灯は実に(容赦ない)
この惑星で群れを形成するタイプの動物の場合、近親婚を避ける為もあってか年頃になると群れから離れて他の群れへと移るのが普通のようだった。
で、それが<巣立ち>な訳だが、その巣立ちの仕方も、自分から群れを出ていく場合と、追い出される場合と、今回の少年のように、若い個体を連れて斥候に出た時に置き去りにする場合とが基本的な巣立ちのようだった。
「……」
仲間に置き去りにされたことに気付いた少年だったが、群れに戻ろうとするんじゃなく、光達の傍から離れようとしなかった。どうやら光達のそれを<群れ>と認識して、入れてもらおうと思っているらしい。
「お姉ちゃん、この子も一緒に連れて帰ろうよ」
日が傾き、そろそろ帰還の準備に入ろうとした時、灯が、少年の手を握ったままそう言いだした。さすがに落ち着いたらしい少年は、真っ直ぐに光を見詰めてる。
黙々と撤収作業をしながら光は、背中でその声を聴いていた。
「……お父さんが『いい』って言ったらね……」
その言葉を受けて、灯は、
「パパ、パパ! 見てるんでしょ? この子連れて帰ってもいいよね!?」
と、イレーネに向かって、イレーネのカメラを通じて見ている俺に向かって、縋るみたいにしてそう言った。
するとイレーネがタブレットを掲げて、そこに俺達を表示させてくれた。だから俺も、
「ああ、いいよ。俺達の<群れ>に迎えよう」
って応えさせてもらった。
「やったあ! すっごいね! すっごいよ!!」
少年の手を握ってぶんぶんと振りながら、灯は満面の笑みを浮かべてた。自分達の<仲間>が増えることに興奮してるんだ。
こうして、<ボノボ人間の少年>、順は、俺達の<群れ>に加わることになった。
「? …?」
さすがにローバーに乗る時にはその異様さに怯えてたみたいだが、光も灯も平然としてることで何とか覚悟を決められたのか、おずおずと乗ってきて、しかし初めてローバーに乗った時の密達と同じように緊張して小さくなっていた。
「あはは、おちんちん、小さくなってる~!」
などと、順の体の一部を指差しながら灯は容赦ない。
灯、それは緊張してる時とかにも小さくなることがあるんだよ。
まあそれはさておき、光達チームBが帰った時にはすっかり日が暮れて、夕食の用意が整ったところにちょうど戻ってきた。
「ようこそ、私達の<群れ>へ♡」
灯に手を引かれて戸惑いながら家に入ってきた順を、俺もシモーヌも、
「ようこそ」
「歓迎します」
と温かく迎えたのだった。