表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

316/2930

悼んでくれるか?(俺と一緒に)

(じん)の遺体は、(れん)の墓から少し離れたところに作った。(れん)の隣にはいずれ、な。


三十八口径の拳銃弾でさえ貫通できない(じん)の<鎧>ですら土中の微生物達は分解し、彼女の体を土へと還し、自然の循環の中へと戻していく。


「少し……一人にしてくれないか……?」


そう言って、この密林の中で採れた果実を発酵させて作った酒とグラスを手に、(じん)の墓の前に座り込む。


手酌でちびりちびりとやりながら、彼女のことを思い出す。


初めて出逢った時のこと。


(ひそか)を仲間と認めてくれた時のこと。


彼女を初めて抱いた時のこと。


(めい)が生まれた時のこと。


(じょう)が生まれた時のこと。


(きょう)の襲撃の時のこと。


等々。


普段は気配を消してどこにいるのかも分からないことも多かったが、平穏すぎてこのところ碌に話題にすることもなかったが、お前は俺に強烈な存在感を残してくれてるよ。


そうやって口には出さず(じん)に話しかける俺に、するりと近付いてくる気配。


「……」


シモーヌと(ひかり)(あかり)は、『一人にしておいてくれ』という言葉が分かるからちゃんと一人にしておいてくれるが、(ひそか)にはそれは通じない。


原始的な<言語>に近いものは持ってるから、それを理解してる(ひかり)やエレクシアを通じてなら『構わないでくれ』的な意味を伝えることはできても、『一人になりたい』というニュアンスは伝わらないんだ。


(ひそか)達にとって<孤立>は限りなく死に近付く状態だからだろうな。


だが俺は、それも承知の上だった。(ひそか)達にはそれは通じないことも分かった上でそう言ったんだ。


甘えるように俺に抱きついてくる彼女の体温と重みが、染み込んでくるように俺を包み込む。


(じん)が逝っちまったんだよ……お前にも分かるか? (ひそか)……」


人間のセンチメンタリズムが彼女に分かるとは俺も思わない。


「……」


なのに(ひそか)は、俺の体に抱きついたまま、(じん)の墓を見詰めてた。たぶん、俺がそれのことをやけに気にしてるのは察してるんだろうな。


そしてふんふんと鼻を鳴らして、少しだけ力を入れて俺を抱き締めた。鼻のいい彼女には、ここに(じん)がいることも分かるのかもしれない。分かった上で、もう、そこから出てくることはないのも察してしまったのかもしれない。


もう二度と、(じん)と会えないということが。


いわば<狩られる方>と<狩る方>という関係だったから決して仲が良かった訳じゃないが、少なくともいがみ合ってた訳でもない。お互いにただそこにいるのが当たり前の者同士として、一緒にいただけだ。


当たり前にそこにいたやつが、突然いなくなる。それを残念に思う程度のメンタリティは、(ひそか)達にもあるんだろうな。


その寂しさを紛らわせようとするかのように、彼女は俺に頭をすり寄せて甘えてきた。


(ひそか)……お前も悼んでくれるか? あいつのことを……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ