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第48話 『図書館』という場所

「『図書館』に行かれますの? 経緯はともかく、息抜きには良いですわね♪」

「ーー、ーーー」

「えぇ、うらやましいですわ!」

「帰ってきたらお話をお聞かせくださいませ!」

「ーー♪」


 噴水のある中庭。


 チェリはダリアと他の王女たちとでお茶の時間を楽しんでいた。

 最近、チェリは午前中にマナーや教養に関する授業を受けるのが習慣になり、その中でも仲の良い王女たちと休憩を共にすることが多くなっていた。



「でも、急に明日の朝に出発なんて……よほど、嫌な殿方ですのね」

「そのサーセンデス家の公爵子息というのはどんな方ですの?」

「ーーー……」


 チェリは脚色も偏見も無しに、村であったことをありのままに話した。すると、ダリアをはじめ王女たちの顔色がみるみる変わっていく。


「さ……最低ですわっ!!」

「無礼にもほどがあるのではなくて!?」

「いくら『魔人』でも、この王族への横暴を許すわけにはまいりませんわっ!!」

「皆さま、どうか落ち着いて…………あぁ……でも、アロ様とボウガ様がいらっしゃらなければ、大変な自体になっていたかもしれませんわね」


 結論として、話を聞いた王女たちは「ハゼロ・クーズ・サーセンデスは女の敵!」と決めたようだ。まだ入城前なのにハゼロの評価は最底辺になった。



「確かに【祭典】も始まっていない時に、そんな方と顔を合わせるのもおぞましい。『図書館』に一時避難して対策を練るのは良い考えですわ」

「ーーー?」

「わたくしたちは大丈夫。それにチェリ様たちが帰られる頃には、他にも多くの来場者が居ります。サーセンデス公子も、他の目がある所では手出しはしずらいはず。どうか、皆さまもお気を付けください」

「「「はい!」」」


 ダリアがにっこりと微笑むと、他の王女たちも彼女に賛同する。やはりここで頼りになるのはダリアだ。


 ここ最近の授業も、普段王宮に居なかったチェリの他の王族との教育の格差を埋めようとしたもの。週間になっているお茶の時間だって、流行りや政治の話題を増やそうとダリアが企画したのだ。


 それはチェリもちゃんと解っていて、いつもありがたいと思っている。



 《図書館から戻ったら、また勉強を見てくださいますか?》

「もちろん。帰っていらしたら、また【祭典】に向けての準備と勉強にお付き合いいたしますわ。それにこれは、わたくしたちのためでもあります。ねぇ、皆さま」

「えぇ、もちろん!」

「私たちも勉強になりますもの」


 明らかにチェリのためになることだが、他の貴族出身の王女たちも【盟友の祭典】前に振る舞いを見直していた。


「安心していってらしてくださいませ。わたくしたちはチェリ様のお話を楽しみにお待ちしております」

 《皆さま、ありがとうございます》


 ――――“自分は周りの人間に恵まれた”


 チェリはじんわりと心地よい気分になった。




 …………………………

 ………………



 翌日の早朝。まだ城の門が開放される前である。

 ボウガは兄妹と一緒に、森の中の白いレンガの路を走る馬車に乗っていた。



「そういえば、アンクスは来なくて良かったのか?」

「『図書館』は柄じゃねぇって。活字見ると頭痛くなるって言うし、バグナが来るかもしれないから留守番するんだと」

「……確かにそうかも」


 見た目通りというか、確かにアンクスが『図書館』で大人しくしている光景が想像できない。まだ、騎士団で身体を動かしている方が彼に合っていそうだ。

 目的地の『図書館』も王宮騎士団の警備の管轄に入っているというし、何かあったら直接連絡をくれると言われた。






 出発して一時間。

 馬車は静かに進んでいく。


「………………」


 ボウガが黙って窓の外を眺めていると、白いレンガの路は暗い森の奥へと続いていた。


「そういえば、その『図書館』ってあとどのくらいで着くの?」

「んー、馬車でもう一時間くらいかな」

「結構遠いな……」


 王都に着いてから初めて王宮を留守にする。このひと月近くは王宮でほとんどの用事が足りていたので、敢えて外出などは考えたことがなかった。

 だから久しぶりの馬車の揺れがちょっと辛い。



「本当なら、王宮にある『移転魔法陣(ポータル)』っていうので行けば一瞬なんだけどな。『図書館』に初めて行く人間は、物理的に移動して来いって決まりなんだよ。一応お前は初めてかもしれないから、馬車で移動してきたってことだ」

「なんで、最初は直接行くの?」

「さぁ? でも、これは『図書館』の規則なんだ。どんな王侯貴族でも『図書館』の規則には従ってもらうようになってる」

「ふ〜ん……」


 また【精霊族(スプライト)】独特の風習だろう。魔法絡みのことは、魔法を使わない人間には理屈が理解しずらい。特に【精霊族(スプライト)】はその順序ややり方を重視する。


 別に嫌な訳ではないのだが、王宮でもボウガは度々「???」となることが多い。


「今回だけだ。次からは楽に行けるから、【祭典】が終わって記憶の治療を始める時とかはポータル移動で一瞬だ」

「図書館に医療施設……?」


 図書館は図書館であり、本を読みに行くところではないのか?


 今の今までボウガは特に考えていなかったが、何だか自分が考えている図書館とアロの言っている『図書館』が別物に思えてきた。



 ………………




 馬車がさらに進んだ時、暗い森が急に終わって視界が開けた。


 光が射し込む遠くの景色に、城のように大きな建物のシルエットが見える。

 しかし、ボウガが驚いたのはその手前だった。


「え…………町がある?」


 白いレンガの路を挟むように、簡易的な軒が付いた店が連なっていたのだ。まるで市場の通りのようだ。

 その奥も小さな公園があったり、旅の間に見たキャンプ場と同じ水場や煮炊きができる広場があるのも確認できる。


「ここはまだ『図書館』の敷地の外だ。違法ではない範囲で勝手に店を出したり、野営をしていたりする奴が多いな」

「……この先、あるのは図書館だけだよな?」

「ーー♪」


 ボウガは驚きながら外を見ているが、アロとチェリは当たり前のように頷きながら答える。


「あぁ。ここにいるのは『図書館』の宿泊施設を取れなかった人間だな。ま、あそこも部屋に限りはあるし、滞在が長いと宿泊代も馬鹿にならないからなぁ。テントだけでも張れれば少しは……」

「………………」


 ボウガは思わず顔を顰めてしまう。


 “図書館は本を読んだり勉強する所”


 やはり、ボウガの認識では図書館はそれだけの役割りだ。それが、先程から『医療施設』『市場』『キャンプ場』『宿泊施設』など、まるで大きな町のような単語がポンポン出てくるのだ。


「オレ、記憶は無いけど……図書館ってそんなんだっけ……?」

「ぶっ!?」

「ーー♡」

「なっ……!?」


 軽く混乱し始めたボウガを、アロとチェリが可笑しそうに見ている。二人が笑うのでボウガはちょっと恥ずかしい。


「あはははっ! 悪ぃ悪ぃ、別にお前の記憶とか関係ない。ここはちょっと特別なだけだ」

「着けばわかる?」

「うんうん。初めは俺たちも驚いたんだ。な?」

「ーー♪」


 まだよく分かってはいなかったが、二人の言う通り見てみなければ納得できないだろう。


 ――――そういえば、オレたちは図書館に一週間くらい滞在するって言ってたよな……?


 落ち着いて考えてみれば、生活ができるそれなりの設備が充実しているから滞在ができるのだ。



 そうこうしてるうちに、馬車は黒い蔦のような飾りの門を抜ける。馬車は門のすぐ脇の側道に静かに停車した。


「着きました。こちらからは降りて歩いていただきます」


 三人が降りると獣人の御者が書類を差し出してきた。アロがそれにサインをすると、ペコリと頭を下げて別の通路へと曲がって消えていった。宿泊用の荷物はあちらから運んでくれるようだ。


「さぁて、やっと着いたな!」

「ーー!」


 三人が立っているのは、先程のレンガの路よりも道幅が三倍はある石畳の道。

 その道のだいたい200mくらい先に、まるでちょっとした城サイズの建物が存在していた。



 見る限りは5階建ての巨大な白っぽい屋敷。

 貴族などの建物に比べると華美な装飾は少ないように思える。しかし、要所要所に散りばめられた細工はどれも技物でとても美しい。


 建てた年代は決して新しくはなさそうなものの、古臭いという印象はどこにもない。


「ここは『イシュタル国立図書館』。歴史もあって、『カルタロック』が建国された時には建ってたとか言われてるけど…………とにかく、デカくて古い図書館だ!」

「確かに……大きい図書館だね」


 まだそんな近くに行っていないのに、建物を見上げると圧倒されそうになる。


 ――――これが『図書館』かぁ…………うわ、何か凄すぎてちょっと感動するかも……


 何故か、建物を見ただけで神々しい気持ちになってしまった。


「………………」

「……ーーー?」

「へ? あ、だ……大丈夫だ」


 ぼんやりと建物を見詰めていたら、チェリが心配して服の裾を引っ張っている。ボウガはすぐに平気だと返事を返す。


 ――――何かを思い出しそうな気がしたけど、気のせいだよな……?


 やはり何故か、この建物に気持ちが持っていかれそうになる。再びぼんやりしてしまい、後ろからアロに軽く小突かれた。


「ほらほら、突っ立ってないで入るぞ。最初に『館長』に挨拶しておきたいんだ」

「あ、うん。ごめん……」

「ーー、ーー」


 広場のような道には、ボウガたち以外にも人が大勢歩いていた。

 最近は見慣れた『エルフ』や『獣人』の他にも、『魔人』や王都ではあまり見ない『人種』もいる。もちろん、ボウガと同じ【クリア】も見掛けた。


「色々な人がたくさんいる……」

「ここは【種族】や『人種』、身分に関係なく利用している。逆に言えば、ここではどんな身分の奴も対等に扱われるんだ」

「どんな人間も……」

「もしも、サーセンデスの野郎が追っ掛けてきても、ここでは『館長』の決めた“ルール”が絶対の権限を持ってるから少しは安心できる」

「『館長』さんって、もちろん【精霊族(スプライト)】だよね?」


精霊族(スプライト)】の国の『国立図書館』なのだから、同じ種族が『館長』をしていると考えるのが当たり前だ。



「そう、今の館長も『エルフ』だ。でも俺たちは『前の館長』しか会ったことない。前回の【祭典】……つまり五年前な」


 目の前に図書館の大扉が見えた。扉は開け放たれていて、巨大なエントランスホールにはたくさんの人が行き交っていた。


「まずは、あそこの受け付けで通してもらおう」


 エントランスホールの中央奥には、大きな受け付けのカウンターがある。

 歴史ある図書館らしく、重厚で深みのある木のカウンターテーブルが3メートルくらいの幅で置かれていた。


「ようこそ『イシュタル国立図書館』へ! ご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


 図書館の受け付けにしては、ちょっと元気の良い『猫耳獣人』の若い女性が対応する。


「今日、ここの『館長』と面会の約束をしている者だ。“アロとチェリが来た”と伝えてほしい」

「はい! アロ様とチェリ様ですね! えぇ〜と………………えっ!? 王族の方っ!?」


 カウンター下で何かのファイルを見た猫耳の女性は、アロとチェリの顔を交互に見て瞳をキラキラさせている。


「うわぁ〜! 私、王族のご案内初めてですぅ〜!!」


 一応は弁えているのか、そんなに大声ではないが興奮する猫耳女性。どうやら、二人が王子王女であることに感動している様子。彼女の耳と後ろのしっぽがピーンと真っ直ぐ上を向いている。


「アロ…………身分、関係ある?」

「個人差」

「うん……」


 少し呆れ気味のボウガの問いに、アロとチェリもちょっと苦笑いをしていた。


 その時、猫耳女性を隣りのエルフ女性が小突く。


「ダメよ、アスターちゃん。どんな方でも受け付けは毅然として……!」

「はっ! はい、すみませんフローラ先輩っ……!」

「申し訳ごさいません。今、この者がご案内致しますので、このまま少々お待ちください」


 二人の受け付け女性がこちゃこちゃと話した後、エルフ女性が三人にペコリと頭を下げる。




「で、ではっ、ご案内致しますので、こちらへどうぞっ!」


 声を上ずらせ、猫耳女性は三人を会議室と書かれた部屋へ通す。本棚などは特になく、城の客室とは違う質素なテーブルとイスが置かれた小じんまりした部屋だ。


「今から館長を呼んで参りますので、ここでお待ちいただけますでしょーか?」

「うん、お願いする」

「はいっ! 少々お待ちくださいっ!」


 猫耳女性はピューっと小走りで部屋を出ていった。




 わずか数分後、すぐ近くの廊下にカツカツと急ぎ足の音が響いた。


 コンコン。

 ノックから一呼吸置いて、ドアが静かに開かれる。


「失礼します。お待たせ致しました」


 全然待っていない三人の前に、古めかしい落ち着いた色のローブを着た人物が現れた。服装だけ見れば年配者だと間違えそうになる。


 その人物は入るなりすぐに深々と頭を下げ、顔を上げたと同時に三人向き合った。


 その顔はボウガよりも少し歳上の『エルフ』の若者だったが、何故か雰囲気と容姿に()()()()()を覚える。


「初めてご挨拶申し上げます。私はこの図書館の館長をしています。『アテュス・バングル』といいます」


 想像以上に若い『館長』に、三人は挨拶を返すまで数秒掛かった。





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館長キターーー!!!!(大歓喜)
アレアレ? 受付嬢、お薬だいすき・ヤクーザくん、のお嬢さんかな?
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