その熱意自体は(認めるべきなんだろう)
「……」
突然現れた、<人間の姿をしたボノボ人間の少年>は、特に何をするでもなくただ光達を見ていた。
要するに自分達にとって危険かどうかを見極める為に監視してるんだろうが、俺はふと気になって、イレーネに命じてみた。
「イレーネ、最大望遠。光学補正。<人間の姿をしたボノボ人間の少年>を拡大してくれ」
「了解」
短く答えたイレーネが最大望遠にした映像を、こちらでまた画像処理して拡大する。少年の目を。少年の目に何が映ってるのかを確かめようと思ったんだ。
「ああ…なるほど……」
で、俺は納得した。少年の目には、当然、光と灯とイレーネが映っていたんだが、その中心に映っていたのは、光だったんだ。
「こりゃあ、一目惚れかな」
おそらく、視界には三人とも入っていても、少年が見てるのは光だけだろうなって感じの眼差しだった。
「その可能性は高そうですね」
シモーヌもそう言ってくれる。
それを照明するかのように、突然、少年がさらに近寄ってきて、光の前十メートルくらいで、枝から枝へと何度も飛び移り始めた。曲芸師のように。
「求愛行動だ」
俺の口から勝手に言葉が漏れる。それは、俺がこの家でさんざん見ていたものだ。ボノボ人間の焔や新が、彩や凛の前で激しく部屋の中や家の周りを跳び回っていた動き。
そうして自分の身体能力をアピールして、雌の気をひこうとしてるんだ。焔の場合は、彩を相手にアピールしててその途中でドアとか窓とかにぶつかって壊したりしてたんだろうな。
でも、今回のは、全裸の中学生くらいの少年が樹上を激しく跳び回ってるという、考えようによってはシュールな光景。
そう、全裸なんだ。完全に全裸。マッパ。フルモンティ。Utterly stark-naked。
もちろん、普通のボノボ人間も全裸なんだが、体毛に覆われてるからあまりそういう印象はないものの、この少年の場合はその体毛が殆ど無いから、なんともはやって感じだな。
ああ、はっきり言って<猥褻物陳列罪>だよ。人間社会でならな。
もっとも、特に敏感な部分を守る為にしっかりと包皮で包まれてるが。
とは言え、光も灯も、そもそもそんなことは気にしない。
『何やってんだこいつ?』って感じの冷めた視線を送ってるだけだ。
いや、そうでもないのか。冷めてるようで、真剣にアピールしてる様子に対しては、ちゃんと見届けようとはしてるのかな。
彼は真剣だもんな。その熱意自体は認めるべきなんだろう。