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別れがあると思うからこそ(余計に大切に)

ばんも退けられて、俺達はようやく調査を始めることができた。


と言っても、ばんのおかげでヒト蜘蛛アラクネの生態観察が捗っているのはありがたい。


生きている状態での体の機能などの確認もできるからな。遺伝子があればそれを基にAIがデジタルデータを再現し、シミュレーションもできるものの、シミュレーションと現物との差異を確認するのも、学者などにとっては重要な仕事である。つまり、俺の仕事としてはシモーヌの手伝いだな。


それから後はこれといったトラブルもなく、調査を終え、帰ることにする。すると、河に出た時、木の上からばんがこちらの方を睨んでいるのが分かった。


追いかけてはこないところを見ると、『エレクシアのことが実は好き』なんていう話ではないんだろうな。あくまで自分の縄張りに入ってくると放っておけないというだけで。


俺達の周りには、そういう変わり種が集まるということでもあるのかもしれない。


こうして家に帰ると、俺は、ひそか達の姿を一人一人確認するようにしていた。もういつまで一緒にいられるか分からないから、その姿をしっかりと焼き付けておきたいというのと同時に、些細な変化も見逃すまいという意味もある。


ローバーから降りると、まず、ようの姿を確認する。日が暮れるころには帰ってるから、今日も、毛繕いをしているところだった。


「ただいま、よう


俺が声を掛けるとこちらをちらっと見て、しかしそのまままた毛繕いを再開する。今日はそういう気分じゃないようだが、甘えたい時には俺が帰ってくると近寄ってきて、頭をすりつけてくる。


次に、夜行性で活動を始めているふくが家から出てきて、俺の顔を舐めたりする。挨拶のようなものらしい。そうやって彼女も俺の無事を確認して、狩りへと出かけていく。


それから家に入って、


「ただいま、ひそか


と声を掛けると、


「あ~」


って感じの鼻にかかった声を上げながら彼女は俺に抱きついてきて、甘えてくれた。それからふんふんと匂いをかいでくる。エレクシアによると、彼女の方も俺の様子に変わりがないかを確かめているらしい。で、変わりがないのが分かると安心して自分のパーソナルスペースへと戻っていく。特に甘えたい時なんかはそのまま離れようとしないけどな。


以前からずっとこの感じだったが、最近では特にこのスキンシップを大切にしてる。俺の中に、彼女達の感触や匂いや声をしっかりと刻み込む感じか。


いつか来る別れの為に、だな。


もちろん別れは悲しい。辛い。寿命なんてなくなればいいと俺も思うし、人間はそれを目指して様々なことを試行錯誤してきた。それによって二百年以上、健康なままで生きられるようにもなった。


だけどそれでもいつかは別れの時が来る。


だが、別れがあると思うからこそ余計に大切に想えるんだというのも、最近では特に実感してるんだ。



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