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初めての死闘「オーク編」

すみません、投げたわけじゃないんです! ただちょっと外国の文化とか勉強してから書いたほうがいいかなって思っただけなんです!

「――ッ」


 ほんの数秒前、俺の前を不満げに歩いていた少女、シャーロット。

 先ほどまでのけだるい感じはどこへやら、彼女は、危機が迫っていることを悟るや否や、すぐさま臨戦態勢に入った。

 背中に差していた長剣を引き抜くと、すぐさま、異形の魔物に向かって構えた。


 先ほど彼女に助けられたときも、それを目にしてはいたが、改めて見ると、やはり長い県だった。

 銀色に輝く得物を握る少女は、教師という身分でありながら、女騎士のような、気品と威厳の両方を持っていた。


「なにボサッとしてるんですか!」


 少女は俺をにらむ。


「あなたも教師であるならば、村を守るために立ってください!」


 そんなこと言われても……!

 俺は後ろを振り返り、その魔物に臨む。

 シュルルと口の間から荒い息が漏れていた。


 ヤバい、あれ。

 殺る気の目だ。


「な、ななな、なに、あれ⁉」

「どこからどう見たって、人に危害を加える魔物でしょうに!」


 ですよねー。


「なに、あれ、倒すの?」

「当たり前でしょう!」


 シャーロットは、ふぬけた俺を一喝した。


「このまま野放しにしては、村に危害が加わるかもしれません!」

「ンなこと言ッ――」


 ドズン、と紅い巨人が地を踏みしめた。

 瞬間、俺の心臓が縮み上がった。

 腰が抜けて、まともに立てなくなる。


「……あっ、あ、あッ……!」


 ――幼少の頃から、何度か目にした、トロールと呼ばれた人型の魔物。

 俺はそいつら相手に、剣を振りかざし、魔法を唱え、次々と撃退した。

 ……が、それは、しょせん、ゲームの中での話だ。


 現実で戦うことになるなんて、考えるはずもない。


「――ああもう!」


 さきほどまで、どことなく俺を気遣っていたシャーロットも、どうやら俺を見捨てたようだった。

 この場に腰抜けなんていらない、それは、当の俺にだってよく分かったことだ。


「いいです! あなたはとっとと逃げてください! 村にこのことを伝えて!」

「き、君は⁉」

「私の心配をしている場合ですか⁉」


 そりゃそうなんだけど。

 言われたことは最もなんだけど。


 ――一方で、彼女の言葉に、すなおに「うん」とうなずけない俺がいた。


『グオオオオオオオオオオオオ‼』


 そんなことをしている間に、巨人は吠えた。

 周辺の木々をかきわけるようにへし折り、地を揺らすような騒々しさでシャーロットに向かって駆ける。


「――早いっ」


 シャーロットが目を開き、そう、短くつぶやいた。

 次の瞬間。


 シャーロットの体が、「く」の字に曲がった。

 かと思えば、彼女は俺のすぐ横を飛び去っていった。

 ありていに言えば、蹴とばされたのだ。


「――えっ」


 新体操選手もびっくりな一連の動きに、俺の脳は理解を放棄していた。

 ややあって、ゆっくりと状況が飲み込めて来る。

 SF映画もかくやというほどの異常事態が、そこで起こっていたのだ。


「シャーロット!」


 現状を悟ったとき、俺は、まっさきに彼女の名を呼んだ。

 常人なら死んでもおかしくない衝撃。

 しかしシャーロットは、当たり所がよかったのか、なんとか立ち上がることができた。

 ――決して浅くない傷を、抱えていたが。


「やりますね……」


 口元から血を垂らした彼女は、衣服に付いた土ぼこりを落とす。

 魔物はあふれ出る殺気を隠そうともせず、のそのそと、しかし着実にシャーロットを追い詰める。


 ――動かなきゃ。

 ――動いて、ヤツを止めなきゃ。


 頭では分かっている。

 ……が、体が動かない。

 無理からぬ話だ。

 いきなりわけのわからない世界に連れ込まれて、ほんの数十分後にはこんな事態だ。

 こんな状況下で、「なぜ動かないのか」と詰め寄られても、そんな無茶な、というのが本音だ。


 ――本音、だけど。


 俺の中に孕まれる、大きな疑問。

 本当に、動けないのか?

 このまま、少女を見殺しにしていいのか?


 魔物の強さがどれだけか知らないが、……シャーロットの実力がいかほどかも判別付かないが、それでも、少女の必死な表情から、けっして安易な戦いではないことが分かる。

 生き死にが関わっていることくらい、さすがの俺にも分かった。


「……まだ、そこにいるんですか……!」


 シャーロットは、自らの傷もかえりみず、俺に叫ぶ。


「あなたには期待してません! さっさと逃げて構わない!

 ……だけど、いや――だからこそ! 村の人たちを避難させてください!」

「んなこと言ったって……!」

「そんなことできないくらい、あなたは能無しなんですか! そんな意気地なしで子供を救えるとでも思ってんですか!


 あなたはこの村に、なにをしに来たんですか!」


 少女は必死に訴えるが、いまだに俺の脳は、混迷を極めたままだった。

 なにをしに来た?

 そんなの俺が聞きたい。

 少なくとも、こんな魔物と戦って死のうなんて、そんな大義は持ってないはずだ。


 ……。

 ……持ってない、はず、だけど……!

 だからといって。


「……ちょっと」


 シャーロットは、目を見開く。

 巨人も、俺の動きに気づいたようで、足を止め、体を俺の方へと向かせた。

 いざ相対してみると、その威容、圧迫感がひしひしと伝わる。

 ぶっちゃけ怖い。

 いまにも腰が砕けそうで、一目散に逃げだしたくなるほどの恐怖が、俺を苛む。

 ……けれど。

 逃げたくなかった。

 だって。


 目の前に、俺たちのために死のうとする少女がいたから。


 彼女を見殺しにするのは、もっと嫌だったから。

 だから、俺は。

 なぜか携行していた日本刀を、引き抜いた。


「……その武器は……!」


 シャーロットがなにやら驚愕しているが、正直なところ、俺もこの武器の詳細を知らないので、説明しようがない。

 なので、とりあえず思わせぶりに。


「……名も知れぬ刀だよ。振りがいいだけ」


 と、適当に答えておいた。

 シャーロットは、焦ったように叫んだ。


「あなた……アレと戦う気ですか⁉」

「なに、草刈りでもするように見える?」

「冗談言ってないで、早く逃げ――」


 ドズン、と巨人が足を踏み下ろした。

 魔物の動きが見えていた俺は、とっさに横に跳躍し、すんでのところでそれをかわす。


「――ッ」


 シャーロットも、四の五の言ってられない状況だと感じたようで、とりあえずは俺の応戦を受け入れてくれた。


「あなた、実践経験は⁉」

「ないけど!」

「言っときますけど、あれ、超A級の魔物ですよ! 初体験にはおススメしません!」

「俺だって!」


 魔物がゆっくりと右腕を振り上げる。

 振り下ろす速度は早い。

 俺は気合を込めて叫ぶ。


「あんなデカブツより、君みたいな子がよかった‼」


 斬‼

 振り下ろされた魔物の腕が、パックリと裂かれた。

 大きな拳の、人差し指と中指から、腕の肘あたりまでを、俺の振り上げた刀が這っていく。

 うわぁ……、グロ。

 と、思う暇もないまま、魔物は悲鳴をあげた。


『ビギャアアアアアアアアアアアアアアア‼』


 とんでもなく悲痛な叫びが聞こえた。

 ちょっと罪悪感が沸いてくるレベルの。

 しかし、さすがと言うべきか、戦い慣れしているシャーロットの行動は早かった。


「やるじゃない!」

「刀がいいから!」


 謙遜ではない、本音である。

 とんだ名刀を持っていたものだ。

 まるで裂けるチーズのようなありさまだった。

 見えたのは、黄色い酵母ではなく、赤黒い肉塊だったが。


 シャーロットは、自慢の細長い長剣を片手に、魔物の懐へと突っ込む。

 その眼は見開かれ、魔物の一挙手一投足を見逃さんと燃えていた。

 俺もそのあとを追おうと、魔物の動きを見定める。


 ――その、瞬間だった。

 ――脳内に、声が響き渡る。


 ……いや、それは、声と形容すべきものではない。

 なぜならそれは、言語ではなく、音の振動でもなかったからだ。

 酷く抽象的な、それでいてはっきりとしたメッセージであるような。


 一言で言えば、「思念」だった。


 「クイコロシテヤル」、という「思念(イメージ)」が、伝わったのだ。


 それに気づいた瞬間、俺は反射的に叫んだ。


「来る!」

「えっ⁉」


 俺の声に、シャーロットは反応する。

 しかし、間に合わない。

 右腕を裂かれ、決定打を失ったと思われた魔物は。

 想定外の反撃に出た。


『ゴヴォオオオオオオオオオオオオ‼』


 魔物の口に、光のようなエネルギーが集まる。

 危険だ、と俺の脳が叫んだ。

 とっさに、俺は、その光へと突っ込むように走る。

 シャーロットは、予期せぬ衝撃に、目がくらんだ。


 ゴアッ、という、空気の焼ける音がした。

 続いて飛来したのは、熱を帯びた光球。

 もしかしてこれは、いわゆる「魔法」というヤツではないのか?

 目の前の光景に目を疑いつつも、体は迷うことなく、それを対処せんと動いていた。


 シャーロットに向かって飛ぶ、巨大な光球。

 俺は、それを。


 斬り裂く。


 俺の持つ刀が、光球の中心に当たった。

 かと思ったら、光球は、どうやらエネルギーの支点を失ったようで、衝撃を伴いながら霧散した。

 シャーロットは、目の前で起こった特異な現象に、脳の理解が追い付いていなかった。

 赤い巨人も、まさか自分の反撃が打ち破られるなんて思っていなかったのか、そこからの追撃の素振りを見せていなかった。


 しかし、それすらも結果論だった。

 光球を斬った俺は、本能的に、前へと前進していた。

 魔物と肉薄し、あらん限りの力でもって、魔物の胴へ向けて振る。


 鮮血が迸った。

 遅れて内臓が、押し出されるように、体から続々と噴いてきた。


『ガ……ア……!』


 魔物は最後の抵抗を試みたが、それもむなしく。

 血の噴水と共に、ズシンと地面に崩れ落ちた。

 その様子を、俺とシャーロットは、共に茫然とした表情で眺めていた。

 事態は収束した。

 しかし、俺の脳内には「はてな」が渦巻いていた。

 全てが、俺の本能で解決していた。

 俺が、自分のやったことに驚愕していたところ、後ろからシャーロットに声をかけられた。


「……あなたは……いったい……」

「……」


 ……どうしよう。

 なんか説明求められんのかなあ。

 面倒だなあ。

 俺が訊きたいくらいだし。


 シャーロットからの追及が億劫になった俺は、適当にごまかすことにした。


「……はっ、俺はいったいなにを……⁉」

「ふざけないでください」


 逆効果だった。

 ドンマイ、俺。


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