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エステ

AI利用小説です。

設定は昔からのアイディア帳からです。

『廻天』


第一話 エステティシャン


「痛かったら言ってくださいね」


「はい」


午後三時。


予約、六十分。


肩・首を中心に。


カイはベッドに横たわる客の背中へ手を置いた。


「……。」


硬い。


肩甲骨の内側。


首。


右肩。


それから――


「ここ、結構つらくないですか?」


「あ、そこ! そこです!」


「ですよね」


親指を入れる。


ゆっくり。


力をかける。


「いたたた……でも気持ちいい……」


「痛かったら言ってください」


「大丈夫です」


カイ。


黙る。


手のひらから伝わってくる。


筋肉の硬さ。


熱。


呼吸。


脈。


そして。


その奥にある――


何か。


カイには昔から、それが分かった。


説明しろと言われても困る。


学校で習ったわけでもない。


資格の勉強をして覚えたわけでもない。


ただ。


触れば分かる。


どこが。


どう。


詰まっているのか。


「……ここか」


「え?」


「あ、何でもないです」


指。


少しずらす。


押す。


客の身体から力が抜けた。


「はぁぁ……」


カイ。


小さく笑う。


「だいぶ張ってましたね」


「カイさん、本当に上手ですよね」


「そうですか?」


「どうやったらそんなピンポイントで分かるんですか?」


「なんとなく」


「またそれ」


笑われた。


カイ自身。


本当にそれ以上の説明ができない。


なんとなく。


分かる。


ただ、それだけだった。


⸻


六十分後。


「ありがとうございました」


「めちゃくちゃ軽くなりました!」


「水分とってくださいね」


客を見送る。


ドア。


閉まる。


カイ。


「ふぅ」


椅子へ座る。


次の予約まで三十分。


スマホを見る。


特に連絡なし。


冷蔵庫。


開ける。


水。


飲む。


静かな店内。


いつも通り。


平和。


カイはこの時間が好きだった。


戦いなんて知らない。


世界の危機も知らない。


自分が特別だとも思っていない。


明日の予約が埋まっている方が大事だった。


その時。


『下手だな。』


「……。」


カイ。


水を飲む。


『今の客。右肩ではない。』


「……。」


無視。


『原因は左の腰だ。』


「……。」


無視。


『右をいくら触っても戻る。』


カイ。


ペットボトルを置いた。


「うるさい」


静寂。


一拍。


『事実だ。』


「仕事中に話しかけんなって言ってるじゃん」


『今は仕事中ではない。』


「細かいな」


カイは鏡を見る。


当然。


自分しか映っていない。


もう慣れた。


最初は。


怖かった。


自分の頭の中から。


知らない男の声がした。


病院にも行った。


検査もした。


異常なし。


寝ても。


起きても。


そいつはいた。


名前を聞いた。


返ってきた答えは。


シュウ。


それだけ。


何者なのか。


どこから来たのか。


何故カイの中にいるのか。


本人も。


よく分かっていなかった。


分かっていることは。


一つ。


『あと。』


「何。」


『圧が弱い。』


「お前エステティシャンじゃないだろ」


沈黙。


カイ。


勝ったと思った。


『編み物ならしていた。』


「関係ねぇだろ」


『指先は重要だ。』


「絶対関係ない。」


⸻


夜。


営業終了。


カイは店を出た。


「寒っ」


コート。


ポケット。


手を入れる。


駅まで徒歩十五分。


コンビニ寄る。


飯買う。


帰る。


風呂。


寝る。


明日。


朝十時から予約。


普通。


いつもの一日。


だった。


交差点。


赤信号。


カイは止まった。


「……。」


向かい側。


一人の男。


立っている。


黒いコート。


それだけなら。


何もおかしくない。


ただ。


男は。


カイを見ていた。


ずっと。


「……誰。」


『カイ。』


シュウ。


声。


いつもと違う。


低い。


「何。」


『走れ。』


「え?」


信号。


青。


人々が歩き出す。


男。


動かない。


カイ。


立ったまま。


「知り合い?」


『違う。』


「じゃあ――」


『走れ!!』


初めてだった。


シュウが。


叫んだ。


瞬間。


男。


消えた。


「――え?」


目の前。


いた。


カイの腹。


何か。


触れる。


次の瞬間。


ドンッ!!


「――ッ!!」


身体が浮いた。


景色が回る。


背中。


壁。


激突。


「がっ……!」


息。


できない。


何が起きた。


分からない。


ただ。


痛い。


めちゃくちゃ。


痛い。


カイ。


崩れ落ちる。


「……なに……」


男。


歩いてくる。


周囲の人間。


誰もこちらを見ない。


いや。


違う。


見えていない。


「見つけた」


男が言った。


カイ。


顔を上げる。


「……誰だよ」


男。


笑う。


「試験体《カイ》。」


「……?」


その言葉。


知らない。


はずなのに。


胸の奥。


何かが。


跳ねた。


ドクン。


『立て。』


シュウ。


「無理……」


『死ぬぞ。』


「……。」


男。


手。


上げる。


カイ。


逃げようとする。


脚。


動かない。


怖い。


意味が分からない。


何で。


俺が。


男の手から。


黒い何かが溢れる。


カイ。


目。


見開く。


その時だった。


シュウが言った。


『カイ。』


「……何。」


『身体を貸せ。』


「は?」


『俺がやる。』


黒。


迫る。


カイ。


考える時間。


ない。


「どうやって!」


『知らん。』


「お前も知らねぇの!?」


『初めてだからな。』


「ふざけ――」


黒。


カイを飲み込む。


そして。


意識が。


落ちた。


⸻


静寂。


男。


黒い塊を見る。


「……終わりか」


その時。


中から。


手。


出る。


黒を。


掴む。


男。


「……?」


黒い力が。


ゆっくり。


ねじれる。


まるで。


一本の糸を。


指へ巻きつけるように。


ほどけていく。


一歩。


カイが出てきた。


だが。


目が違う。


立ち方が違う。


呼吸が違う。


男。


一歩。


下がる。


「……誰だ」


カイの姿をした男。


自分の手を見る。


握る。


開く。


首を回す。


そして。


困ったように言った。


「……身体、硬いな。」


男。


「は?」


シュウ。


肩を回す。


「こいつ、ちゃんとストレッチしてるのか?」


カイの意識。


遠い場所。


その声だけを聞いていた。


『……。』


そして。


思った。


お前。


今それ?


――第一話・了

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