この手順が必須なんだ(人間の場合だとマズいが)
こうして俺達の群れに加わった順だが、彼にとってもそれは戸惑いの連続だっただろう。
自分と同じように体毛の少ないのが何人もいて、おかしな形の洞穴に住んでるんだもんな。
だから灯の傍から離れようとしなかった。惚れてるのは光に惚れてるが、頼りになるのは灯ということなのかもしれない。
灯にしても、新しい<弟>ができたみたいで嬉しかったようだ。
「順、こっちこっち!」
順の手を引いて、家のあっちこっちを案内して回る。
「ここは私とお姉ちゃんの部屋。こっちはお父さんの部屋。こっちは焔と彩と新と凛の部屋。こっちは密の部屋、こっちは刃の部屋、こっちは伏の部屋」
と、まさに順番に教えていった。もっとも、<部屋>といっても完全に独立した空間じゃなくて、簡単な間仕切りでそれぞれの姿が丸見えにならないようになってるだけだが。
で、順の方も、戸惑いながらも興味深そうに見てた気がする。しかも、灯は人間の言葉を喋っているのに、どうやら結構伝わっているようだ。
もちろんそれは、順が人間の言葉を理解してるという意味じゃない。ただ、灯の話し方の一部が、ボノボ人間の言語に近いものになってるんだ。これはたぶん、焔達と遊んでるうちに身に付けたものだろうな。
ちなみに、誉と行動を共にしてボノボ人間の群れに寄り添う形で常に待機してるメイフェアからデータを提供してもらっているエレクシアとセシリアとイレーネも、ボノボ人間の言語をおおむね理解していて、光も基本的なコミュニケーションくらいなら取れるんだよな。
しかも、ライオン人間のコミュニケーションについてもある程度は解析済みだそうで、そのおかげでスムーズにいってるというのもある。
でも、一番大事なのは、ボスへの挨拶か。
帰ってきてまず一番に、灯と光に伴われて、順は俺の前に来た。緊張してるらしく、視線が定まらない。だが、二人に促されて地面に手をついて、首の後ろを俺の前に晒した。日本にルーツを持つ俺にとってはおなじみと言ってもいい<土下座>によく似た、服従の姿勢だ。
「……」
そして俺は、順の首筋に右手を触れさせて、ぐっと押した。ビクっと緊張するのが分かったが、これは必要なことだからな。
人間でこんなことをすると暴行罪で訴えられてもおかしくないものの、ボノボ人間においてはこの手順が必須なんだ。
この儀礼を経て、順は、正式に俺達の<群れ>に加わったのだった。