悼んでくれるか?(俺と一緒に)
刃の遺体は、連の墓から少し離れたところに作った。連の隣にはいずれ、な。
三十八口径の拳銃弾でさえ貫通できない刃の<鎧>ですら土中の微生物達は分解し、彼女の体を土へと還し、自然の循環の中へと戻していく。
「少し……一人にしてくれないか……?」
そう言って、この密林の中で採れた果実を発酵させて作った酒とグラスを手に、刃の墓の前に座り込む。
手酌でちびりちびりとやりながら、彼女のことを思い出す。
初めて出逢った時のこと。
密を仲間と認めてくれた時のこと。
彼女を初めて抱いた時のこと。
明が生まれた時のこと。
丈が生まれた時のこと。
凶の襲撃の時のこと。
等々。
普段は気配を消してどこにいるのかも分からないことも多かったが、平穏すぎてこのところ碌に話題にすることもなかったが、お前は俺に強烈な存在感を残してくれてるよ。
そうやって口には出さず刃に話しかける俺に、するりと近付いてくる気配。
「……」
シモーヌと光と灯は、『一人にしておいてくれ』という言葉が分かるからちゃんと一人にしておいてくれるが、密にはそれは通じない。
原始的な<言語>に近いものは持ってるから、それを理解してる光やエレクシアを通じてなら『構わないでくれ』的な意味を伝えることはできても、『一人になりたい』というニュアンスは伝わらないんだ。
密達にとって<孤立>は限りなく死に近付く状態だからだろうな。
だが俺は、それも承知の上だった。密達にはそれは通じないことも分かった上でそう言ったんだ。
甘えるように俺に抱きついてくる彼女の体温と重みが、染み込んでくるように俺を包み込む。
「刃が逝っちまったんだよ……お前にも分かるか? 密……」
人間のセンチメンタリズムが彼女に分かるとは俺も思わない。
「……」
なのに密は、俺の体に抱きついたまま、刃の墓を見詰めてた。たぶん、俺がそれのことをやけに気にしてるのは察してるんだろうな。
そしてふんふんと鼻を鳴らして、少しだけ力を入れて俺を抱き締めた。鼻のいい彼女には、ここに刃がいることも分かるのかもしれない。分かった上で、もう、そこから出てくることはないのも察してしまったのかもしれない。
もう二度と、刃と会えないということが。
いわば<狩られる方>と<狩る方>という関係だったから決して仲が良かった訳じゃないが、少なくともいがみ合ってた訳でもない。お互いにただそこにいるのが当たり前の者同士として、一緒にいただけだ。
当たり前にそこにいたやつが、突然いなくなる。それを残念に思う程度のメンタリティは、密達にもあるんだろうな。
その寂しさを紛らわせようとするかのように、彼女は俺に頭をすり寄せて甘えてきた。
「密……お前も悼んでくれるか? あいつのことを……」