04:出会ってしまう
株式会社アイディアルメイキングは主に、イベントやショップの内装美術のデザインをし、その施工までしている。
社会人一年目の私は、基本的には事務仕事だけど、時に今日みたいに営業のような外回りの仕事をしたり、リフォーム工になったり引っ越し業者みたいな過酷重労働もしますけど。
「イオリさん、先生を呼んできてくださる?」
私たちよりも先に来ていて、別の部屋で待機していたということか。この家は間違いなくそんな部屋の用意があるほどの豪邸なのだ。
川崎駅から電車で数駅行ったところに、"ブーゲンビリア"という小さめのマンション複合型の商業ビルがある。益見さんはそのビルのオーナーなのだ。即ち、かなりの富豪なので、当然のこと…。
「もう既に」
優しそうな笑顔のイオリさんの背中側から、ひょっこりと出てきたのは、体型は小柄で、ピンクベースで毛先からパープルのグラデーションの髪色でツインテール。パワーストーンをネックレスやピアスやブレスレットとしてあちらこちらに装飾して、派手な女の子が現れる。
「うらうらぁ、アイディアルの皆様方、お世話になりますです〜」
おっ……、う、うらうら?…なんて身構えてしまった、これ、ツっこむべきやつか……?関西人なら、ツッコむのかな……。どう反応していいかたまらず、隣の先輩を横目でチラリと除く。
「え、今なんて?」
物珍しいものを見たような表情をしている気がする。どうやら聞き間違えの可能性を考慮したらしい。
「ツカサは、皐月堂 阜と言いますですぅ〜」
甘ったるい甲高い雰囲気の声色で、ゆっくりとした話し方。ふわふわの重ためのツインテールにリボンが巻き付けられており、秋葉原とかのコンカフェにいそうな感じの女の子……コンカフェ行ったことないけど。とにかくの印象として、わ、若い……!"益見さん先生"の占い師だと言うのだから、益見さん以上のマダムなのだろうという思い込みの先入観が、脳内にあったのか、ギャップに驚いてしまった。
「こ・ち・ら・が、アタクシがお世話になってるツカサ大先生なのよォ〜ん!もう先生無しではアタクシは何も決められないぐらい!」
これ、大丈夫なやつか!?騙されてるやつじゃないのか?!しかし、先輩は気にとめない様子で資料と彼女を真剣な表情で視線を交互に見つめていた。……なんで?!
「んふふふふっ、人間を人間たらしめるものはやはり、"愛"だと、ツカサは思うんですよねぇ」
突然、何?!どうかした?!……なんて、仕事での関係じゃなければ、私は絶対にそうツッコミを入れてしまってそうだった。
「思うてたんより随分と可愛らしいセンセェなんやね、益見さんが大先生ぇ言うから、更にもっと人生経験豊富な人が来はるのかな思ってしまってたわ。自分アイディアルの三基言います、よろしくお願いします」
微笑むように先輩は名刺を差し出した。乗じて「同じく大狭です」と慌てて名刺を出す。
彼女は丁寧にそれを受け取り、「お世話になりますです」と、反射的に私たちに名刺を差し出す。
「わかり易く手っ取り早くツカサを呼称するならば、"占い師"やっておりますですよ」
腕を組んで右手で顎を掴み、私と茉麻先輩の顔を交互に見る。そして彼女の見定めた視線は茉麻先輩で停止した。
「うまぁー!"こっち"の関西ボーダーコリーボーイは、随分センチメンタルでいらっしゃるっ……!うかぁ〜!なるほど、なるほどです」
独りでに残念がるような、そんなテンションだ。
「ンマァ!?そうなのォ!?茉麻クン、気をつけたほうがいいよぉ」
益見さんが傍らで立ったまま見ていた事に今気づいた。慌てて「良かったらご一緒に」と、空いていたソファの席を指し示すが、「いいのいいの!」と益見さんは座らなかった。
「そぉなんすか」
茉麻先輩は、彼女のテンションに困惑して、きっと顔を引き攣らせているに違いない私とは反対に、口元に拳にした右手を前に、フフっと笑ってる。邪な気持ちが全く無さそうな、昨日、居酒屋の別れ際に見た表情と同じ、眉毛を八の字にした優しい笑顔だった。
「センセェには俺がどんな風に見えてんねやろ?気になるわぁ。よかったら今度見てくださいね。まずは快適な占いができるよぉに、環境作りを僕らがサポートさせて頂きますね」
「よろよろしくしくです!」
テーブルに頭をぶつけるような勢いと深さで、上半身ごと頭をぺこっと下げた。……ってか、サツキさん?ツカサさん?やばい、さっき聞いたのに見た目のいもう忘れた…どっちが名前だったっけ。
「お店作りの前に、今回ツカサがお店を出させてもらえる条件があること、うっかり言い忘れてたです」
あぁツカサさんだった。一人称が自分の名前のタイプで助かった。
「伺ってます、ドラマの件ですよね」
今回の依頼の打ち合わせは、益見さんはアイディアル・メイキング(うちの会社)の大お得意様でもあって、私たちは事前に依頼内容は既に大凡聞いていた。
「ツカサはずっと自分のナワバリを持つのがうりゃぁ〜ユメでした。だけれど資金がないです。益見サンが破格で場所を提供してくれるオハナシを出してくださった事も感謝カンゲキ飴だらけだったんですけども、それでもツカサにはお金がないのです。なのでツカサはお願いをしました」
話を聴き入りながら思わず、視線は彼女に向けたまま出された紅茶を口にする。
「映画のロケ現場として貸し出す代わりに、ツカサの占い屋さんの資金を援助してくださいなって」
ーーーーーーーー
「あっかん、あの子の言うてることぜんっぜん頭に入ってこぉへんかった、話聞いとったやんな?」
益見さん邸宅を失礼し、駐車場に戻ってきて、茉麻先輩と車に乗り込み、シートベルトとカチャカチャと締めながら先輩はそう告げた。
「えっ!?は?!理解してたフリしてたってことですか?!」
「あの子の喋り方、何処の方言なんやろー……解読するのに、脳のキャパ埋まってしもた、大峡ちゃん、俺の代わりに聞いてたやんな?」
「先輩マルチタスク苦手そうですもんね、漫画読んでる時に話しかけられたら聞こえたないタイプでしょ」
「んなぁことないよ」
カーナビを操作しながら軽い返事をするところがもう同時に同じことを思考できない人のソレじゃないか、なんて勝手に思う。先輩は、行きとは違って、慣れた手つきで、素早くカーナビを操作し、会社の住所を設定していた。「到着予定時刻は16時47分です」とカーナビが告げる。
「大峡ちゃんのこと、信頼してるっちゅーことやんか」
「同じ会社と言えど先輩と一緒に仕事するの今日が初めてですよね、会話したのも、昨日の居酒屋が初めて」
「…………なんかさ、"大峡ちゃん"って呼んだらさ、"オバチャン"みたいで嫌やんな?特に俺、京都弁やし、余計に」
「別に、この苗字で24年生きてますから慣れてますよ。全然気にしないでください」
「……そんなもんか、そんじゃ、車出すで、シートベルト締めてな」
「……お気遣い、どーもです」
ーーーしばらく車を走らせたところの信号待ちで、カッ、カッ、とウィンカーの音が響く。こういう気まずい時は後輩から話しかけるべきなんだろうか。だけど、先輩と話せる話題のネタが無い。カーステレオのfm yokohamaは、知らない俳優だかが映画の宣伝をしていた。
ーーー『人ってモンは、突然出会ってしまうものなのですよ。意図してなくても、意図していてもね。また今度ゆうっくり、見させてくださいねェ、ポメラニアンみ溢れる大狭響希サンっ』
打ち合わせを終えて、玄関先でツカサさんに突然そんな事を言われた。ポメラニアンがなんなのかは置いておいて、その言葉で私は、クソお兄の事を思い出したんだ。
……意図しなくても、出会ってしまう、ねぇ。
「びぃちゃん」
「…………は…い?」
「……って、どない?」
「え?」
「愛嬌あって、ええんやない?嫌?」
まさか、この人、無言で運転してる間、ずっと私のあだ名考えてたって事?!
「嫌いな兄にそう呼ばれてるんで、嫌です」
「えぇ〜っ!?ほんまに?けっこーかわいい思たんやけどなぁ……残念……」
「いや、大狭って呼んでくださいよ」
「ん〜、また良いの思いついたら伝えるわぁ」
「あの、先輩ってもしかして、全然人の話聞いてないタイプですか?」
「そんな事ないよぉ」




