野生寄りだから(死生観も人間とは違う)
ところで、刃が亡くなった時、一番辛かったのはたぶん俺だが、だからといって光や灯が平気だったのかと言えば、それはもちろん違う。彼女らにとっても刃は<家族>だったからな。
ただ、光や灯はメンタリティがどうしても野生寄りだから、死生観も人間の感覚から見れば<ドライ>にも思える感じになってしまうのは否めない。生と死がすごく近いんだ。感覚的に<死>というものを受け入れてるんだろう。
また、シモーヌにとっては、<親しい隣人>だったから、家族とも少し違う気がする。それでも、彼女は彼女なりに刃のことを悼んでくれた。それについてはとても感謝している。
彼女はすごくいい人だ。刃達がいなかったら惹かれてたと思う。しかし今は<良き隣人>として俺達を支えてくれている。この出逢いにも感謝している。
今のシモーヌの基となった不定形生物は非常に危険な生物であることは間違いないが、あれがグンタイ竜や蛟やイレーネを襲った<恐竜(に似た生物)>を生み出したことは疑いようがないが、それと同時に、悠やシモーヌとの出逢いをもたらしてくれたことも事実か。
物事ってのは一面だけを見て良い悪いを判断しちゃいけないってこともよく分かるよ。
もっとも、そもそも『良い』とか『悪い』ってのがただの主観だからなあ。それを見る者にとって好ましいかそうでないかってだけの話だし。
なので、不定形生物の件は成り行き任せだな。実際、悠がここに来るきっかけになった一件以来、直接、これといって危険もなかったわけで。
あの不定形生物が水辺で動物を捕らえるところは何度かドローンのカメラに捉えらえているが、ここの生き物達にとっては<恐怖の対象>ではあっても、それと同時にあれの存在そのものが日常の一部に過ぎないし、気を付けるべきところを気を付ければ、実はそんなに神経質になる必要もないんだ。
ちなみに、健康なワニ人間があれに捕らわれることは滅多にないようだ。年老いたり弱ったりしてる個体を除いては。何かあれの接近を早々に察知できる能力を獲得している可能性があるな。
コーネリアス号の乗員達が狙われたのも、ひょっとすると『珍しい生き物がいる』ということで、遺伝子情報を集めようとするあれの習性を刺激したということも考えられる。
およそ自然に生まれたものとは思えなくても、既にこの惑星の生態系の一部として定着してる限りは、『付き合い方』というものもあると思う。
だから迂闊に手を出して、『藪をつついて蛇を出す』のも困りものだし、必要に迫られない限りはあれには近付かないことにする。
その為にドローンやプローブによる早期警戒網を張り巡らせてるんだからな。
「と、改めてそういう方針ということを確かめたいんだが、いいかな?」
夕食時、リビングに俺とシモーヌと光と灯とエレクシアとセシリアとイレーネとが集まって、不定形生物についての対応を周知する。
「はい。それでいいと思います」とシモーヌ。
「分かった」と光。
「はいは~い♡」と灯。
エレクシア達メイトギアは揃って「承知しました」と応えてくれたのだった。