俺自身が(その現実から逃げたかった)
だが、いかにタフさを誇ろうとも、ダメージの深さは明白だった。
「ぐあっ!!」
チャンスとばかりに、雷が一気呵成に攻撃を仕掛ける。それを、暫定ボスは逃げることなく迎え撃った。
いや、『逃げることもできなかったから』か。
普通なら、まともに動くどころか既に死んでいてもおかしくない状態の筈だ。だから逃げられるなら逃げていただろう。しかし、逃げることさえできない状態だから、戦うしかなかった感じかもしれない。
野生の動物には、人間が拘っているような<プライド>はない。だから、勝てないと思えば必死に逃げる。どれほど不様でもみっともなくても、生き延びたものが勝ちなのだから。
とは言えそれも、逃げることができればの話か。逃げることもできなければ、後は一か八かで戦うしかない。
もっとも、人間がよくやる<ヤケクソ>とも違うんだろうな。あくまでも生き延びる為に戦うんだ。最後の最後の、事切れる一瞬まで諦めることなく。
『そうか……、光莉もそうだったんだな……』
光莉。光に良く似た、俺の妹。
恐ろしい病気と闘って闘って、力尽きて死んでいった俺の家族。
正直、『早く楽にしてやりたい』と思ったこともあったが、『この子も早く楽になることを望んでるに違いない』と考えたこともあったが、それは、苦しんでるあの子を見ていたくないという俺自身の<甘え>だったのかもしれない。俺自身がその現実から逃げたかったんだ。
最後の頃には意思の疎通すらできなかったものの、思えばあの子は、『死なせて』とか『殺して』とかは言ってなかった気がする。言ったことはあったとしても、常にそんな気配を発していた訳じゃなかった。
最後の最後まで諦めずに闘い抜いたんだろうな。
結果としては悲しい結末ではあったけれど、それを単なる<悲劇>としてしまうのは、無責任な第三者の逃避なのかもしれない。
明らかに不利な状況で、逃げることもできない状況で、生きる為に闘う暫定ボスの姿を見ていて、そんなことを思ってしまった。
あの子は諦めてなかったのに、最後の最後まで生き延びようとしてたのに、俺の方が諦めてしまってた、というか、現実逃避しようとしてたんだ。
改めてそんなことを教わった気がするよ。
俺がそうやって一人納得してる間にも、雷と暫定ボスの戦いは続いていた。
と言っても、もう、誰の目にも勝敗は明らかだっただろうが。
最後にはぐったりと動かなくなった暫定ボスに、トドメとばかりに蹴りを入れた雷が、その反応を確かめて勝利を確信し、
「うお―――――っっ!!」
っと両腕を振り上げて雄叫びを上げた。
それを見ていた仲間達が、
「うおっ、うおっ!!」
と興奮して声を上げる。
新しいボスが誕生した瞬間であった。