雷は決して(<舞台装置>じゃない)
その後、雷を倒したことで新しいボスの下で群れが結束し、結果として一番望ましい形に収まったようで、以前のような平穏を取り戻すこととなった。
まるで雷の存在はその為に用意されていたかのように。
しかし、本当はそうじゃないことを俺は知ってる。今回のものとは違う結末を迎えた事例があるのを知っている。だから、『雷も、この為に用意された<舞台装置>ではない』んだ。
確かに見ていていい気分になるような振る舞いをする奴じゃなかったが、だからといって死んでいい奴だったとも俺は思わない。あいつはあいつなりに懸命に生きてたんだろう。それがたまたま、上手くハマらなかっただけだと思う。
かといってあいつを憐れむつもりもない。つい憐れに思ってしまうが、憐れむのも違うと俺は思ってる。
それに、そんなことを言ったら、今回の騒動のきっかけとなった、余所者の若い雄に殺された元ボスも、元ボスを殺した若い雄も、憐れってことになってしまう気もするしな。
結果的に誉が経験を積み今後の参考となるようなエピソードを作った形にはなっても、あくまでそれは『たまたま』でしかないんだ。
今回の騒動を引き起こしたあの若い雄の姿は、あれから確認できていない。生きているのか、死んでいるのかすら分からない。死んでいる可能性は高いものの、もしかすると生き延びてまた次の機会を窺っているかもしれない。それを思うと『殺しておくべきだった』と考える人間もいるかもしれないが、そう考えてしまいがちなのも理解できなくはないが、これもまた違うと俺は感じるんだ。
全ては<結果論>でしかない。悪い結果が出たら『殺しておくべきだった』という話が出るとしても、良い結果が生まれたら『殺さなくてよかった』っていう話にもなるだろうし。どっちになるかは、やはりそうなってみないと分からないんだ。
俺は、どちらの結果が出てもきっと自分自身を納得させる為にあれこれ考え込むことになると思う。だが、それは俺自身の<性分>だから、出た結果を受け止める為にそのプロセスが必要なんだ。<考え込む>というプロセスが。
何度も言うが、俺はそういう人間だっていうだけの話さ。
ところで今回、ちゃんと見守るだけに徹することができたメイフェアについても、立派だったと俺は思う。
「ありがとう。誉のことを信じてくれて」
『誉様の為に』と考えてつい余計な手出しをしてしまいそうになるのを我慢してくれたことを、俺は感謝していた。
「いえ、錬是様がそのように要請してくれたおかげです。私の方こそありがとうございます」
誉にとってもそうだが、彼女にとっても貴重な経験になったんじゃないかな。