第1章
善とか正義とか呼ばれるものの正体は結局、ただ強いということでしかない。
強くあれば生きていられる。それが善であり、正義だ。
弱ければ死ぬことになる。言うまでもなく、それは悪。
正義は弱者を守る、などと謳う輩がいたとして、それもやはり結局のところは、弱者が群れることで生じた強さのことを指している。
そんなふうに、ただ集まっているというだけで偉ぶっているような奴らが俺は大嫌いだ。
高校に入ってすぐ、敷地内の全体が馬鹿だらけでうんざりしたが、調子に乗って喧嘩を売ってきた三人を数発ずつ殴る蹴るして謝らせてから、俺の周りだけは静かになった。
しかし、そんなことが何回か続いた後、今は逆にいちいち俺の機嫌を伺う馬鹿まで湧いてきて鬱陶しい。俺にジュースを買って来れば、俺の強さが買えると思っているのか。
そんな腐った教室の中でも最弱の人間。和木坂真宇という、名簿までがめでたく最後尾の女子。幽霊を思わせる放ったらかしの長い黒髪、病人みたいに青白い肌、汚らしいそばかす、貧相に痩せた肢体。制服は皺だらけ、家が貧しいのか持ち物も全て薄汚れている。
周囲はいじめという選択すら拒否、誰も関わろうとしない。当然、俺も関わらない。こいつが明日死んでも驚かない。
いつもと同じように、今日も俺は授業を受ける。こんな勉強に意味があるとは思わないが、人間の強さというのは社会の中で独立して生きていく力のことだからだ。俺は殴られたり、騙されたりして野垂れ死にたくはない。だから体も鍛えるし勉強もする。
と思っていたら、呆けの国語教師、斎藤があろうことか、最弱である和木坂に朗読をさせようとする。立ちなさい、と三回も言われてやっと最弱は腰を上げ、俯き加減で口を動かし始めたが、二つ隣の俺にすら声が聞こえない。
斎藤も弱者をいたぶるように、ちゃんと声を出しなさいと連呼する。双方とも屑だ。屑同士で死ぬまでやっていればいい。と思っていたが、さすがにこの状況が一分間も続くと気分が悪くなった。
「おい斎藤、要らんことやってないで早く授業進めろや」
俺は教室中のざわめきを全てぶった切るくらいの声で言った。
斎藤は有りもしない自分の権威が貶められた、というような表情で不満を露にしたが、俺が暫く目を逸らさないでいたら、やっと諦めて和木坂を放置、自ら朗読を始めた。
弱さは悪。それはこいつらを見ていれば誰でも理解できることだ。




