表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

338/2930

光の器(もはや天使だな)

数ヶ月が経って(はるか)(ちから)が立て続けに亡くなったことについても気持ちの整理がつき、穏やかな毎日が戻ってきたなと感じていた頃、うちの中でちょっとした変化が起こっていることに俺は気付いた。


(ひかり)……?」


(ひかり)だった。(ひかり)が、どことなくあどけなさも残しつつ見た目にはもうすっかり<大人の男>になった(じゅん)に絵本を読み聞かせてやってるんだ。


以前は、彼女を前にすると落ち着きをなくして激しく求愛行動を始めてしまい、疲れて落ち着いたと思ってもしばらくするとまた始めてしまうから(ひかり)も少々持て余しているように見えてたんだが、さすがに出逢ってから四年以上も経てば当然かもしれないものの、(じゅん)が大人しくしている時間が少しずつ長くなってきてた気がする。


だからこれは、(じゅん)の変化でもあるのか。


これまで、(じゅん)としては、己の中に湧きあがる情動に従って熱烈アピールを繰り返していただけなんだが、やっぱり(ひかり)にはそれは刺さらなかったようだ。彼の熱意は認めながらも、彼女にとっては<元気すぎる弟>のようにしか見えてなかったらしい。『弟として可愛い』とは思っていても、<異性>としての関心は抱かれなかったらしい。


が、皮肉なことに、少し落ち着いていられるようになると、(ひかり)は、自分から彼の隣に座って、シモーヌから譲り受けた絵本を広げ、絵本を読み聞かせ始めたのだった。


どうやら(ひかり)は、それを待ってたらしいな。(じゅん)が己の気持ちを一方的にアピールしてくるんじゃなくて、自分のペースに少しでも合わせてくれるようになるのを。


それまで根気強く待ってくれていたんだ。(じゅん)の気持ちは分かっているから。


(ひかり)自身が言ってたよ。


「私も、(じゅん)のことは好き。可愛いと思うし、私をすごく好きでいてくれてるのは分かってる。だけど今のあの子の気持ちは私には正直『重い』かな……」


ってさ。


とは言え、(じゅん)にそんな理屈が通じる訳もなく、話したところで理解できる訳もなく、だから待っててくれたんだ。彼が少し落ち着いてくるのを。


もっとも、『落ち着いた』とは言っても、それはあくまで『以前に比べて』だけどな。


しばらく(ひかり)に付き合ってたかと思ったら急にまた部屋の中を飛び回り出したりっていうのは今でもある。


ただ、(ひかり)の方も(じゅん)がその衝動を抑えられないのは理解してくれているらしい。絵本を閉じ、激しく部屋の中を飛び回る姿を、優しく見守ってくれていた。


その様子を見て、(あかり)が言う。


「お姉ちゃん。ちゃんと(じゅん)のこと好きなんだよ。ただもうちょっと落ち着いてほしいだけなんだってさ」


(あかり)(じゅん)と仲はいいが、こちらはそれこそ弟としか思ってないらしい。もしかしたら三角関係とかも有り得るかなと思っていたものの、それを心配してたのは俺だけだったようだ。


(ひかり)は、何もかも分かった上でゆったりと構えていたんだ。


本当に、大した器だよ。




ただ、同時に、(じゅん)の方もこんなに一途に(ひかり)を想い続けてくれるのもすごい。(ひかり)以外には自分を受け入れてくれる可能性がないのが分かってしまうからというのもあるかもしれないが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ