積極的にボスの座を(狙う感じか?)
「なるほど。通常のボス交代劇ですね。群れの他の雄達との対立も一般的なそれの範疇のようです」
メイフェアの報告を受け、シモーヌが解析する。それを、エレクシアが、
「シモーヌの言った内容で、大きな矛盾や齟齬はないと判断します」
と追認してくれた。
命を落としたボスについては残念だったが、誉が縄張りを偵察する為の巡回に出ていた留守中の話となれば、これも摂理というものだろう。暫定ボスとなった若い雄も、障害となりそうな他の雄がいない時を狙うのは常套手段だし。
これによってボスの座の争奪戦が流動化する流れだな。このまま暫定ボスがボスの座に収まるか、他の雄が暫定ボスを倒してボスの座を手に入れるか。
今回は群れの内部の雄によるものじゃないから、余計に状況は不安定になるだろう。
「誉の様子はどうだ? 積極的にボスの座を狙う感じか?」
改めて問い掛ける俺に、メイフェアが答える。
「いえ、他の雄に同調はしつつも、一歩引いた感じでしょうか。様子を窺う的なことはおっしゃってますが」
「なるほど。さすがに冷静だな。今はまだその時期じゃないと判断したか」
メイフェアの説明を受けてそう呟いた俺に、今度はシモーヌが話し掛ける。
「やはり自分がまだ<若い>ということを理解してるんでしょうね。ここでもしボスの座を獲得できたとしても、群れ全体を掌握できるとは考えていないんじゃないでしょうか」
それにメイフェアも、
「はい、その通りだと思います。今の誉様では、一部の雄が強く反発する可能性が高いことを、ご自身も理解してらっしゃいます」
とのことだった。
ちゃんと誉のことは分かってくれてるんだよな。だからこそ御者の役もできた。あいつが思慮深いボノボ人間になれたのは、メイフェアの<教育>の賜物でもあると思う。
が、同時に、感情を装備していることで<心配性の母親>的な部分が強く出ることもある。その辺りを、俺達が上手く制御してやらないといけないんだろうな。
なるほど、ロボットで感情を再現しようとすると余計な手間も増えるという面もある感じか。自分で完全に制御できてしまうとそれは<感情>とは言い難いものになってしまうだろうし。
結果的に感情の再現が見送られてきた原因の一つかもしれないという考察もできるか。
人間の側がこうやってロボットの振る舞いを気遣わないといけないというのでは、本末転倒というものだろうし。
いくらメイト(仲間)と名付けられていようとロボットはあくまで<道具>だ。人間が道具を気遣ってちゃあ意味がないんだろうな。