表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラフレスタの白魔女(改訂版)  作者: 龍泉 武
第十章 ラフレスタの乱
100/134

第一話 騒乱の始まり

 ジョージオ・ラフレスタより独立と戒厳令の宣言が出された後の時刻は夕刻から夜に差し掛かろうとしていた頃、ラフレスタの城壁の門には多数の人間が詰めかけて大混乱になっていた。

 

「おい! どうなっている!? 通行止めなんて聞いてないぞ!」

「頼むから通してくれ。明日にはカマン村へ届けなければならない荷物があるんだ」

「いや、俺は家に帰りたいんだ。頼むから入れてくれ」

 

 生活がかかる人達は門の衛士に詰め寄るが、それでもこの要望に応じる衛士はひとりもいない。

 

「うるさい、お前たち!! 領主様の宣言を聞かなかったのか! ラフレスタへの出入りはしばらく禁止となった。この方針には従ってもらう」

 

 衛士は冷たくそう対応すると、それ以降は一切の口を噤んでしまう。

 当然のごとく、これに納得する者はいない。

 集まった人々は怒号をあげて抗議するが、衛士達はこれらを一切相手にせず、ときおり威圧を見せての牽制を繰り返す。

 このようなやり取りはここのラフレスタ北門だけではなく、全ての街の出入口で見られる光景であった。

 商人達も足止めされては死活問題となるため、激しく抗議を続けており、一触即発の雰囲気となる。

 

「もう我慢ならねぇ。俺たちの後ろ盾には帝都の貴族がいるんだ。突破するぞ!」

 

 威勢の良い声を張り上げたのは帝都でも有名な商会に属している若い商隊長だ。

 彼には一刻も早く届けなくてはならない荷物が多数あり、これ以上遅れると信用問題にも発展しかねない。


「「おーーーっ!」」


 彼の部下達も待っていましたとばかりに声を挙げ、一斉に馬車を走らせる。

 街の門を突破するのは重罪であるが、そんな事はお構いなしと次々と衛士の制止を振り切り、門を突破して街の外に走り出した。

 

「おい! こら待てーっ!!」

 

 衛士は戻れと叫ぶが、彼らがそれで止まるようならば初めからこんな事はしない。

 衛士も多勢に無勢であり、元よりこんな状況を想定している訳ではない。

 領主の突然の戒厳令宣言より上からの命令に従ったまでであり、これ程に敵意の多い状況で街道の封鎖など実際は不可能なのだ。

 相手もそれを解っていて、今回のような強硬突破事件が起きた。

 この商隊の成功を知り、多くの者がこれに続こうとする。

 怒号の飛び交う中、混乱に乗じてかなりの人数がラフレスタの外へ脱出を果たすのであった。

 夜の街道は魔物が出現したりと決して安全ではないが、この時間に外へ出るのは元より承知であり、それなりの装備と実力を有している。

 だから、この時に街の外へ出る事を決意した人達はそれなりの実力者であり、ある程度の危険は自分の手で乗り越えられる人達ばかりであった。


「へん。あいつら、たいしたこと無いな」

「そうだな。それにこのラフレスタの領主も独立宣言なんて酔狂な事を言い出している。そんな事に構てられるかよ!」

 

 先に飛び出した商隊の隊長は無事に突破できた事を満足していたし、自分がこのラフレスタに来ることはもう二度とないだろうと思っていた。

 少なくとも、今代の領主には絶対にない。

 このような暴挙を中央政府が放置しておく筈も無いからだ。

 しばらくすれば、内乱として討伐隊が派遣されるだろう。

 そうすると、もしかしたから内戦になるかも知れない。

 そんな紛争地域に自分達の商売のタネはない。

 自分達の故郷でも何でもないラフレスタがどうなろうと、彼の知ったところでは無い。

 彼の使命は次の商いの場所に一刻も早く向かう事である。

 街道のどこを通れば確実、かつ、迅速に次の目的地に行けるか。

 彼の頭の中では既にラフレスタは過去の事として忘れつつあり、追手など来ないだろうと踏んでいた。

 その考えは、ある意味正しく、そして、ある意味間違っている事となる。

 死神は後ろからではなく、前からやって来たのだ。

 

「たっ、隊長!? あれは何ですか!」

 

 それに気付いたのは先頭を駆ける若者であった。

 

「ん、どうした・・・何!」

 

 商隊長は驚きの声を挙げる。

 彼が見たもの・・・それは武装した兵の集団だった。

 それも、おびただしい数の兵。

 夕刻後の夜の闇が降り始めて薄暗くなった街道を端から端まで。

 いや、それだけでは留まらず、街道をはみ出して、草原の部分にも続く人の壁。

 それも一重に二重にと次々・・・

 蟻の子一匹逃がさないような密度で、大量の兵が完全武装で向かって来るではないか。

 一色の赤に染まる意匠の鎧を着た兵は敵意を(みなぎ)らせて自分達に迫っており、商隊長は本能的に彼らには敵わないと感じる。

 

「止まれ!! お前達、引き返すぞ!」

 

 仲間にそう号令をかけるが、先程の街の衛士を振り切って気持ちが昂ぶる若者は自分達がどうして?と隊長の命令を素直に聞く事ができない。

 それが彼らの命取りとなる。

 

「総員、攻撃準備・・・・かかれ!」

 

 兵隊の指揮官と思われる一人がそう号令をかけると、殺戮が始まった。

 赤い兵達は抜剣し、一斉に商隊に斬りかかる。

 

「わーーーっ」

「ぎゃー!」

「ぐぉーーー」 

 

 それは戦闘と呼べるものではなく、蹂躙であった。

 完全武装の兵により剣で斬りかかられた商隊達などひとたまりもなく、悲鳴ともに次々と絶命していく。

 赤い兵達はこの殺戮に興奮の声を挙げる事も一切なく、忠実に指揮官の命令をこなしていく。

 それは一種異様な風景であり、どこか魂の抜けた人形の集団の作業のようであり、そのことが更に相手に恐怖を与える。

 

「ま、待ってくれ・・・命ばかりは・・・ぎゃーーっ!」


 命乞い空しく、最後の商隊の隊員も剣の錆にされてしまう。

 こうして、標的をすべて沈黙させた兵達は次の命令を指揮官に求めてくる。

 指揮官は水晶玉に魔力を流し、門から突破したと思われしき集団を探す。

 そうして彼は次の標的の位置を把握した。

 

「よし、次はあちらだな」

 

 彼はそう言うと自分の部隊に移動の命令をするのであった。

 

 

 

 

 

 

「くっそ、次々と突破をしやがって」

 

 ラフレスタ北門の衛士達はそう悪態をつく。

 最初の商隊の突破を契機に、それに続き街の門を突破したのは十ほどの集団。

 一対一では決して負けない彼らであったが、多勢に無勢である。

 自分達衛士は二十名ぐらいの部隊なので、突破した全員を捕まえるのは無理な話である。

 何人かの不届き者は捕らえたが、大多数は取り逃がす事になってしまった。

 上に対してどう言い訳するべきかと、この場の責任者である彼の頭を悩ましていたが・・・そこに赤い兵の集団が現れる事になる。

 

「おい、あれを見ろ。何だ!」

 

 ここに詰めかけていた住民達が彼らを真っ先に彼らを発見し、そして、その異様な数に驚きの声を挙げた。

 驚くべき数の兵が足並みを合わせて街に向かってくる様子は異様な光景であり、その兵は数えきれないほどだからだ。

 

ザッザッザッザッ

 

 赤い金属の鎧と鋼鉄の長靴が、不気味なほど規則正しい音を立てて、夜の帳が降り始めた街道を行進している。

 その姿を視認した衛士も唖然としてしまう。

 やがて軍隊の行進は止まり、その中でひとりの男が前に進み出て、ラフレスタ北門の衛士の前までやってくる。

 

「な、何奴だ!」

 

 おびただしい兵の数に恐れをなしながらも、この門の衛士の責任者はなんとか自分達の威厳を保つ意地を見せた。

 それに感心したのか、赤い兵士の代表者は軍隊方式の敬礼をする。

 

「お勤めご苦労様です。我々は獅子の尾傭兵団の追加部隊であります。ラフレスタの街に入る許可を頂きたい」

 

 敬礼姿で微動だにしない代表兵士の姿をまじまじと見る衛士。

 確かに彼が主張するように、赤い金属に覆われた兜には獅子の顔とその尾があしらわれている意匠だ。

 鎧の色は違うものの、確かに彼は街に既に居る『獅子の尾傭兵団』と同じ傭兵団だと思われる。

 しかし、この数は・・・。

 そう思う衛士だが、彼としても上司からは「獅子の尾傭兵団には便宜を図れ」と命令を受けている。

 通さない訳には行かなかった。

 

「わかりました。どうぞお入りください。しかし、この人数は・・・」

 

 衛士の言葉を遮るように相手の指揮官が口を挟む。

 

「我等、獅子の尾傭兵団の別動隊は一万二千人だが、衣食住は貴君が心配しなくても良い。我らの団長が既に準備している。入らせて貰うぞ」

「一万二千!?」

 

 その数に改めて慄く衛士。

 ラフレスタの人口が七万人だというのに・・・なんて数だ。

 衛士はそう思うも、赤一色の傭兵達はそんな視線を全く感じないように静かに足並みを揃えてラフレスタの街へ黙々と入門を果たす。

 感情の揺れなど全く見せず、一切口を開かず、ただ黙々と行進している傭兵団は何かの得体の知れない別の生物のようでもあり、その異様さがとても印象的であった。

 ここに足止めを喰らっていた商隊の人達も、ただ茫然とその姿を見送る事だけである。

 しかし、ここでその商隊のひとりが傭兵達の中に自分の見知る顔が居たのを偶然発見した。

 

「お、おい。君! ジャックじゃないか?」

 

 そう声をかけられた男性兵は歩みを止めて、自分に声をかけた男性の方に振り向く。

 

「やっぱりジャックだ。俺の事を覚えているか、ザナだよ。昔、一緒に仕事したよな。それにお前、一旗揚げるとか言って、確かクリステに行ったんじゃないのか?」

「・・・・」

 

 声をかけられた男性兵は黙ったままザナの方を向き、そして、その顔には何も反応を示さなかった。

 

「お、おい」

 

 ザナは困惑する。

 自分とあれ程に仲の良かったジャックが自分の事を忘れてしまうなんて、考えられなかったからだ。

 

「・・・人違いだ」

 

 男性兵は短くそう言うと、再び隊列に戻って歩き出した。

 

「おい、ジャック。待てよ!」

 

 ザナは再び問いかけようと前に出たが、それを別の男性兵に止められた。

 

「うちの兵隊には構わないでもらおう」

 

 無表情にそう言う男性兵からは強い血の匂いがしており、ザナは思わず尻餅をついてしまう。

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、暗くなり始めたラフレスタの第一地区、つまり貴族が住む一等地をユヨーが焦り顔で走っている。

 彼女が目指すのは自分の家であり、この街の政治の中枢でもあるラフレスタの居城だ。

 

(一刻も早く、父様に会わないと・・・)

 

 彼女が焦燥感を露わにしているのも当然である。

 今しがた自分の父から『独立宣言』なるものが飛び出したのだからだ。

 しかも、光の魔法をふんだんに使い、ラフレスタの全住民に解るように宣言した異常さ・・・

 できるだけ早く父に会い、その真意を問い正す必要がある。

 今、ユヨーは頭の中にあるのはそれだけだ。

 彼女の後ろに続いたのはアクトとハルを初めとした選抜生徒達と両校を代表するゲンプ校長とグリーナ学長、そして、ロイをはじめとした第二警備隊の面々、そして、ロッテルだった。

 つまり、ジュリオの屋敷にいた主要な人物が一緒に付添う形となっている。

 その理由は簡単で、ジョージオ・ラフレスタ本人に先程の宣言について問い正したい事が山ほどあったからだ。

 そう、彼らがここに来た理由もユヨーと同じである。

 尚、ライオネルとエレイナも一緒に行動をしているが、彼らはこの街で既にお尋ね者となっているため、今は消魔布で姿を消している。

 そんな一行は、ほどなくしてジュリオの屋敷から近い位置にあったラフレスタ居城の入口に到着する。

 城門には既に領主へ面会を求める人でごった返しており、混乱していた。

 

「ジョージオ・ラフレスタ卿に会わせて欲しい。私は帝都ザルツの有力貴族の使いの者だ!」

「是非にも領主様にご面会をさせて貰いたいです。私は領主様御用達のフラン商会の会長でございます」

「抗議に来た。領主を出せ!」

 

 現場は今も様々な声が飛び交っているが、城門の衛士は一切彼らの要求に取りつがない。

 そんな態度はここに集まった者達の怒りをさらに増長させる結果にもなるが、そんな混乱の中をかき分けてユヨーが進む。

 

「どいてください。通ります!」

 

 小柄な彼女は、普段には見せた事のない敏捷性を発揮して、人ごみの中を進み、そして、城門のすぐ前までやってきた。

 彼女はいつもどおり、その門をくぐろうとすると、門番の衛士から槍を向けられる。

 

「な!? 何をするのですか!」


 いつもの衛士から思いもよらない威嚇を受けて、怒りを露わにする彼女。

 

「現在は領主様から許可を得ていない全て人物の入場拒否をさせて貰っています」

「何を言っているのですか。私は領主であるジョージオ父様の実の娘ですよ!」

「ええ、貴方がユヨー・ラフレスタ様だという事はよく知っております。ですが、許可を得ておりません」

「何って莫迦な事を! ここは私の家ですよ!」

 

 衛士からの心無い言葉に、頭に血が昇るユヨー。

 この兵は頭がおかしくなったのだろうか?

 自分の家に入れなんて、あり得ない話だと思った。

 いつも穏やかなユヨーにしては珍しく、怒鳴ってやろうと決意して口を開けかけたとき、それを止める者が現れる。

 

「騒がしいわね。ユヨーはなんて品のない娘なのかしら」

 

 城門近くの勝手口が開き、豪華で大胆なドレスを着た妙齢の女性が姿を現す。

 

「母様!」

 

 ユヨーは自分の母がこの場に現れて、本当に助かったと思う。

 この気が狂ったとしか思えない莫迦な衛士を叱って欲しいと思った。

 そう思ってユヨーは一歩門に入ろうとする。

 しかし、衛士はそれを見逃さなかった。

 

バシーン!

 

「きゃっ!」

 

 短い悲鳴と共に、ユヨーは衛士の振う槍の棒の部分で打付けられて、地面に伏してしまう。

 更に彼女の自由を奪おうと、背中を棒で打とうとする衛士。


「ヤメロ!」

 

 近くのアクトが何とか滑り込みユヨーを救った。

 ユヨーを後ろに立たせて魔剣ではない方の剣を抜き、その棒を往なす。

 そして、その脇にはハルがユヨーを守るように立ち、どこから出したのか白い魔法の杖で威嚇した。

 

「な、何のつもりですか。これは!」

 

 ユヨーは自分が打ちのめされた事が、まだよく理解できなかったが、それでも自分に狼藉を働いた衛士に睨みを利かす。

 

「それは、アナタが許可なくこの敷地へ入ろうとしたからよ!」

 

 衛士の代わりに実の母がその理由を答えた。


「ど、どうして? 私がここに帰るのに何の許可が必要だというのですか? 母様!」

 

 ユヨーは必死に叫ぶ。

 

「それは簡単なこと。アナタが有能ではないからです」

「えっ?」

 

 ユヨーは本気で訳が解らないと思った。

 しかし、彼女の実の母であるエトワールは淡々とその理由を述べてくる。

 

「今のラフレスタ家には有能な人材が必要なの。長男のニルガリアは頭脳明晰で剣や魔法の実力もあり、今では夫のジョージオの良き補佐をしているわ。長女のフランチェスカもそうね。有力貴族との婚約でラフレスタ家の盤石な基盤固めに貢献してくれようとしています。アナタの上の兄であるトゥールもそう。まだ若いながらラフレスタ家のために役立とうと研鑽を積む毎日。それなのに・・・ユヨー・・・アナタはどうなの?」

 

 エトワールは冷たくユヨーを見据えた。

 

「アナタは魔法の才能も無いくせに、名門であるアストロ魔法女学院に行きたいと我儘を言うし。行かせて魔法の腕が上達するかと思えば、そんな気配もない。それどころか魔術に関する高価な指南書をただ読みふけるだけ。それならばと婚姻の縁談を持ってくるも、それを簡単に断る始末。本当に困った子だわ」

「わ、私は・・・」

 

 ユヨーが良家の貴族相手の縁談を断ったのは事実だった。

 確かに相手はラフレスタの中でも相当に力のある貴族であったが、その長男である嫡子はいろいろと問題のある男性だった。

 容姿はそれなりに整っていたが女遊びの噂が絶えない男であり、事実そうであった。

 会って早々に口説かれたのは自分だけではなく、自分に仕えている侍女や、たまたま遊びに来ていた自分の友人にも声をかけたらしい。

 そんな男性を伴侶に選んでも泣かされる人生が待つだけである。

 あの時は母様も父様も断って構わないと言ってくれた。

 それなのに・・・

 

「わ、私は・・・」

 

 再び何かを言おうとするユヨーにエトワールの容赦のない声が響く。

 

「黙りなさい。この出来損ない! アナタはラフレスタ家にとっていらない子、存在が許されない子、失敗作なのよ」

「そ、そんな」

「だから、貴方がこの家の門をくぐる事は許されない。去りなさい、ユヨー。アナタはもうラフレスタ家ではないわ」

「そ・・・それは・・・嫌です。何故? 母様!」

 

 ユヨーは自分が捨てられることに大いに恐怖した。

 何故なのか本気で解らない。

 一体自分がどんな罪を犯したと言うのだろうか。

 絶望の足音が迫る中、そんな彼女に細やかな救いの手が差し伸べられる。

 

「それでもね、ユヨー。そんな役立たずのアナタでも、ひとつだけ助けてあげる事ができるわ」

「母様っ!」

 

 絶望の淵に追いやられていたユヨーは今、自分の母親から願いには何でも応えようと思ってしまった。

 

「それはね。アナタがジュリオ様に恭順する事よ。ジュリオ様に忠誠を誓い。あのお方の野望を果たす礎となる事」

「・・・」

「ジュリオ様は言っていたわ。『死んだと思った白魔女が生きていた。アヤツはどうやら、選抜生徒とつながりがあるようだ』と・・・ つまり、ユヨー、貴方は白魔女の正体を知っているのよね」

「正体・・・」

「そう。白魔女の正体。あのお方の欲している最高の駒、白魔女・・・ その正体を知っているのでしょ? ユヨー。さぁ、この場で公表するのよ。そうして、白魔女を私達の手柄としてあのお方に献上するの。そうすれば、我々ラフレスタ家はあのお方から最高の信頼と名誉が得られて、永遠の権力が保障されるわ。それこそラフレスタ家にとって最大の貢献よ」

「・・・」

 

 救いの手は伸びてきた。

 しかし、それは悪魔の囁きだった。

 母であるエトワールはどこまで本当の事を知っているのだろうか。

 自分だってつい先程、ハルが白魔女である事を知ったばかりなのに・・・。

 ユヨーは困惑して思わずハルとアクトに目をやる。

 このふたりはそんなユヨーには全く目もくれず、『エトワール』から視線を一時も離していなかった。

 『エトワール』を自分の敵として認知し、ユヨーを含めて全員を守るようにも見えた。

 もし、この場で自分がハルを売る事になると、どうなるのだろうかとユヨーは少し考える。

 自分は母であるエトワールに認められて、無事ラフレスタ家に帰属を許されるだろうが、ハルは完全にジュリオ皇子への商品として捧げられる事となる。

 そんな事になると、アクトは絶対にハルの事を守るに決まっているし、彼らの後ろにいる同級生や学長もふたりの事を守るだろう。

 もしかしたら警備隊のロイ隊長やその部下、皇子の護衛だったロッテルでさえも、ふたりの事を守るのかも知れない。

 それが・・・

 

「できません!」

 

 ユヨーの口からは不思議と今の自分の気持ちがすっと漏れた。

 

「母様、それはできません!」

 

 もう一度言ってみた。

 そうするとユヨーの胸に詰まっていたものが、すっと抜ける思いがした。

 なんて気持ちのいいのだろう。

 初めからこうすればよかった。

 ユヨーはそう思うが、エトワールはその逆の心境。


「・・・なんてことを!」

 

 エトワールの顔はどんどんと赤く染まり火山のようになる。

 

「なんて、莫迦な子なのっ!!! アナタは本当に救いようのない屑だったわ!」

 

 そして、感情が爆発した。

 エトワールは容赦のない侮蔑を実の娘に浴びせる。

 

「もういいわ。アナタは去りなさい。そして、もう二度と私の目の前にその姿を見せないで頂戴!」

 

 エトワールは最後にそう言うとユヨーに背を向け、そして、屋敷の中へ消えて行く。

 残されたユヨーは・・・こうして、本当に独りになってしまった。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ