッ!」


 サラがおもいっきり手を振り上げたと思えば、それに続き、ボキッと骨の折れる音が部屋に響く。

 そして、インディの身体が宙を舞った。


「ぐわっ!」


 細身であったはずのサラに、インディは軽々と投げられてしまい、高い天井にその身が叩きつけられた。

 女の細腕とはとても思えない強行に、周囲の人間は今起きている事が実際の事なのかと目を疑ってしまう。

 直後にガシャーーンと凄まじい音が立ったのは、インディが地面に落下した音だ。


「う、ううっ」


 痛みを我慢するインディだが、それでも呻き声が口から漏れてしまう。

 それもそのはず、彼の腕は変な方向に曲がり、確実に骨が折れていた。


「インディ、あなたが私の魔仮面に馴れ馴れしく触るから罰を与えたのよ」


 当然のように罰を与えてやったと、サラに悪びれる様子は無い。

 その慈悲のかけらを感じさせない行動にアクトは怒った。


「おい、サラ! お前、何をやったのか解っているのか!」

「あら? アクト。今更、何よ。これは戦いなのよ。私にひどい事しようとしたのはインディの方じゃない? それよりもアナタは私の心配はしてくれないのかしら?」

「何を言っているんだ。インディはお前を正気に戻そうしたんだぞ。それを!」

「私は今も正気よ。狂っているのはアナタ達の方。そしてその元凶はハル! アナタなのよ!」


 サラは白魔女の方に顔を向ける。

 魔仮面をつけたサラが、このときどのような表情をしているのかを読み取る事はできないが、決して愉快な顔をしていないとアクトやハルは容易く想像できる。


「多少に罰を与えたけれども、それももうおしまいよ。エリザベスの最強魔法がもうすぐ完成するから。そうしたらあなた達は仲良くあの世に行けるわ。感謝しなさい。アクトも浄化される・・・エリザベスの炎で清められるわ。そうしたら亡骸は私が貰ってあげるわね。私の部屋に置いて毎日世話をしてあげるの。どう素敵でしょ?」

「・・・狂っている・・・」


 アクトの口から最悪の言葉が漏れた。

 これは絶対にサラじゃない、サラに似た悪魔になってしまったのだとアクトは思うしかない。

 それほどの狂気に彼女が支配されていたからである。

 狂気の心を宿した人物はこの場で三人いる。

 サラ、もうひとりはエリザベス、そして、残りひとりはこの国の第三皇子であるジュリオ。

 そのジュリオ皇子は自分の勝利が間近であることを確信し、ご満悦となる。


「フハハハハ。サラよ、よく時間を稼いだ。もう直ぐエリザベスの最強魔法が結びを迎えるぞ。その時、こ奴らは一網打尽であろうな。アクトとハルは魔道具の力によって、もしかしたら生き残るかも知れんが、それ以外の人間はまず助かるまい」


 エリザベスは凄まじい速さで詠唱するが、彼女の魔力の収束が完了しつつあり、呪文の結びが近い事を感じさせていた。

 最後の仕上げは自分で行う予定だったジュリオ皇子は、この場にいる者に死の宣告をしようとする。

 だが、ここで予想外の問題が起きてしまう。


「それで、終わりだ。さあ、エリザ・・・ぐ?・・・?? うぇ!? あ、あぎ、あぎゃーーーーーーーーっ!」


 それは突然に始まった。

 ジュリオ皇子が突然、絶叫を挙げて苦しみだしたのだ。

 彼はのた打ち回り、そして、床に伏して痙攣をはじめた。

 それを見たサラは一瞬にして攻撃を中断。


「い、いけない! 発作が始まってしまった。エリザベス、術を中断して!」


 サラは慌ててエリザベスに魔法の中断を指示するが、当の本人は詠唱に集中するあまり、サラやジュリオ皇子の様子に気付いていない。


「ちっ! 肝心なところで融通の利かない女め!」


 サラはエリザベスに向かって風の魔法を放つ。

 無防備なエリザベスの腕に風の魔法が当たり、その腕を跳ね上げ、魔法の発動点となる彼女の掌を自分達の後方の壁の方へ向ける事となる。

 そして、その直後にエリザベスの詠唱が結びで締めくくられて、術が発動した。


「八首の龍よ、来たれーーーっ!」


 自分の手が後ろに飛ばされた事すら気付かないまま、エリザベスは自身の持つ最強の魔法を叫ぶ。

 直後にエリザベスの掌より放たれたのは極大の太さを持つ火炎の柱が八つ。

 その先端は龍の顎が口を開けたかのように、すべてのものを喰らい尽した。

 だが、その凶悪な龍の顎は自分の当初の意思と逆方向の壁へと向かう。


「あれっ!?」


 当初の狙いと全く逆方向になってしまった事に今更気付くエリザベスは、間抜けな声を挙げるが、それが周辺に聞こえるよりも早く、建物の壁が彼女の魔法の直撃を受けて大音響と共に崩壊。


ドカ――――――――――――――ン

ガラガラガラ・・・


 この八つの暴力的な火炎の龍は頑丈な建物の壁など物ともせず、その先の壁もそのまた先々の壁も打ち抜き、やがて建物の外に出て、ラフレスタの空に消えてしまう。

 それを呆然と眺めるエリザベスであったが、相棒から自分に罵声が浴びせられた。


「この莫迦。何、呆けているの! 主が発作を起したのよ」


 サラのその一言で、エリザベスの意識が初めてジュリオ皇子に向けられる。

 そして、彼女は地面でのたうち回って苦しむ主の姿を認めて、愕然となった。


「な、なんて事!?」


 みるみると血の気が失せていくエリザベス。

 そんなエリザベスに構う事無く、サラは素早く動きジュリオ皇子を抱きかかえた。


「嗚呼、主よ! お気を確かに」

「・・・渇く・・・ひどく渇く・・・ぐっ・・・ぐぐお」


 細かい痙攣を起こしたジュリオ皇子の容体はみるみる悪くなっていく。

 そうなるとサラの判断は早かった。


「エリザベス、これは姐様に看ていただく必要があるわ。すぐに撤退するわよ」

「解りましたわ」


 ふたりはジュリオ皇子を肩に抱くと、素早くエリザベスが空けた穴の方から外へと駆け出していった。


「まっ、待て。サラ!」


 現場から逃走を図るサラ達に、インディが力を振り絞って立ち上がった。

 しかし、足元はおぼつかず、自分がサラを連れ戻す事はできないと悟ると、インディは渾身の声で叫ぶ。


「サラーーッ!・・・俺はお前の事を絶対に助けるからな! 絶対に連れ戻すから!」


 インディは自分が骨折して重傷であることも構わず、サラに向かい大声で救出を約束する。

 その言葉に一度だけ振り返るサラだったが、それは一瞬の出来事であり、再び背を向けて駆け出していく。


「おい、待て! 敵を逃がすな!! 追え!」


 ロッテルが慌てて追撃の指示を部下達に出すが、魔仮面の力で強化された彼女達の身体能力に追いつく事はできず、日の傾きはじめたラフレスタの街の中にその姿を消してしまうのであった。

 

 

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