鋭の角(これはまさに…)
元々、刃は気配を断ってることが多く、家の中にいてもその存在を掴ませなかったりしたから。いないような感じがするのが当たり前の筈だったのに、やっぱり何かが違う気がする。
それが俺の思い過ごしであっても関係ない。俺はそう感じてしまってるんだから。
でもそれを気にしてばかりもいられない。日々は変わらず過ぎていき、やらないといけないこともそれなりにあるからな。
それに、明も丈も元気だ。明と角の息子の鋭も元気である。
ただ、鋭本人は元気そうなんだが、彼の外見上のことで少し気になることがある。
と言うのも、元からあった頭の<でっぱり>が成長と共にさらに大きくなって、今では完全に<角>になってしまっていたんだ。鬼のそれを思わせる、二本の立派な角だ。
父親である角の頭にも角を思わせる突起があったから<角>と名付けたんだが、鋭のそれは父親のものを遥かに超えて立派だった。
なんて、角まで備えた凶悪そうな見た目をしているにも拘らず、鋭は割とおとなしい性格のようだった。ボノボ人間を襲うような素振りも見せず、普段の食事は昆虫や小さなトカゲに似た小動物が主だった。しかも<小食(あくまでカマキリ人間としてはだが)>だ。
これはカマキリ人間としては致命的な<欠点>かもしれない。俺と一緒に暮らし始めたころの刃から始まった食の変化が、ここにきて決定的になったということだろうか。なにしろ明も、彼女が生まれてから一度もボノボ人間を食べていない。
ボノボ人間は体毛が多く長いだけで、<コスプレした人間>にも見えるから、そういうボノボ人間をカマキリ人間が食べるというのは、パッと見、食人行動にも見えてしまって、正直、気が滅入るというのもあった。映像でも何度か確認されてるが、そういうものだと割り切ってても気分までは変えられないからな。
とは言え、俺自身としてはカマキリ人間の生態まで変えてしまうつもりはなかった。が、現にそうなってしまった以上、見守るしかないのか。
ただ、今のところは、何か困っている風には見えなかったけどな。他にも獲物が豊富にいる分には、わざわざボノボ人間を食べる必要もないのは事実なんだろう。
さりとて、もし、他の獲物が捕らえられず、目の前にはボノボ人間しかいなかった時、明や鋭はそれを食べて生き延びることができるんだろうか。
まあ、飢餓状態になって追い詰められれば人間だって死んだ仲間を食べた何ていう話も聞くし、ひょっとしたらそんなに心配しなくてもいいのかもしれないが。