表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
火輪の皇国  作者: es
一章
PR
1/16

【序章】

 


「なあ、ソラ」

「何?」

「これ、やる」


 唐突に差し出された掌。

 何の気なしに渡されたものを見て、俺は「ん?」首をかしげた。

 こいつが肌身離さず身に付けてた、小さな革袋だったからだ。


「おい、これ、お前がいっつも首からぶら下げてたやつだろ。大事なもんじゃねーの?」

「そう。だからやる」

「なんで?」

「ソラは、おれの親友だから」

「えっ……」


 そんなことを真っ直ぐに言われて、俺は軽く慌てた。


「えーーーっと…………これ、毎日付けてたよな。ちゃんとキレイにした? くさくねえ?」


 照れ隠しで、俺はうっかりバカなことを口走ってしまった。

 案の定、相手はキレた。


「……」

「あだっ」


 親友は無言で俺の頭をスパーンと叩いた。

 相変わらず手が早い。そして容赦ない。


「もういい、バカソラ!」


 親友は怒ってそっぽを向く。

 無防備に差し出した友情を無下にされて、相当悔しかったんだろう。

 眉をぎゅっとしかめ、苦虫を大量に噛み潰したような顔をしている。


「…………」


 俺はポリポリと頬を掻いた。

 言い訳になるけど、悪気があって茶化したわけじゃないんだよな。

 単に、「友情を理由に何かをもらう」という行為に慣れてなかったから、ついふざけてしまっただけ。

 この殺伐とした"地界"ではあまり一般的とは言えない行為だったから、ちょっとばかし戸惑ったのだ。


 親友はプンスカ怒っている。

 しかし、この程度のじゃれあいは日常茶飯事だ。

 俺は自分の目線あたりにある親友の頭を、なだめるようにポンポンと叩いた。


「うそうそ怒んなって。なあ、これ、何が入ってんの?」

「…………」


 親友は俺をチラッと見て、またそっぽを向いた。

 うーん、かなりヘソ曲げてんなぁ。

 親友から渡されたそれを掌に乗せ、しげしげと眺める。

 人差し指と親指で円を作ったらその中におさまってしまう、小さな革袋。

 袋には茶色の革紐が通してあって、首に掛けられるようになっている。


 中身は何だろう。見当もつかない。

 でも、こいつが大事にしてたものを勝手に開けて見るのも躊躇われた。

 不機嫌な親友に謝りつつ、もう一度尋ねてみる。


「悪かったって。んで、中身は何なん?」


 親友は俺をチラッと見た。

 やっと答える気になったようだ。

 引き結ばれていた口許が緩む。


「中身は言えないが、ものすごく強力な御守りだ。開けたら効果がなくなるから、気をつけろ」

「ほわぁ、何だそれ」

「いらんなら返せ」


 親友はぐっと手を突きだした。

 その口はまたへの字に曲がってる。

 機嫌がまた急降下しつつある。

 それを敏感に察知した俺は、同じ轍を踏むまいと慌てて首を振った。


「いや、めっちゃいる! いるから!」

「…………」


 疑わしげな目で見てくる親友に、俺は誤魔化すように捲し立てた。


「でもさ、そんな大事なもん、俺にあげちゃって大丈夫なのか?」

「構わない」

「俺、礼とかできねえけど」

「別に気にしなくていい。ソラにあげたかったからそうしただけだし」


 親友がふいっと顔を背けた。

 しかめ面の横顔に、笑いを飲み込む。

 こいつも大概、照れ隠しが下手だよなあ。


「んじゃ貰っとく。ありがとな、レン」


 俺はそう言って、ニカッと笑いかけた。


 ───以来、その小さな革袋は、俺の首にぶら下がっていた。

 そいつに言われた通り、中身を一度も見てない。

 やつが言うと「ものすごく強力な御守り」てのを真に受けたわけじゃないが、親友の気持ちが単純に嬉しかったんだよな。


 それから月日が流れて、ずっと後になっても、俺は時々この日を思い出した。

 古い写真を眺めるような、懐かしい気分と一緒に。


 これは、親友が男だと信じて疑わなかった頃の話。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ