表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

390/2932

歪な感情でも(正直な気持ちではある)

(よう)が亡くなって数日が経ち、庭に作られた(じん)(よう)(れん)の墓を見る。


備えられた花がすっかり根付いて花壇のようになった(じん)(れん)の墓と同じように、(よう)の墓もいずれは花で埋まるんだろうな。


それと同時に、墓そのものも増えていくんだろう。俺はさしずめそれを守る墓守か……


悪くない。大切な人を残して自分が去るよりは、見送る方がまだ気が楽ってもんだ。悲しませるよりは、自分が悲しむ方がいい。


歪な感情かもしれなくても、正直な気持ちではある。


思えば妹のことにしたって、あの子を残して俺が先に逝くようなことがなくて本当に良かった。


ああでも、見送られるよりは見送る方が楽ってのは、その時のことが影響してるのかも知れないな。あの子を見送れたことでホッとしたことが、影響してるのかもな。


グラスを片手に手酌でちびりちびりとやりながら、そんなことを思う。するとそこへ、(ひそか)がやってきた。


(じん)の時と同じように、俺を慰めに来てくれたらしい。俺に寄り添うように座って、体を預けてくる。


改めて(ひそか)も年齢を重ねてるのが察せられた。毛で覆われてるから人間よりは分かりにくいかもしれないが。


それでもやっぱり可愛いし、好きなんだ。


こうやって俺が落ち込んでたりすると、それを察して慰めに来てくれるからっていうのもあるかもしれない。


人間、優しくされると気持ちが傾くからな。


と言っても、実際に人間社会にいた頃の俺は優しくされてもそれを疑ってかかってたわけで、本当に始末が悪い。ここに来たことで素直になれたんだから、なおさらだ。


そんな自分に苦笑いを浮かべながらも、(ひそか)に訊いてみる。


「…なあ、(ひそか)。お前にとって(じん)(よう)はどういう存在だった…? 俺をめぐるライバルか? それとも家族か…?」


なんて俺の質問が理解できる訳もないのは分かってるが、ついつい問い掛けてしまう。


「…?」


当然、(ひそか)は不思議そうに小首をかしげながら俺を見るだけだ。


だが、それでいい。俺だって別に答えを期待して尋ねた訳じゃない。ただ訊いてみたかっただけだ。それに言葉で答えてくれなくたって、これまでの様子を見てれば分かる。


(ひそか)達はちゃんとお互いを<仲間>と認識してくれてた。だから俺は幸せを実感できてたんだ。穏やかな気持ちでいられた。一緒に暮らしてる者同士が険悪な仲だったりしたら、あんなにリラックスしてられなかったはずだからな。


家族同士でいがみ合ってる家庭があったりするが、なぜそんなことをしてるのか、俺には理解できないよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ