異性を意識するのは(まだ早いのかもしれない)
灯にとっては弟のような順が来たことで、彼女が本格的に<調査の仕事>をするのはもう少し先になってしまったようだった。
彼女自身が順の面倒を見たがったんだ。だから家で彼の面倒を見るのが<仕事>になってしまった。
「お姉ちゃんはお仕事行くんだよ。だから待ってたらいいよ」
光が調査の仕事に出る日、不安そうに見送る順に、灯はそう言って安心させようとしてくれていた。
優しい子だな。
そういうところはシモーヌによく似ている。彼女のいいところをちゃんと受け継いでくれてるのが分かる。シモーヌは、学者としてだけでなく、母親としても才能を持った女性だったのか。
そして灯のおかげで、順はこの<群れ>にいい感じで馴染めたっていうのもある気がする。とは言えさすがに刃や鷹には決して近付かないようにしてはいたけどな。
また、順は光を雌として意識してるが、灯は彼を雄としては意識してないっていうのも感じられた。
ちゃんと雄だと認識はしてるものの、まだ異性を意識するには早いのかもしれない。
それと同時に、順に好意を寄せられている当の光は、彼のことを雄として意識してるのは何となく感じる。意識しながらも、現時点では光にとっては魅力的な異性ではないということか。
「さすがに簡単にはいかないな」
シモーヌと一緒に、順と灯と光の様子を見ていた俺は、思わずそう呟いていた。
「そうですね」
とシモーヌが返す。
光がその気にならないのなら無理にとは言わないものの、せっかく出逢えた自分に近い存在とパートナーになってもらえればという想いはある。これを逃すと次の機会はなさそうだし。可能性だけならゼロじゃなくても、今回、こうして順と出逢えたこと自体がほぼほぼ奇跡のような確率だろう。そう考えるとな。
なんてことを思ってる俺達の前で、順は、灯がトイレに入ってる隙に、干してあった洗濯物を勝手に取って、頭からかぶろうとしていた。光のTシャツだった。どうやら、光や灯の真似をして、服を着ようとしてるらしい。
「あっ? あがっ!? あぅあ?」
「ありゃ、何してんの、順」
トイレから戻ってきた灯が、頭に光のTシャツを絡ませてもがく彼を見て、呆れたように言った。
「服着たいの? ほらほら手伝ってあげるから」
そう言って灯は、小さな子に服を着せるみたいにしてかいがいしく順に服を着せてやる。その様子が本当に姉弟のようで微笑ましい。
灯にとって実の弟だった彗のことも可愛がってたが、それ以上だな。
姿が自分に近いから余計なのかもしれない。