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4 断頭台

 屋敷に戻った。ベッドに仰向けに倒れこんだ。天井を眺めながら考えた。どうしてこんなことになってしまったのかと。

 俺が身を引いたのに、ダーネイは牢獄に入って間もなく死刑になってしまう。ルーシーはダーネイを愛しているし。まぁ、俺だって前世の彼女のことを愛しているし、って前世の記憶を俺が持っているのはなぜなのだろう。はっきりと言ってしまえば、前世の記憶さえなかったら、俺はルーシーを愛していただろう。双子の弟が惚れたんだ。双子の兄だってきっと惚れるに決まっている。

 そう考えてしまえば、前世の知識があるということは、良いのか悪いのか分からない。前世の彼女のことをずっと引きづり続けて今に至っている。日本人の外見とは打って変わって、今は西洋人風の姿になっている。前世の彼女が俺のことを見て、俺だと分かってくれはしないだろう。いや、そもそも彼女と再び邂逅することができるのだろうか。この現世が、異世界とかではないとして、過去の地球にタイムトリップしたとしていたとしても、前世と現世との間には、二、三百年の溝がある。いつか会える、また会える、という言葉は楽観的過ぎると思っている。前世の記憶があって今の現世を生きているわけだから、来世があるということの実体験を俺はしている。だから、来世は信じることができる。

 ——つまり俺は、来世で前世の彼女と会えることを期待しているのだろうか。いや、違う。俺は、後悔をしているんだ。彼女を助けることができなかったことを。

 あの時、前世の彼女が助けを求めたとき、俺は部屋に鍵をかけてから全力で急いだ。鍵をかけている時間が無ければ、鍵をかけたりなんかしないで駆けつければ、間に合ったかも知れない。全力で走ったが、全力を越える全力で走れば、間に合ったかも知れない。もう、後悔をしたくない。

 俺が前世の記憶を持って現世を生きている理由が分かった気がした。


 俺は、家の執事をすぐに呼んで指示を出した。金貨の詰まった袋を用意しろと。そして、俺が今から行くところ、やることに黙ってしたがうことを約束させた。


 俺が向かった先は、弟が収容されている牢獄だった。前回は面会できなかったが、今回は違う。金貨という実弾を持ってきた。俺は、ターバンを使って顔を隠していた。はっきりいえば、怪しい風体をした男だっただろう。しかし、門番は、袖の下を通したら気前良く俺を地下牢まで案内してくれた。門番の10年分くらいの金額だから、効果は絶大だったのだろう。


 ダーネイは、汚い地下室のベッドに寝かされていた。弟は、満身創痍だった。反乱のときに負傷したのか、拷問とかされてできた傷かは分からない。弟の意識が無くてよかったと思った。意識があったらあったで面倒ごとになりそうだったからだ。

 

「弟を運び出し、別荘で傷の治療をさせるんだ。そしてそのことをルーシーに伝えてあげてくれ。俺の処刑が終わるまでは、絶対にこのことは口外するなよ」と俺は執事に指示をだした。俺が処刑された後なら、両親だって、弟を再度、突き出すようなことはしないだろう。二人息子の両方を失いたくないだろうから、ダーネイを、カートンとして今後扱うだろう。あ、そうなると、ルーシーは、カートンと結婚するということになるのだろうか。なんかそう考えると、恥ずかしい気がする。


 執事が、人を担いで出てきたので、門番は驚いて地下牢に下りてきた。しかし、俺の姿を見て安心したようだ。そうだろう。初見で俺たち双子を見分けることは困難だ。それに、双子はこの世界では珍しい。双子の弟と兄が入れ替わったなんてことを思いもしないだろう。


 それから、俺は処刑のとき、最後の時まで、牢獄で過ごすことになった。想像していたより人道的に扱ってもらえて感謝である。飯だって、悪くない。

 羊皮紙とペンが欲しいと言ったら、すぐに持ってきてくれるくらいの対応の良さだ。日当たりと風通しを良くして、鉄格子を取り外したのならば、それなりの宿屋になるんじゃないか? なんて冗談を書けてしまうくらい快適だ。


 それにしても、走馬灯、というものはどうやら存在するようだ。正確に言えば、走馬灯ではないけどね。処刑される時が人生の最後だと思ったら、いろいろな現世での思い出が色鮮やかによみがえって来たのだ。死ぬまでの時間が長いから、走馬灯のようにフラッシュバックのように刹那でないのだろう。


 牢獄があまりに暇だと思って、ペンをとったら、いつの間にか、自伝のような物を書いてしまっていた。

 どうせ書くなら、俺が持っている前世の知識を書き残しておけばよかったと少しだけ後悔した。また、俺とダーネイが入れ替わっているということを残してしまうのは不味いということに今更ながら気がついた。

それに、ルーシーとダーネイには恥ずかしいから読んで欲しくない。


 地下牢に大勢の人が入ってきた。俺はいよいよらしい。この羊皮紙を燃やしてくれという願い言くらい、聞き入れてくれるだろう。


 最後に、これだけは書いておきたい。


 良い人生だった。後悔は、無い。

読んでくださってありがとうございます。感想いただけたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう話好きです〜! ただ、他者目線での後日譚があるとめちゃくちゃ嬉しいのですが… 良くも悪くもあっさりしすぎって感じがあるのかもしれないです…!(主観的な意見です…)
[良い点] いい話だった。 [一言] ルーシーとダーネイのその後の話が読んでみたいです。
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