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第33話 強運と不運

「……やっと行ったな。俺たちも移動しよう」


 馬車の行った先と街道の端に寄せられた鎧の残骸を見ながら、アロが疲れたように言う。

 だが、そんなアロを見てボウガは首を傾げた。


「でもあのクロスって子、そんなに悪い人間には見えなかったけど……?」


 悪い例を見ているから尚のこと、クロスは【クリア】であるボウガや『リザードマン』の二人にも礼を言い、丁寧に握手までしていった。


「確かに悪そうには見えなかった。でも、()()()()()を隠せる奴も多いのが【魔神族(ジーニー)】の『魔人』だ。貴族の子供なら裏で物事を考えているのが当たり前。そうじゃなきゃ、跡取りの多いって言われる『魔人』の貴族は生き残れないだろうな」

「なんか、それも大変だな……」


 警戒よりも少しだけ同情の念が湧く。

 やはり【魔神族(ジーニー)】といえど、その中のルールに従って懸命に生きるのは他の『人間』でも同じこと。彼らにも他とは違う厳しい“掟”もあるのかもしれない。


 ――――そうなると、前に来たサーセンなんとかいうのは比較的平和だったのかな? あんまり考えてなさそうだったし……。



 ぼんやりと失礼なことを思っていると、バグナがため息をついてボウガの肩を叩いた。


「簡単に良い奴とか思うなよ。もしかしたら今頃、おれらと握手した手をハンカチで()()()たりするかもしれねぇんだから」

「うわ、怖ぇー!」


 バグナとアンクスも【魔神族(ジーニー)】にはいい思い出が無い。


 ――――みんな、【魔神族(ジーニー)】に敵対や警戒の気持ちがある。でも、全員嫌な奴じゃないよな……?


 ボウガが複雑な気持ちで立っていると、チェリが服の裾を引っ張る。


 《ボウガはクロスさんを悪くは思ってないのですね?》

「少しだけ。ちゃんと話してないし、話したら良い人かも……なんて……」


 一人だけ考えが浅いのでは……と、不安になってしまう。


 《そう思うなら、またお会いした時にお話すればいいんです》

「……うん」


 チェリは否定せずに、にっこりと笑ってボウガの手を握る。モヤモヤしていたが、チェリの手が温かいと思うだけでホッとした。


 ――――王都に行ったら【精霊族(スプライト)】も【魔神族(ジーニー)】もたくさんいるだろうけど……たぶん、大丈夫だ。



「道、暗いから気を付けて」

「ーー♪」


 ランプと月明かりの中、ボウガはチェリの手を引いて街道を進んだ。




 …………………………

 ………………




「クロス様、こちらを……」

「ん? 何?」


 夜の街道を進む馬車の中。

 一緒に乗っている兵士の一人が、向かいの席のクロスに何かを差し出した。


「ハンカチ?」

「どうぞ、これで手をお拭きになってください」

「……別に汚れてはいませんよ?」

「いえ、でも……」


 兵士二人は顔を見合せて困ったような表情になる。


「その……握手を……」

「え?」

「『リザードマン』や【クリア】と握手をされていたではありませんか。あなたが()()()()()()()()に触れるなど…………」


 クロスは「あぁ……」と小さく呟いて自身の両手を見た。


「私の手はどこも汚くありません。彼らの手もとてもキレイでした」


「しかし……」

「エルフとも握手されて……」


 ふぅ……と小さなため息が聞こえる。目を伏せたクロスの口許は微かに笑っていた。


 しかし次の瞬間、クロスから笑顔が消え、代わりに刺すような視線が二人に投げられた。


「二人とも、祭典が始まる前にその考えを改めなさい」


「「っ……!?」」


「あの方々をぞんざいに扱えば、後悔することになりますよ」


 そう言った後、馬車の中は凍りついたように静寂に包まれる。

 兵士二人は身動き一つできずに、歯を食いしばりながらクロスから目を離せなかった。


「ふっ……」


 時間にして数分。

 クロスの口許が再び緩んで、柔らかい笑顔が戻ってくる。


「『外部王族』というものをご存知ですか? 平民出身の者でも、将来の国王候補として認められる制度です。【精霊族(スプライト)】というのは血筋で『王』を決めずに、完全実力主義だとか…………素晴らしいと思います」


 まるで独り言のように、クロスは兵士たちを見ずに窓の方を向いて話し始めた。


「あの場にいた二人の『エルフ』は『アロ王子』と『チェリ王女』でしょう。王宮で聞いた特徴と合っていたし、握手してアロ王子だと判断しました」


「お、王族でしたか……」

「これは……失礼を……」


 独りでしゃべるクロスに、兵士たちはもごもごと呟く。


「ですが……彼らにはとても残念なことがあるんです。【精霊族(スプライト)】の『内部王族』たちは、『外部王族』を自分たちの“身代わり”くらいにしか思っていない。【盟友の祭典】で『生け贄』にならないためのね……」


 昨今、完全実力主義を謳っていた【精霊族(スプライト)】にも身分がついてまわっている。

 本来、爵位や貴族などという括りは【魔神族(ジーニー)】が始めたことで、大昔の【精霊族(スプライト)】には存在しない身分だった。


「次期女王候補の筆頭であるチェリ王女は、今度の『御前試合』での生け贄になる確率が高い。これでは、本当の実力主義とは言えません」


 くだらない【魔神族(ジーニー)】の貴族に、優秀な王女が嫁がされてしまうのは実に勿体ない。

 いくら【精霊族(スプライト)】の力を削ぐのが目的でも、弱体化させ過ぎては将来的に【魔神族(ジーニー)】にもあまりプラスにならないのではないか?


「国も『魔人』も大きくなったのですから、これからは他の『人種』を育てて共生することを考えるべきです……」


 そう言って、クロスは大きくため息をついた。沈黙が続き、気まずくなった兵士たちは必死に話題を絞り出す。


「えっと……今度の『御前試合』にクロス様が出場されたらどうなるでしょうね?」

「あ、そうですよ! クロス様なら、下手に代理の戦士を立てなくとも優勝を狙えるのでは!?」


「ふふっ、悪くないですね。面白そうですし、チェリ王女もとても可愛らしかった。握手はできませんでしたが、顔見知りになったことは良かったです」


 苦し紛れのおべっかだが、クロスは目を輝かせて話題に乗ってくる。


「でも、優勝となれば私は無理でしょうね。『御前試合』は魔法の使用を禁止されています。純粋な力押しができなければ勝てない」

「では、やはりチェリ王女様はお気の毒ですね……」

「どの貴族が王女を手に入れるのでしょうね?」


 兵士たちはチェリがどこの貴族に連れていかれるか、予想を立てて盛り上がろうとしていた。しかし、クロスは首を横に振った。


「いや。今回、チェリ王女は無事にやり過ごすと思いますよ」

「え?」

「どうしてです?」


 クロスの意外な答えに、今度は兵士たちが身を乗り出す。


「あの【クリア】の男性、とても強かったでしょう? たぶん、ここまでの道のりを考えると、あの人が街道の魔物たちを倒していたはず。そしてきっと、彼がチェリ王女の『婚約者』です」


「えっ!?【クリア】が王女の婚約者!?」


「確か……『アミュレット』と言われていました。王女が王宮で他の男性を寄せ付けないための“虫除け”ですね」


 王宮の外で見付ける『婚約者(アミュレット)』は、外で暮らしていた『外部王族』が祭典で抵抗するための唯一の手段だと言える。


「王宮の外にいるのに、恋愛感情で結婚を決められないのは不運だと思いましたが、あんな条件の良さそうな『婚約者(アミュレット)』を連れてくるなんて……王女はとても強運の持ち主ですね」


 運も実力のうちとは言うが、それが無ければ『外部王族』が女王になることは難しいだろう。


「あの【クリア】の男性……普通に戦えれば優勝は彼だ。あの時、無理にでも親の『人種』を聞けば良かった」


 クロスはボウガと握手した時のことを思い出す。


「先日、彼と似た人物と挨拶したばかりでした。予想が正しければ……」


 ジッと手を見て、その手を握っては開くを繰り返す。まるで手に触れた記憶を探るように。


「彼の『人種』を知ったら、試合に出場する人間は減るかもしれません。いや、本当に…………チェリ王女は運が良い。あの方はやはり女王になるべきだ……」


 再び独り言のように話すクロスだったが、機嫌が良さそうに見えたので兵士たちは内心ホッとしていた。



「あ……そうだ、彼らにお礼をしなければ!」


 クロスはハッとして、鞄から銀色の便箋を取り出す。

 一枚手に取り、紙の表面を指でゆっくりなぞっていく。指でなぞられた部分が光って、次々と文字が浮かんでいった。


「よし、これを……」


 パンッ! と勢いよく紙を両手で挟んで叩いた。すると、紙は意思を持ったようにヒラヒラと動いて、自然と折り目をつけて形を変えていく。


 馬車の小さな窓を開けて、手のひらに乗せた“鳥”のようになった紙を外に近付けた。


「これを、次の街の『乗り継ぎ場』まで!」


 紙の鳥が光って、窓から高速で飛んで行った。


「……これで、よし!」

「クロス様? 今のは?」

「お礼の()()()です。喜んでくださると良いなぁ」


 窓を閉めながら、クロスはニコニコと紙の鳥が飛んで行った方向を見ている。


「私はね、あの方々と仲良くなりたいんです。今回、そのきっかけができたのは大きい。これから愉しくなりますよ」


 クロスの台詞に兵士二人は引きつった笑顔を浮かべ、ただただ黙って話を聞いていた。




 …………………………

 ………………




「は? 一台も無いって、どういうことだ!?」

「申し訳ございません。わたくし共も、優先的にお取り置きするのには限度がありまして……」


「ーー………………」

「う……本当に、ないんです……」


 早朝。

 ここは街にある『馬車乗り場』だ。


 受付のカウンターで、アロは困り顔をした職員の対応にキレそうになるのを必死で堪えているようだった。アロの隣りで、チェリも職員に視線で訴えるように見詰めている。


 エルフ兄妹に責められる犬耳獣人の女性も、ほとほと困ったようにファイルを二人に見せていた。




「なんか、アロたちが揉めてるな……」

「大丈夫なのか?」

「うぅ〜……眠ぃ……」


 カウンターから少し離れた位置で、ボウガとリザードマン兄弟は心配しながらアロたちを見ている。


 ほぼ朝方、街に隣接するキャンプ場で少しだけ休憩をして、完全に夜が明けてから街のギルドが受け付けをしている『乗り合い馬車』を使おうと訪れていた。


 ここから馬車に乗って王都へ入ろうと考えていたからだ。


 しかし、その馬車を使おうとアロたちが受け付けに行ったところ上手くいかない。





「…………わかった。それで」

「申し訳ございません……」


 十数分の話し合いの末、アロは職員に何かを取り付けてカウンターから離れた。


「おまたせ……」

「うん」

「おぅ、なんか揉めてたな?」

「とりあえず外にでようか。ちょっと休憩したい…………」

「「「……?」」」


 全員で馬車乗り場の受け付けの建物から出て、すぐ近くのカフェテリアへと入った。


 やはり、王都からそんなに離れていない街なだけあって、旅人も多く利用していてボウガたちも目立たずにくつろげそうだ。



「あぁああ〜〜……」


 席に着いてメニューから注文した直後、アロがテーブルに突っ伏すように倒れ込んだ。アロがいつになく肩を落としていた。


「……で、改めて何があったよ?」

「馬車、借りられなかったんだな」

「………………」


 借りられなかったのには何か原因があるのだとして、その原因が何なのか気になる。


「いや……それが……」


 大きくため息をついて、アロが受け付けでのことを言う。


「結論から言うと、馬車を借りられるのは一週間後だ」

「え?」

「…………俺たち用に取っておいた馬車が、つい一昨日出て行っちまったんだと」

「「「なっ……!?」」」


 声をあげそうになって、咄嗟に周りを見回す。


「ここまで馬鹿にされるとは、さすがに思わなかったな……」


 アロの顔には怒りよりも悔しさが滲んでいた。





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― 新着の感想 ―
クロスはなかなかの切れ物ですね( ˘ω˘ )
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