謹賀新年
時間とはあっという間に過ぎてゆくものである。今日はもう、大晦日である。
「新年を、皆で迎えようと言う気持ちは、俺にも分かる。だが、何でそれが俺んちなんだよ」
少年は怒っていた。少女と二人だけで、新年を迎えたかったのである。
「いいじゃぁん。あんたっちって、ゲストルームもたくさんあるし、うるさい親もいないから、最適なんだよ」
こう答えたのは、少女の友人である、由香里であった。
「お前、親に内緒で、何するつもりだったんだよ」
「べっつにぃ。大晦日を友達と過ごして、新年を皆で祝う。そして、初日の出を見るのだぁ」
由香里はおくめんもなく応えた。
「で、他の連中はどうしてここにいるんだ?」
少年は、他のメンバーにも訊いた。
「由香里ちゃんと志乃さんは、わたしのお友達だから。いいでしょう、博くん」
これは少女である。周りの皆は、少年が少女に全く頭の上がらないことは、周知の事実であった。それで、少年に厄介事を頼むのは、少女を通すのが定石となっていた。
「そ、そうか。なら仕方がないな。で、そっちの二人はどうしてなんだ?」
少年は、ちゃっかりこたつに入ってみかんを食べでいる、間野と天野に尋ねた。
「わたくしは、生美さんがおせちを作るというので、手伝いに来ましたのよ」
天野朱里は平然としてそう応えた。
「僕は、女の子ばっかりだと、不用心だろうと思ってね。それに、力仕事があったら、男手が有る方が重宝するでしょう」
間野も、一見理屈が通っているような通っていないような、理由を述べた。
「ああ、そうかい。ご大層な理由だな。なら、今から力仕事するか?」
少年はのほほんとしている間野に話しかけた。
「え〜と、力仕事って、……何?」
「新年を迎えるにあたって、足りないものがある」
少年はそう応えた。
「足りないものって? それ何」
「決まってるだろう。餅だ」
「餅?」
「そう餅だ。今からつくか」
「……。マジっすか」
「マジだ。生美、きなどり出来るか?」
少年は少女に少問いかけた。
「わたしのうちも、2〜3年前まではお餅つきしていたから、少しは出来るよ」
少女の返事に、少年は満足そうに頷くと、
「これで問題はなくなった。後は間野が豪腕を振るうだけだな。頑張ってくれよ」
「え? 僕がつくの」
「力仕事だが、当然やってくれるんだろうな」
少年の言葉が追い打ちをかけた。
一方、女子達は、
「わぁ、餅つきなんて初めて。間野くん頑張って!」
「あたしも、お餅つき見たい」
いきなりのリクエストに、間野は戸惑っていた。
「阿久津くん、いきなり餅つきやるったて、臼とか杵とか、もち米とか、色々と必要だよ」
「問題ない。全部揃っている」
少年は事も無げにそう答えると、ボケットからリモコンのスイッチを出して、操作をした。すると、低いうなり音がして、キッチンの横の壁がスライドして、杵や臼、セイロなどが揃っている棚が表れた。
「餅米もここに有る。後は蒸かしてつけばいい。問題なしだ」
少年の行動に間野は、
「はぁー、そうゆう事ね。しようがない。力仕事、頑張ります」
と、諦めたような返事をした。少年は、悪魔のような笑みを浮かべると、
「ところで、天野は、餅米の蒸かし方とか、知っているか? 知ってるよな。当然だよな。お前に分からない事なんて、あるはずないよなぁ」
と、天野朱里を問い正した。すると、天野は、少し奥したものの、こう言い返してきた。
「と、当然ですわ。わたくしに分からないことなどありません。生美さん、皆さん、わたくしがお教えしますから、皆で美味しいお餅を作りましょう」
と、率先して餅つきの準備を始めたのである。
少年に挑まれたのには良い気分ではないが、少女や他の女子に良い所を見せたかったのだろう。売り言葉に買い言葉である。
(クックックッ、これで、俺のやる事の手間が省ける。ざまぁ見ろ)
と、少年は心の中でほくそ笑んでいた。
餅つきは、少女と天野以外は、初めての体験であった。少年もやり方その物は知ってるが、実際には体験したことが無かった。幼少時は、海外を渡り歩いたので、日本の正月などはあまりよくは知らなかったのである。
にしては、事は順調に運んだ。天野の指導もあったが、少女が様々な事をテキパキとこなしたからだった。
「お湯もっといっぱい沸かして。セイロを冷やしたらダメだからね。ガンガンに沸騰させるの。臼にもお湯を張って。温めておかないといけないから」
「上のセイロから、蒸気が出てきたら、頃合いですの。熱いからお気を付けて」
少女と天野が中心になって、餅米を蒸すところまでは順調だった。
「では、行きますわよ。臼の方は準備出来てらして?」
「だ、大丈夫、……かな?」
間野の方はおっかなびっくりであった。
「おい、そんなへっぴり腰でどうすんだよ。貸してみろ」
少年は、杵を取り上げると、合図をした。
「こっちはいいぞ。餅米を持ってこい」
「いちいち、命令口調は失礼ですのよ。では、参りますわよ」
天野は餅米の入ったセイロを急いで持ってくると、臼に入れた。少女は、少年の傍らで、きなどりの準備をしていた。
「まずはこうやって、餅米を練って潰すんだ。いきなりつくと飛び散るからな。よーし、このぐらいだろう。やるぞ生美」
「任せて」
こうやって、少年と少女で、餅つきが始まった。
一回やってしまえば、後は慣れである。二回目は間野も杵を手にした。
少年たちは、餅をついては、出来た餅を、小餅に丸めていった。
「これで、鏡餅をとって、終わりにするぞ」
そうして、夕方頃、餅つきが終わったのである。
「あー、終わった。何か楽しかったね」
「つきたてを、砂糖醤油で食べるのも、いいね」
「お前、もう食ったのかよ。明日、雑煮にするんだぞ」
「博くん、ちょっとくらい、良いんじゃないかなぁ」
「まぁ、だいぶついたからな。ちょっとだけだぞ」
「わぁい。家主の許可がとれたぞ。あたしも食べようっと」
少女の友人達も、つきたての餅に、きな粉や、醤油をかけて、つまみ食いをしていた。
「餅つきなんて、力仕事が来るとは思いもよらなかったよ。僕は腰がイタイ」
間野は、そう言いながら腰をさすっていた。
夕食は、少女が作ってきた、おでんだった。
「これだと、煮含めるだけでいいし、片手間に作れるからね」
と、言うのが少女の言い分である。
「年越しそばも出来たよ。皆、熱いから気を付けてね」
と、おでんとそばで、阿久津家の大晦日は暮れて行った。
そして、0時を回る頃、集まった友人達のほとんどが眠りこけていた。昼間の餅つきで疲れたのだろう。
「おいこら、年越すぞ。って、皆、寝ちまって。しようが無いなぁ。生美、奥から毛布持ってきてくれよ。床暖房だから、かけるだけでいいぞ」
「ふぅぁい。わたしも、なんか眠いや」
そう言いながらも、少女は、奥のクローゼットから毛布や座布団を引っ張り出すと、眠っている友人達に、かけて行った。
「おい、生美、あと30秒だぞ。カウントダウンだ」
「うん、博くん」
少年と少女は、手を取り合って、時計の秒針を眺めていた。
『3・2・1、あけましておめでとう』
二人は口を揃えて、新年の到来を祝ったのである。傍らには、二人を囲むように、友人達が眠っていた。まるで、この記念すべき時間を、二人に与えるように。
こうして、元旦を迎え、人類は、取り敢えずこの一年を無事に越すことが出来たのだった。




